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「ギスギスオンラインがしたい」


 そうだ。ギルドを抜けよう。私は急に思い立った。

 あらゆるコンテンツを楽しみたいタイプの私は、今までの自分に足りないものにきづいたのだ。

 

 すなわち、ギスギスが足りない。


「え~」


 あゆゆちゃんが驚きの声を上げる。


「リリアンさんを切ったりもしたけど、他に波風がない。今のギルマスの旦那愚痴はギスギスじゃなくてイライラするだけ。何か種類が違うし、もっと何かいかにもオンラインゲーム的なギスギスギルドの派閥とか相方恋愛劇嫉妬ドロドロとか姫プレイヤーによるギルド崩壊とか見てみたい」

「・・・」


 人間関係のギスギスはオンゲの花だ。下世話下劣? いいじゃん別に。

 オンゲには万人の楽しみ方がある。

 肯定する必要はない。必要なのは運営が定めたルールを逸脱しないこと。暴言などは普通に運営が禁じているし、実はほとんど現実世界とマナーは変わらない。

 その中で個々人が楽しんでいる。その楽しみ方を自分が嫌だからと言って、否定しない寛容さがあとはあればいい。

 一番嫌がられるのは、正義面した押し付けじゃないだろうか。

 大体私は多少仲良くなった後は、ストレートに欲望のままに言動垂れ流ししており、あゆゆちゃんに対しては特に雑であった。

 空腹を感じたら、


「腹減った」


 と何も考えずに打ち込む。無理にスマートな会話必要ないし。


「今凄いトイレ我慢してる」


 とか。私の脳内を9割方占めている事象について説明すれば、


「トイレ行きなよ!」

「でも今ボス」

「ボトラー一歩手前だよ!」

 

 ああ、楽です、はい。

 何故なら圧倒的に楽だから。偽ると疲れて楽しくないからだ。

 さて、ギスギスみてみたいと言う私に、あゆゆちゃんはいちおう真剣に考えてくれたようだ。


「ん~、ギスギスギルド、私も知らないなあ。意外と見ないよね」

「そうなんだよね。いかにもギスギスしてますってギルドを一度見てみたいんだけど」

「表からは分かんないし、多分すぐ崩壊するからじゃない?」

「あ」 


 はい、終了。

 というわけで、期待せずに再び放浪することにした。新しい出会いもあるかもしれない。 ていうかそっちがやはりメインかな。もっと交友広げたい。これまでにないタイプの人と交流してみたい。ギスギス見てみたいというのも、その辺に由来する。あったことのない人、あったことのない人種。タイラントは広いのだ。もっと楽しまなくては損だろう。出会いこそが楽しみ、別れもまた楽しみ。

 一期一会というやつだ。

 しかしそれも、まず自分が動かないと出会いすらやってこないからな。

 これも現実といっしょだね。

 ぽこぺん組の主婦ギルマスたむ~むさんに相談した。


「もちっと交友関係広めたいんで、エルフだけ抜けます。悪魔男は残りたいんですけどいいすか」

「OK!」


 私は新たなギルドを求め、大きな町の広場へと向かった。

 相も変わらずギルド勧誘合戦が激しい。

 ギルドメンバーが増えると、ギルドクエストや攻城戦、野戦などの対人コンテンツによるギルドポイント獲得がはかどるからだ。

 ギルドポイントを消費して拠点となる侵略不可能なギルドハウス、以下侵略可能な砦、領地、城などを獲得し、他ギルドと同盟を結ぶなどして大きな戦争コンテンツで覇権を取ることも一つの楽しみである。

 ギルドレベルが上がれば、召喚獣や簡易砦、バリスタ、投石機なども呼び出せるようになる。そしてこの召喚には半端ないギルドポイントを消費する。

 ギルドの紋章やフラッグ、爵位などの称号、ギルドメンバー専用ユニフォーム、カラーリング、とかくギルドレベルが上がれば恩恵も大きい。

 わあい、ギルドメンバーはギルドクエスト奴隷になれるね!

 とはいえ、在籍していたぽこぺん組はギルドクエストも適宜各自任せ、率先してやっているのはギルマスくらいだ。

 ぽこぺん組出奔前、私はギルドクエストというものをよく理解しておらず、関心もなかった。

 その意識が一気に塗り替わったのは、後に自分がギルマスになってからだった。

 今日からいくつかギルドを回った後、私はまた急に思い立って、ギルマス自分=ギルメン自分一人というソロギルド『ぼ(´;ω;`)っち』を立ち上げて、一人ギルド育成マゾゲーを始めたのだ。

 恐ろしいことに、『ぼっちーむ』でギルド立ち上げ申請したところ類似名チームが山ほど出て申請脚下された。どんだけぼっちギルド多いんじゃ。

 ともあれ、このぼっちギルド、別アカウントで水増しすることもない。

 マジに真性ひとり。

 しかし、レベル11で降参した。

 一人でやるもんじゃねえ。

 ギルドクエストというのは、指定のモンスターを何十匹あるいは何百匹倒してこいとか、指定の素材を何十個あるいは何百個集めてこいとか、地味に時間を取られる単純作業が多い。

 そして大体5~10のクエストが毎日提示され、クリアすると翌日新たなクエストが陳列するのである。

 毎日毎日クエスト消化で頭がいっぱいになり、その日の日課クエストを必死の思いで終えても翌日またすべてのギルドクエストが復活している。ゲームをしているのか奴隷をしているのか分からなくなってゲシュタルト崩壊したからだ。

 出戻りでぽこぺん組にもどった私は、それからギルドクエストを手が空けばやるようになった。

 あの時のマゾゲーぼっちで毎日ギルクエ発狂経験が、ギルクエを気にするようにさせたのである。

 ぼっちの時と違って、ギルドレベルがじわじわと上がるのは楽しい。

 しかしギルドレベル上げというのはギルド崩壊の要素でもある。

 他のギルドの愚痴をたまに聞くが、「俺がひとりだけギルドクエしてやっている」「自分は貢献してギルドレベルあげてやっているのに他の奴は全然しない」という意識になると苦行になるようだ。はじめは自分がやらねばという意識でやっていたはずが、次第にギルドクエストをしないで自由にきゃっきゃわいわいしているギルメンに殺意がわいてくるらしい。

 ほとんど一人でギルドレベルをマックスまで上げたという自負が、カンスト寸前急にギルメンがそわそわしだしてカンスト後「みんなでがんばりました~!」などと記念撮影でもはじめようものならブチ切れて阿修羅となり暴れてギルマスに追放キックされる。


「怖い話っすね~」 


 本末転倒すな。とフレのフレのフレから聞いて、明日は我が身よなと私は思った。

 人手がいるギルドクエストをギルチャ募集しても「今ちょっと手が離せないごめん」と断られることはよくある。

 「してやっている」「協力してくれない」と意識がスライドしていかぬよう自戒しないとなーと思うのであった。

 てか、ギルドクエストめんどいけど、楽しいしね。タイミングあわないことも圧倒的に多いけど、他のギルメンが募集してて手を上げたり、断ったりすることもあるし、一緒になにかをやりとげるって楽しさのひとつだと思う。

 複数アカウントですらない、マジ真のぼっちーむでマゾゲーやってたから、余計に誰かがギルクエやってる! って毎回新鮮な驚きと感動があるのだ。

 一人暮らしで切れたら絶対補充されないトイレットペーパーが実家だと誰か補充してくれているような驚きと新たな感謝の気持ちである。

 一人ギルドって、本当に。本当に自分がやらないと1ポイントも増えないから。

 やってもやっても翌日の復活ギルクエみて本当に絶望するから。

 あれを思うと、協力するつもりはなくとも、偶然ギルクエ貢献してしまうメンバーがいるという現状は天国だね。ああ、天の国はここにあったのか!

 莫大なポイント稼げる戦争コンテンツは無理だけどね。

 ぽこぺん組はその名前から察していただきたいが、戦争コンテンツに耐えうるギルドではない。戦争に関しては、「戦争参加したいけど怖いな~」というメンバーが大半であった。

 グミグミ族まみれだから、仕方ない。

 グミグミ族アバタ―を選択するような人は、大体中身も「たのしいねー」「うふふ、たのしいねー」というタイプが多いのである。やり込み組は別だが。

 私は当初レべあげで忙しかったが、後には野良枠とも呼ばれる傭兵でガンガン参加していた。いやー、城の門を破壊するのは楽しいね!

 いい悲鳴だ!

 もっと聞かせろ!

 という状態になるまでに、時間は巻戻り、私は大きな町で新たなギルドを捜して歩き回る。

 二つほどギルドに入ったがログイン率が最初のギルド以下や、ボス挑戦権ができたらギルメン連れて行ってなどと言ってくるクレクレギルドマスターだったりとしっくりこない。

 どうもピンとこないなーとうろうろしていた私は足を止めた。

 え。

 通り過ぎてバックターンする。

 もう一度まじまじとみる。

 のび〇太がいた。

 8頭身の。

 ヘルメットヘアーに丸い大きな眼鏡、背中に大きな剣を背負い、黄色のシャツに半ズボン。


「やあ、ギルドに入らないかい!?」


 私は思わず入ります、と返事していた。

 お試しで、とギルド加入するなり挨拶チャットの嵐だ。


「よろしくね~」


 と次々に挨拶がくる。私はいちおう釘を刺した。


「お試しということで、数日で抜けるかもしれませんが、なにとぞよろしくお願いします」

「w」

「w」


 またも草を生やされた。正直にやっているのだがどこにいっても草がついて回る。意図せずして生やされるとこちらも「w」て感じになるな。この草失笑の意でもあるが、汗をかくという意味もある。苦笑的な意味だととってもらえばよい。やや苦笑いだったり、うけていたり、ある事象に対して「おいw」的に心がひとつになっていたり、びみょうな心情をあらわすときに、人は草を生やすのである。

 さて、入ってすぐにわかったことだが、このギルド、戦争のミニマムコンテンツとも言える闘技場コンテンツプレイヤーの多いギルドだった。

 闘技場というのは、最低50VS50の戦争コンテンツと違い、敵味方最低8名最大12名からなる対人コンテンツだった。

 闘技場フィールドにおいて、4~6名のプレイヤー同士が一チームとなり、独自の闘技場ルールの元戦闘を行う。

 戦争するのには日時指定など宣戦布告から時間も用意も準備がかかるが、闘技場はやりたいときにいつでもできる気軽さが売りだ。

 私はたまに野良で参加していたが、


「え、タラオさん闘技場やってんだー」


 と判明するなり、


「闘技場やろうぜー」


 との〇びた君ことQチェロさんによく固定で誘われるようになった。


「タラオっち、いこうぜいこうぜー」

「いくいくー」


 てなもんである。

 他のギルメンも参戦してくる。ギルマスである斧狂戦士のアマゾンさん、忍者マスターのQチェロさん、斧聖騎士のひらめさん、攻撃特化ダンサーの私。

 回復が誰一人としていない。


「脳筋パーティーか……」


 思わず待合室で呟いた私に、


「燃えてくるよなっ」


 Qチェロさんが言った。アマゾンさんがおそらくは死んだような顔で、


「ひたすら特攻あるのみよ……」


 とおっしゃった。そして我々は……ひたすらに突っ込み、死亡し、ゾンビのごとく控室でよみがえり、またもや敵陣に特攻し果てた。


「負けた……」

「次」


 アマゾンさんは淡々とおっしゃった。闘技場では『対戦相手募集中』の待機ルームさえ開いておけば、条件が合致した敵PTと自動マッチングする。

 再び負ける。


「次」


 我々は……我々には回復がいなかった。

 そこでQチェロさんが言った。


「タラオっち、遠隔複数攻撃できたっしょ。俺らが真正面引きつけっから、タラオっちが右からこっそり行って、ぶちこめばいんじゃね?」

「うむ」


 我が軍営を虐殺し、陣こもりして壁役が後衛を守る敵陣営。

 私は遮蔽物の影に隠れ、迂回路をとってこっそり右から忍び寄り、桜花天功という複数大ダメージ技を叩き込んだ。

 はい、大量得点持ちの後衛死亡。ごっそりいただきますぜ。

 真正面で守ってた戦士、横から抜かれてザマァ。ザマぁあああ!!!


「やったぜ」


 大量得点を獲得した私は慌てて味方陣営に引っ込んだ。しかし、ダンサーの守備は戦士に比べて紙。後ろから鬼の形相で盾を外して大剣を手にした戦士が追いかけてくる。そりゃ鉄壁守護を抜かれてむかついたよね。あはは、むかついたよねえ。って、


「アーッ殺される、殺されるぅうううううう!!」


 友軍を呼ぶも、大ダメージ技を脳天にたたきつけられて昇天。


「たらおっちーーーーーーー!!!」


 チェロッちの悲鳴が聞こえる。

 オラは死んだ。

 そして試合も負けた。


「はい次」


 アマゾンさんはおっしゃった。

 我々にはこの言葉がふさわしい。

 俺たちの戦いはこれからだぜ!

 一応何回かは勝ったよ!

 んで、私は一週間後にギルドを抜けた。何人かとはフレンドになっており、その後も狩りやボスなど声がかかる。ギルドを抜けてもフレンドは切れない。絡みは減るけどさ。これがギルド放浪の理由だね。

 ギルドを抜けると、やっぱりギルマスのアマゾンさんから「どうしたの?」と心配された風のチャットがきた。


「ご挨拶が遅れてすみません」


 私は今回ギルチャでオンラインメンバーにのみ脱退意思を伝え、さっさと抜けていた。元々お試し期間で在籍していた上、他のお試しメンバーがギルチャで一言断って抜けて行くのをこれまで目撃していたためである。ほら、メールとか重いしめんどくせーし。


「いや、いいよ~。ただ、なんかあったかと気になってね」

「実は急にボッチギルドを作りたくなって抜けました」

「w」

 

 そう。この時、私は急に真性ボッチギルドを作りたくなって、思い立ったが吉日ギルドを抜けたのであった。


「そっか。自分のギルドは好きに色々設定できて楽しいしね。がんばってね」

「はい」

「でも寂しくなったらいつでももどってきてね」


 いやー、やっぱほぼカンスト寸前のギルドマスターってのはフォローが凄いね。

 感心しきりの私であった。


「ありがとうございます。離縁された嫁が実家に戻るように土下座して戻る日がくるかもしれません。その時はよろしくお願いします」

「wwww」


 正直な心情を比喩してみたのだが草が生えて終わった。

 ぼっちギルドを日々レベ上げしているさなか、最初にいたギルド『waiwaiwai』について、あゆゆちゃんからこっそり連絡があった。


「タラオっち、もしもどるなら急いだ方がいいよ~」

「?」

「これ、ないしょだよ?」

「フレいねーし、漏れねーし、だいじょうぶ」

「w あのね、すいみーお姉ちゃん、もう限界だって」


 え。

 なんか不穏になってきた。


「メンバーがログインどんどん減ってて、止めようとして色々やってみたけどダメで、もうどうにもならなくて。限界だって、言ってた。だからもどるなら今」

「そっかあ」


 私はちょっと後ろめたくなった。ギルド出奔する前、すいみ~さんから、なにかやりたいことある? と聞かれ、大型コンテンツボス討伐にギルメンで行きたいな~って言ったら、「やろうかな」って言ってたんだよね。でも私は抜けた。

 うう、心が、ないはずの良心が痛む。


「でもやっぱ戻らないかな。リリさんの件もあるし、やっぱイン率低過ぎて」

「だよね」


 そして私はぼっちギルドがレベル11になった時点で心が折れ、元のぽこぺん組に復帰したのでございます。

 はい。

 アマゾンさんのギルドはなんかちょっと合わんかった。団結力があるっていうか、ギルドイベント多すぎるし、やっぱ放置気味のギルドが性にあうよね。

 正直、ギルドイベントなんて忘年会とかクリスマスパーティとかただ一か所に集まってわいわい騒ぐだけ、拘束時間はんぱねえ。めんどくせーし、レべあげするし。

 その後、あゆゆちゃんから再度連絡があったことには、


「ギルド解散は止めて、ギルマス交代したよ~」

「ほーん誰」

「ソウメイさん」

「……あ、はい」


 ちょっといつでももどりやすくなったんじゃね~と思ったけど、止めた。

 

「すいみ~さんどう?」

「気が楽になったみたい~」


 よかったね。でもぶっちゃけ、すいみーさんあんまり好きじゃない私であった。

 なんでや、と言われそうだが、すいみーさん、右も左も分からない頃に、リアルについて根掘り葉掘り聞いてきたいきさつがある。

 あの時はスマートに誤魔化すということもできず、特定されないあたりさわりのない範囲で素直にほいほい答えてしまったが、オンゲ続けるにつれ、悪気なくリアルについて質問してくる女性陣にはへきえきしている現在であった。

 すいみーさんといい、あゆゆちゃんといい、アマゾンさんといい、皆一律に性別をぽんぽんと質問してきた上、あゆゆちゃん以外はかなりつっこんだことを聞いて来た。

 アマゾンさんは、質問すると同時に自分についてもオープンであったが、すいみーさんは質問するけれど自分については黙秘。

 今思うと、それってどうなん? レベルである。

 ギルドマスターがそういう姿勢だと、ギルドの気風もやはり左右される。

 リアルについての質問がタブーとならなくなってくるのだ。

 その点、ぽこぺん組はギルメンにいたるまで、リアルについて自分語りはしても、他者に尋ねない雰囲気ができあがっている。

 やっぱりさ、リアルの話もいいけれど、ゲームしたいよね。

 ロールプレイしちゃってもいいじゃん。

 せっかくファンタジーなんだからさ、タイラントの世界を楽しませろよ。

 オラは冒険者なんだぜ! って感じすよ。

 私は次第に一人称を使い分けるようになっていた。

 初対面の時、悪魔男では「僕」。ある程度慣れてきたら「自分」。

 エルフ少女の時は「オラ」。

 道化役や性別を誤魔化すために始めたことだが、なんか定着してきた。おそろしいのぜ。


「きんかん~」


 ある日あゆゆちゃんがうめき声のようなチャットを寄越して来た。


「きんかん~~」


 無視していると、ずっとうめいている。おそらく、金環と言いたいのであろう。

 ついに私は尋ねた。


「レアアイテムがほしいの?」

「うむ」

「狩りたいの?」

「うむ」


 レアアクセサリー狩りに行きたいようだ。以前アクセ狩りなんてめんどぅいいいと言っていたくせにどういう風の吹き回しだ。

 金環を落とすのは、フィールドボス蛮族ロックウォーリーアーという上半身筋肉もりもり族のレア版モンスターである。

 灰色肌がホワイティーにホワイトニングされて金色の装身具に身を包んだ蛮族王ロックキング。王が重複しとるがな。

 今日はもう落ちるというので、後日手がいるなら手伝うで、とだけ言っておいた。

 その後日、


「かおす~」


 というチャットが。

 キングでなくてカオスらしい。


「手伝おうか?」


 合流すると、初顔二名。どうもあゆゆちゃんと同じ学生の匂いがした。あゆゆちゃんは管理する男どもとは別に、同じ年頃の学生ばかりが集まるコミュニティにも参加していると聞いたから、そのメンバーではないかと思われる。

 密閉型空間のフィールドボスまでひたすら走ってボス部屋についたら仲間を呼ぶという通称ボスマラソンが始まった。

 100回も走っただろうか、むしゃくしゃしてきたから雑魚でも狩りながらみんなで行こうぜ、ということになった。

 ええ、そういうときに限って出て来るんです。

 野良レイドモンスター。

 象型モンスターガネーシャさんが。複数腕にそれぞれ刀剣をもっている。でかい。重い。でかい。重い。モンスターがポップ(出現)する場面をばっちりみてしまった。

 いきなり空から降ってきたんじゃ。

 

「よんでねーのにきたし」

「どぅん!」

 

 あゆゆちゃんが言う。他のメンバーも、


「今すげー音したよな」

「ドカンって、音したぞ」

「重すぎ。象」

「ダイエットしろし」 


 私もコメントしておいた。


「膝屈伸きいてたな。膝屈伸で衝撃を押し殺したに違いない」

「w」

「w」

「どぅん!」


 あゆゆちゃんはまだ言っている。


「攻撃ー」

「あいよ」

「どぅん!」


 なんだかんだでカンストしきっていた私たちは、死傷者を出しつつもひたすら出戻りを繰り返して倒した。途中で「誰か助けて~」と援軍呼んだりもしたけどね。

 周囲チャット飛ばせば、援軍来てくれる人もいるんだよ。MMOのいいところだね。最大12名で倒せちゃうんだね。


「どぅん!」

「あゆゆうるせーよ」

「しつけー」

「どぅん!」


 何かに憑りつかれておる。


「あゆゆ有罪と思うひとー挙手」

「ノ」

「ノ」

「満場一致であゆゆは処刑」

「どぅ……どぅ、どぅん!?」


 今日もタイラントは平和です。


    


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