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久々のログイン話

 お久しぶりです、タラオです。

 と、謎の空間に向けて挨拶してみる。

 久しぶりのログインだった。

 もしかしたら、所属していたチャットルームから弾かれてるかもな~なんて、思いながら自分のアイコンを見ると、普通にカラーがついてる。在籍、という意味だ。

 しばらく、リアルで「……」って三点リーダー二つ分、間があいた。

 万感までいかないけど、なんていうか、その、色々な思いが、どっと巡る。

 チャットルームは、主催の人が個人的に作る小規模ギルドのようなものだ。

 人数上限が15名までなので、長い間ログインしていなかったし、除外されてるかな、と覚悟を微妙に決めての確認だったのだ。

 ところが、

「あ、タラオさん!」

 と、チャットルームの人たちが普通に声をかけてくる。

「ひさりぶりー」

「お久しぶりです」

 やー、なんかうれしい。

 リアルで、照れ笑いしてしまった。

 そんな大げさじゃあなくて、本当に「久しぶり」「ひさしぶりー」って普通に挨拶。

 ネトゲってさ、この、いつでもログインして、いつでも誰か何かいるのがいいよね。

 へへ……

 もし弾かれてても、大きな街に行けば、雑踏に身を置けば、色んな白チャット――相手を特定しない、誰でも聞こえるチャット――が聞こえてくるだろうしさ。

「タラオさん、もうサマービーチやった?」

 グミグミ族のルーミーさんが聞いてくる。

「サマービーチって? 時の流れに取り残された情弱だから知らないです」

「ww 夏のイベントです。よかたら、いく?」

「いくいく」

 というわけで、パーティに入れてもらった。

 すでに、ルーミーさんはパーティを組んでて、チャットルームのゲンさんが「よろしくお願いします」とあいさつしてきた。

 これは、パーティ組んだ時の様式美みたいなもんだ。

 どんなに仲良くても、皆口にする。

 なお、このゲンさん。

 エルフ族の男アバターを使っているが、中身は女子。

 職場で地獄の苛めにあい、今でも話題が出ると荒む。

 しかし、非常に共感力が高くて、相談なんかすると、とてもまじめにアドバイスくれて、とてもいい人。 

 でも、前職の話題になると、荒む。

 さて、グミグミ族のルーミーさん、転職女子のゲンさんも交えて、サマービーチにやってきました。

 参加したら、「ヘル・サマービーチ」だった。

 なにそれw

 おおぉぉぉう?!

 サマービーチ来たら、なんかすごいの出てきた。

 筋肉凄い巨人。

 パンイチ。

 したまつげ濃い。

「夏の! ヘル・サマービーチへようこそ!」

 歓迎のセリフ吐いてるが、どう考えてもエネミーです、ありがとうございます。

 案の定、ビーチはマジにヘルと化した。

 巨人が口から火をふく。

 四方八方から、なんかやばいスイカとか、やばい浮き輪とかビュンビュン投げつけられる。

 被弾すると、ダメージを食らい、一定値になるとあえなく退場。

 なんだ、ここは、サバイバルゲームだったのか。

 花火を拾って、巨人に投げつけると、向こうもダメージを負うようだ。

 あ、スコアが画面に出る。

 ほうほう、このスコアを稼げばいいんだな。

 って感じで、中々ヘルなサマービーチであった。

 得点ごとに報酬が用意されているようだが、これ、3分以内に敵を倒さないといけないみたい。

 無理wwww

 長くても5分にビーチは設定されていて、5分すぎると終了。

「むきになるね、これ」

「わかるー」

 結局むきになった僕らは、巨人を倒すまで! 殴るのを! 止めない! マシーンと化した。

 花火でこんがり焼くぜ!

 死ぬといいんじゃないかな! 私のために!

 かなりの時間と精神力を消費しながら、どうにかクリア。

 その後、工場長(過去作を参照、女工を大量に生み出した伝説の職人)のマンダリンさんがやってきて、 

「私も、サマービーチやってきます、席空いてますか?」

 と、私と交代にパーティ加入された。

 そして、

「あ、クリアしました~」

 一発でクリアなされた。

 しゅ、しゅごい!

 なんなん、ギガント族女子って、大概廃人だから、さすがのマンダリンさんであらせられた!

「マンダリンさん、イカでペイントしまくるゲーの賜物?」

「いえ、ミャリオカートですね」

「ああ、ミャリオカートか。あれ、背後から甲羅ガンガン飛ばしてくる地獄のサバイバルゲーだもんね」

「ええ……ぎすぎすします」

 何があったんだ、マンダリン氏……

 それから、久々に迷宮潜ったりして、レア素材集め。欲しいのは、冥王竜の鱗。

 ほんと落ちねーな!

 こんなの60個集めろとか、あと37個かよ!

「冥王竜が、鱗を落とさない…」

「あれ、しぶいですよね」

「えぐってえぐってえぐりまくってるけど、あと37個もいるよぉ。そうだ、ルーミーさんて、ガチグミだよね」

 ガチグミとは、かわいらしい二等身の姿とは裏腹に、廃装備、廃資産、廃プレイに勤しむ戦闘グミグミ族のことである。

 かわいい顔して、並のプレイヤーより、ガチ……

「そんなことは ないです」

 とか言ってるが、きみがガチグミで、バトルにむきになるし、お祭り騒ぎ大好きだし、死体生産するのがとても好きなのは知ってるからね……

 運営が、明らかにバランス調整間違えたボスを投入した時、「ボスの入り口、死体がいっぱいでたのしかった」って言ってたの覚えてるからな。

 結局、この人は、お祭りが好きで、たくさんのプレイヤーが動き出して活気感じるのが喜びなんだよね。

 ははっ、そういうところ、私も大好き。

「相当冥王竜の鱗貯め込んでいるのでは……」

「どだったかな」

 ドラ〇もんみたいに、両手をポケットにつっこんで、ごそごそ確認してる絵面が浮かんだ。

「けっこう、ありました」

 数をいわないあたり、相当貯め込んでおる。

 ゲーム内でも、高額資産持ってる人や、レア装備持ってる人って、はっきり言わん人多い。

 中途半端な額だと気軽に言うが、まあ色々気遣いとかなんかあれなんだろう。

 と、一回で高スコア叩き出したミャリオカートの女王のマンダリンさんが会話に加わってきた。

「不正」

 いきなりギスりだしたな!

「養殖しているのでは……」

 いきなり疑惑! してねーだろw ていうか、ハッキングかよw そんな仕様ねーよwww 地道に、鱗剥ぐしかねんだよwww

 と思ったが、

「養殖してるなら一枚噛ませてほしい」

 気づいたら正反対のチャットを打ち込んでいる。

 マジで! @37枚も鱗剥ぐのは大変なんですう。レア素材だから、冥王竜倒しても、確実にドロップするとは限らないんだってばよ。

「密売ですね……」

 マンダリンさんがなんか言い出した。私もつい、悪乗りしてしまう。

「セイラムの1鯖、木箱の横で密売人が声かけてくる」

 セイラムとは、大きな街のことで、ここで募集白チャットがよく飛び交っている。

 楽して稼ぎたい。そんな夢を見たい。

 マンダリンさんが続けた。

「そうして、財を築いてきた……」

 ルーミーさんが口を濁す莫大な資産は、そういうことだったのか。

 そろそろ、いくら温厚なルーミーさんでも切れるのでは、と思いだしたのだが。

「カネがカネを呼び、時には人に言えないことも……」

 乗ってきたw

 しかし、マンダリンさん曰く、

「グミグミ族なら、不正してもかわいいから許されます」

 こっちがガチグミ信者だったw

 そうだね、同じことやっても、許される種族と、許されない種族があるよね。

 私も、悪魔男だったら、許さないね。

 グミグミ族は、タイラント世界のヒエラルキー頂点だもんな。

「ここでしか言えない話ですが、実は運営から毎月1000万ペソタ振り込まれます」

「贔屓かよ!」

 思わず叫んだら、

「補助金ですね」

「www マンダリンさん、その言語センス、どっから……」

「海外ドラマです」

 って、どうでもいい話を延々してる。

 なんやかんやで私はまた迷宮へ。

 なんだろなー。

 タイラント。

 タイラント大好き! って感じに、めちゃおもしろいわけじゃない。

 ゲーム全体のメインクエストになる、グランドストーリーは、アップデートのたびに、後回しになってきた。

 なんでタイラントやってるのか。

 長期間休んでも、また、ふっとログインして、そんでまた休んだり。

 タイラントはさ、タイラントにはさ、人がいる。

 結局、それなのかな。

 ログインしたら、人がいるんだよなー。

 いつか過疎になるのかもしんないし、長期間休止したら、チャットルームも解散してるかもしんない。

 200人いたフレンドが、もう誰もインしてない、って闘技場仲間の悪魔男が言ってたしな。

 フレンドも、だーれもいなくなってるかもしんない。

 あゆゆちゃんも、自称女子中学生だったが、今はきっと高校生。リアルが忙しいのか、さっぱりインしなくなった。

 ソウメイさんも、多忙なのか、常にアイコンは灰がかり。

 そんでも、やっぱり人がいるんだな。

 セイラム鯖1に行ったら、白チャットやっぱり飛び交ってるだろうしさ。

 ゲームが終わるその日まで。

 雑踏の中に、私もいる。

 しがらみも、あるようで、ないようで、あるようで、やっぱない。

 嫌になったら、切ったら終わり。

 それで不利益被るっつっても、リアルに比べたらないも同然よ。

 自由じゃん。

 身が軽い。

 誰にも遠慮いらないよ。

 マナーを守って、私は私の好きなようにする。

 どこまでも冒険できる。

 タイラント世界をさ。

 野良でパーティ組んで、

「よろしくお願いします」

 解散したら、

「またどこかで!」

 この挨拶好きだな。

 また会うことなんて、ほとんどないだろうけど、またどこかで! って素敵な挨拶だな。

 またお会いしましょう。

 あなたが、現実の生活環境変化で、ゲームを休止されたり、遠ざかったり、止めたりしても。

 また、お会いしましょう。

 つって、別れる。

 戻ってくる可能性ゼロでもないんだから、この挨拶は嘘じゃない。

 タイラントにはさ、人がいる。

 ゲームなんで、風なんか吹いてるわけないし、そのエフェクトは0と1だ。

 でも、やっぱ風感じるんだな。

 私も風に吹かれて、好きに冒険できる。

 なんかさ、大海に、帆を張って、漕ぎ出してくみたい。

 乗船している人を、私は認識できない。

 いつの間にか、一緒に漕ぎ出したはずの乗組員は、消えてる。

 新しい乗組員もいつの間にかいる。

 見知らぬ同士で、クエストしたり、別れたり、またお会いしましょう。

 そんな久々のログインでした。  




 

 

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