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10の後編

 私、タラオ。

 今あなたの家の前にいるの……



 リアルでやる羽目になるとは思わなかったタラオです。ちわっすおっすおっす。

 タラオの明るい健康的ストーカー生活が幕を開けた。

 ストーカーするには、みやるんさんのプロフィールやマイページを開く必要があります。

 タイラントの各街に設置されたコンソールからは各自のプロフィールが閲覧できる。

 また、公式サイトから、個人ログイン用のマイページに入れる。

 これらのプロフィールやマイページは、他のユーザーに対しても公開可能である。

 公開情報は個々人でいくつか制限できるのだが、名前以外丸ごと非公開ということも可能だ。

 そして、みやるんさんはがばがばだった。

 ほぼ公開されており、インしていれば、現在地欄でどのサーバーのどの町にいるかまで分かる。

 正確には、30まで存在する鯖のいずれか及びマイハウスと呼ばれる自宅鯖のいずれかと、各鯖のどの町やフィールドにいるか、などがおおよそ分かる。

 インしたらすぐに突撃できるようにたびたびマイページを監視するタラオ。

 あ、ああ。

 たまりません。

 探偵ストーカー生活まで味あわせてくれるとは、タイラントやってくれるぜ。

 タイラントには、十人十色な楽しみ方があります。ご利用は理性的に。

 みやるんさんちの家がどこにあるのか分からなくて、一度皆で集まったことがあるけれど、誰も該当番地を控えているわけもなく、四苦八苦したが、記念写真を撮っていたことから、番地が割れたりと探偵業はかどること楽しいいぃ。

 メインイン時間が被ることの多いゆうとさんに現況を報告しつつ、


「私、今ストーカーみたいですね!」


 とうわずって言えば、


「ストーカーそのものだよ……」


 と塩対応が返って来た。私可憐なエルフ娘なんだから、もっとちやほやされてもいいと思いますがね!

 

「そういうこと言うからですよ」


 ゆうとさんの塩塩対応に磨きがかかる。正直こういう対応の方がこっちも気楽なので、まあ一種の茶番である。

 親切にされるとかえって動揺するわ。春本みたいなことタラオにするつもりね!? 

 ともあれ、元メンバーと連絡をとりつつ、元元ギルドのグミグミ族ルーミーさんから私設チャットルームに誘われた私は、こちらにも報告を行っていた。


「ちょっといいすか」

「はい?」

「もう皆さん対応済かもしれんすけど、ギルマスがアカウントハックされた可能性が浮上してて、私もやべーなって思って今知人にはトークン入れときましょうって話てるんですあ」

「えっ」

「えt!!?」


 グミグミ族のルーミーさんや中間管理職のスケさん、二人ともなんというか純粋な人たちだ。普通に驚いている。

 私は別に暴言闘技場チャットルームにも参加しているので、落差に時々驚く。こないだ間違って、闘技場のメンバーからの「ハイエナできないアーチャーってどう思う?」という質問に、「万死に値する」という回答をこちらへ誤爆して、ルーミーさんたちが動揺していた。


『え、ば、万死ですか!?』

『すません、誤爆です』


 マジタラオ万死。

 そんなタラオのことを、ルーミーさんたちは心配してくれる。この人らマジ天使。


「大丈夫なんですか?」

「あ、はい。今元メンバーたちで調べてるんすよ。まだ確定じゃないんですが、アカウントハックって結構身近にあるもんすね。皆さんもお気をつけて」

「アカウントハック……」


 呆然気味に打ち込んでいるグミグミ族や中間管理職を思うと、私はぞくぞくした。

 汚れててすみません。私何のゲームしてるんだろ。時々賢者タイムになることがある。しかしそれすらも愉悦。

 はっ、もしやこれはプリン○セス○メーカーを一人プレイしているソウメイの罠!?

 私は邪念こころのソウメイさんを払い、ギルド消失からアカウントハックではないかという推理にいたったことまで簡単に説明した。


「飽きてポイしたのかもしれないんですけど、タイミング的に妙すぎて、動きがおかしいんですよね」


 そう。みやるんさん、いつも夜の十時にはログアウトしていたのに、アカウントハックされたのでは? という日から、夜の午前一時までインしているようなのだ。


「私も実はトークンめんどくさくて入れてなかったんすけど、この機会に入れたんす」

「トークン、わたしも、いれてない、です」

 

 ルーミーさん切れ切れに言う。


「やりかたわからない…」


 だよねえ。ライトユーザーには難しいんだよね。公式サイトに誘導して説明しつつ、ルーミーさんは四苦八苦してなんとか一週間かけて導入成功するのだが、一つ、トークンには罠があるんですねえ。

 セキュリティトークン自体を、ユーザーが紛失してしまった場合、ゲーム筐体があっても、ゲームにインできなくなるという罠が。

 キーホルダー型のトークンを紛失したり、アプリを入れたスマホを壊してしまったりなどした場合、インする際に要求されるワンタイムパスワードを入れることができなくなってしまう。

 つまり、ゲームできない。

 セキュリティトークンの性質上、これを紛失したからといって安易に解除することは非常に難しい。

 赤の他人が「トークン紛失したんで、入れるよーにしてくださーい」と運営に訴えることも可能だからだ。

 それをホイホイ許可していては、マジに乗っ取りが横行してしまいますがな。

 そのため、再度インするとなると、運営に身分証明やなんやかんやを郵送提出してあーだこーだとすんごい大変なことになる。


「セキュリティトークン紛失した際に備えて、強制解除パスワードは控えておくようにしたほうがいいすよ」

「??」

「強制解除パスワードは最初にきたメールに確認方法が書かれていますから」

「は、はい~」


 などという話をしていたら、廃職人マンダリンさんがやってきた。


「アカウントハックの話ですか? 私もやられました」

「ええええっ」


 びっくりした。マジに身近に被害者おったがな。

 

「私実は出戻り組で、ずっとアカウント放置してたんですよね。久しぶりにインしようとしたらできなくて、そしたら身に覚えのないメールがきてて、パスID変更されてて。アカウントハックされてたみたいなんです」


 恐ろしい話であった。

 この話を受けて、そそくさとトークンを入れに走る者数名。

 やっぱり拡散大事だね。

 そんなこんなでプレイしていたタラオでございますが、ついに!

 みやるんさんが自宅にいるのを感知!

 

「みやるんさんが自宅におる! 突撃してきまる!!」


 ゆうとさんに報告して、私は転移テレポートした。

 私、タラオ。

 今、あなたの家の前にいるの……


「みやるんさん!」


 業者かもしれない、と恐怖を覚えつつ話しかけると――


「あ、タラオさん、こんにちは~~」


 ゆるい。

 みやるんさんご本人であった。

 アカウントハックじゃなかったんですねえ。


「みやるんさん、突然ギルド解散されたから、どうしたのかと連絡のつく元メンバー皆で相談してたんですよ」

「え、え~。そうなんだ~」


 謝罪もない。ゆるい。ゆるさの極地であった。気が抜けるわい。


「なんで誰にも言わずに解散を?」

「え~、なんか最初にいた~、ルシファーさんが抜けたし~」


 ルシファーさんて初期にみやるんさんが勧誘してきたメンバーだったかな。ぽろっと零したみやるんさんに、タラオは察した。みやるさんが間延びして喋るのを遮って、


「アカウントハックされたんじゃないかって、元メンバーで心配してたんですよ」


 と言ったら、「えー、ほんと~? そっかあ」と大変ゆるいお返事であった。


「えっとね~、実はね~」


 彼女は説明を始めた。

 時はお盆。

 帰省中のお兄さんにコントローラー奪われて、フレ削除にギルド解散といろいろいたされたらしい。

 色々話を聞きながら、本当かもしれないけど、やっぱり飽きたんじゃないかなあ、と思った。

 すでに彼女は新しいギルドに入っていた。

 怒り?

 わいてはこなかった。

 十分探偵を楽しませてもらったしな。

 

「まあ、アカウントハックじゃなくって、何よりでした。かえってよかったですよ」


 割と本気でそう言った。ホントね、悪い業者に垢ハックされて丸裸にされたユーザーなんておらんかったんや。それで十分よ。

 ただね、ひとつだけ。


「私ね、あのギルド結構好きだったんですよ。ゆるいみやるんさんに、参謀タイプのハルカさん、出戻りのゆうとさん。いい雰囲気でしたよね。居心地よかった。四人で初めて低いレベルのギルドを育てて行く。凄い好きだったんです」

「そっかあ。ありがとう」


 みやるんさんは文字だけなのに、ちょっと考え込んだみたいな感じだった。

 私の勝手な思い込みかもしれないけどさ。

 私は事の顛末をハルカさん、ゆうとさんに報告した。

 あのギルド好きだった。出来ればもう一度とも思ったけれど、一度起きたことは取り戻せないよね、とゆうとさんはぽつりとおっしゃった。

 前と同じにはできないよね、と。

 別に怒っているわけじゃない。それは伝わってきた。ただ言葉通りなのだ。

 ハルカさんにも、私は「ゆるいみやるんさんに、参謀タイプのハルカさんで、凄いいい感じであのギルド好きだったんですよねえ」と言ったら、「うん、本当いい感じでよかったよねえ」って同意してもらえてうれしかった。

 泡沫のように結成されては消えて行く無数のギルド。

 一つの可能性。

 ちょっと寂しかったけど、でも楽しかったよね。

 色々な意味で楽しませてもらった。主に探偵ストーカーとか。

 そんな顛末記です。


 

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