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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.4 Conspiracy
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八十一話 不気味な店

「いかにも怪しい店構えね」

「そうだな」


 俺達は、口にした言葉通りの印象しか感じない建物の前にいた。


 何よりマズいのが、建物というよりその店先を彩る展示物である。

 妙な鳥の入った籠とか、妙な色の汁の入った壺だとか、何に使うのかわからないまま垂れ下がってる金物とか、小動物の小骨を組んで作ったようなキモくてカワイくないアクセサリー的な何かとか、観葉には堪えないルックスの植物だとか。

 完全放置状態ではあるが、たとえ頼まれたとしてもこんなもん盗みたくはならないだろう。実は価値のあるものだとしても、理解したくはない。商品なのだろうが、こんなもん誰が買うんだ。


 しかし、ぐねぐねと路地を曲がって、横切って、迷った末に辿り着いた場所がこれでは何とも報われない気がするが、どうだろうか。


「間違っちゃいないはずだ。多分」


 サンデル・マイス商会で以前聞いた魔導具屋っていうのはここのはずだ。ここ以外にそれらしい店はなかった。

 こんな怪しい所と提携しているのかと思うと変な気分だが、


 店の中に入っても、異様で薄暗い雰囲気は変わらなかった。所々でまた奇妙な物体が光を放っているのが怪しかった。それが照らす商品群も。

 が、奥に行くに従い、不思議なことにその雰囲気は薄れていく。

 商品が、ナマモノ的なものから金物類、無機物へと変わっていったからだ。


「これ何? 反物? 布?」

「布……ですね」

「店が違うんじゃない?」


 キリカとシオンが話している横で、俺は棚に置かれた物体を見ていた。

 籠手だ。いや、腕輪といった方が近いか? 防具としては使えなさそうな、華奢な見た目だ。かといって装飾品にしては目立ち過ぎて少々ゴツいようにも見える。扱いに困りそうだ。


「杖もあるな。魔導具の武具、か?」

「冷やかしなら帰れ」


 突然、店の奥から声が。

 驚いて振り返って見ると、天井から垂れ下がった鎖を掻き分けて、奥から出てくるジイさんがいた。

 偏屈そうな顔に、灰色の髪。歳はいってそうだが、背筋は伸びててガタイもいい。服装も市民っぽいなりで、あまり魔導師という感じには見えない。


 では何故魔導師とわかったか、というと、明らかに魔法に習熟した人間とわかる魔力の流れ方が見えたからだ。


「小僧ども、ここはお前らの欲しがるもんなんかないぞ。盗むもんもな」

「は? もしかして万引きか何かと思ってる?」

「違うのか?」


 どこをどう見たらそうなるのだ。というかこの態度は、来る客全員を万引き犯と見ているのだろうか。


 いや、だが、待てよ。

 感覚が麻痺しているからアレだが、実際俺みたいな二十歳そこそこの魔導師なんて現実にはあまりいない。いたとして、貴族の子女が親の期待を過大に受けて子供の頃から英才教育「のみ」を受けて、残念無念に育った奴らばかりだ。


 そういうものなのだ。残念ながら、そういうのしかいないらしい。

 今まで出逢った連中は俺のことをただ珍しがるくらいで済んでいたが、それは俺のよく言えば人懐っこい、悪く言えば間の抜けたファーストインプレッションのお陰だったのだろう。

 そのお陰で、「実は俺、魔導師なんすよ」ってカミングアウトが穏便に通ったのだ。まあおおよそそれで間違いない。


 で、だ。

 このジイさんは多分、俺を魔導師と思ってない。普通はそうは見ないのだ。

 おまけに、連れが女の子二人というのも冷やかし感が増す原因だろう。アレか。チャラ男が女連れでメロ○ブックスとかとらの○なに来るような感じか。何か違うような気がするけど。


「誤解です。俺は犯罪者ではない」

「盗人はみんなそう言うだろうな」

「本当です。サンデル・マイス商会で質のいい魔導具屋を聞いたら、ここを紹介されたんだ。俺は客だ、一応」

「サンデルぅ? あの金満どもが、なんで出てくる」


 あれぇ? 提携してるって話じゃなかったっけ? 

 違うのか。ただ知ってるだけって話か。それでも付き合いはあるって言ってた気がするが、こんな言い方される程度の付き合いってことか。

 大丈夫かな……


「ま、まあ、それはとにかく」


 面倒なので本題に移る。偏屈頑固に付き合う暇はない。

 とりあえず、最初の用事からだ。俺は、背中に背負ってきた「がらくた」群を、適当にその辺の机に乗っけた。


「ちょっと、これを見てもらいたい」

「何じゃ、この鉄クズどもは……ん?」


 俺が出したブツを見て、ジイさんがぴくりと眉を動かす。

 それはそうだろう。俺が出したのは、黒い鎧の残骸、破片、部品、そして一本の奇妙な拵えの長剣──ギリングの遺品、つまり魔導具だからだ。


「小僧、こいつは……」

「客だって言ったろ?」


 睨むような視線を受け流しながら、言った。

 餅は餅屋、魔導具は魔導具屋ってわけだ。



 ◇



 まず目的の第一、ギリングの遺品である魔導具の鑑定をジイさんに頼む。

 その間、俺達は目的の第二、何か使えそうな魔導具の物色をしようとした。

 した、のだが……


「何に使うものか全然わかんねえ」

「これ……薬? 飲めるの? 凄い色だけど」

「何か変なトカゲが檻から見てくるんですけど……」


 そんな有り様だった。有り体に言って、物色にもなりはしない。

 そうなると仕方なく、店の奥の一角に広がっている金物類エリアに逃げ込むことになる。ここはまだ、ナイフだの杖だのといった用途がまだわかる品物があるだけ他より良心的と言えよう。


「といって、何を買ったらいいものか……」


 魔導具は魔力を使う。魔法式を織り込まれた道具が魔導具だ。

 必然、その使用者は魔導師がほとんどを占める。魔力を込めてあれば、何かしらの引き金を用いることで魔導師でない人間も使えるが、それでも大体は魔導師が使うものだ。


 そうなると、俺とシオンが何を使うかって話になる。さて何を使うか。


「普通は、杖とか使うものじゃない?」


 キリカの意見はそんなものであった。面白みはないが、まあ妥当か。

 しかし、そもそも魔導師の杖というのは魔力を安定化させ、魔法の発動を補助するために用いるものである。俺どころかシオンですら、無詠唱でほぼ実戦レベルに魔法を使えるというのに、今さら必要とはとても思えない。


「ビジュアル的にはあってもいいかもしれないけどな……」

「可愛いから?」

「可愛いから」


 即答すると溜め息を吐かれた。


「あんた、たまに結構アホみたいなこと言うよね」

「俺は元々アホだ」


 可愛いは大事。可愛いは正義だ。

 今のところシオンの魔導師ルックスはほぼ完成形に近付いているし、とりあえず持たせておくのは悪くないかもしれないな。必要はないかもしれないけど。それに、何かあったら護身用の武器にもなるかも。例のお古のナイフもあるし、そもそも魔導師用の杖が打撲に使われるのもどうなのよって気がするが。


「まあ、それは後でいいか」


 目的その一が解決してから、ジイさんと相談した方が何かと穏当だ。というわけで、ジイさんの様子を見に行く。


「お前か。何の用じゃ」

「調子はどんなもんかって」

「どうもこうもないわ」


 ジイさんが両手に鎧の欠片を持ち、ぺいっとテーブルに投げ出す。


「こうまで粉々だと鑑定のしようがないわ。高度な魔法付呪の痕跡は見えるが、それだけだな。現物は相当値打ちもんだったろうに、勿体ない」

「そうは言ってもな」


 敵の装備だったわけだし、そんなこと気にしている場合でもなかったっていうか、そこまで粉々にしたのは俺でなくアナイアだし。


 と、そんなことを言うわけにもいかない。

 下手に喋って後々厄介なことになっても困る。大体、話が拡散しないようにこんな辺鄙な所まで赴いたということもある。まあ一番は眼の確かな魔導具屋を探してたってことなんだが。


「まあ、こっちは幸い無傷だが」


 と、ジイさんが剣の方を叩いて言った。


「何かわかったんかね」

「多少はな。けったいな魔法剣だってことはわかる」

「具体的には?」

「毒だな」


 おお。カマをかけたら当たりだった。これは期待できるか。


「ちと見たことのない魔法式だが、似たものは見たことがある。普通剣にこんなもの付呪しないんじゃが」

「へえ。なんで?」

「悪趣味じゃろ」


 まあ、それは言えてるが。しかし身も蓋もない。


「剣自体も相当優れものじゃな。誰が鍛えたか知らんし、悪趣味な付呪だが、まあいい値にはなるじゃろ」

「へえ」

「で? お前さん、これを売りに来たのか?」


 ああ、そういう話になるのか。

 いや、しかしどうしたもんか。俺はこんなもの使う気はないが、ここで放出してもいいものだろうか。何せ出所が魔族だし。


 とりあえず、それは置いておくか。


「いや、そいつに付呪してある魔法毒について知りたいんよ」

「何? それでどうするつもりじゃ?」

「解毒の方法が知りたいというか」


 ジイさんはそれを聞くと首を振って「無理じゃな」と言った。


「見たことのない魔法式と言ったろう。魔法毒の式は少し違うだけで丸っきり性質も変わってくるし、そもそもわしは毒については門外漢じゃ」

「無理か……」

「何じゃ。誰ぞこの毒で苦しんでるもんでもおるのか」

「えーっと……」


 ええ、まあ、俺と言えば俺なんですけどね。

 直ちに命に別状があるわけでもないし、放置してもいいっちゃいいんだが、どうにもこうにも気だるさが身体の奥に残って気にかかるのは嫌だというか、後々深刻なことにならないだろうかって気持ちもある。


 しかし、わからないなら仕方がない。

 そう諦めかけた俺に、ジイさんが続けて言った。


「そんなに気になるんなら、国立の魔法研究所にでも持って行けばいい」

「え?」

「あ?」


「何それ?」と剣からジイさんに目を向けた俺に、「知らんのか?」と言わんばかりのジイさんの顔。

 そのまま、三秒ほど沈黙が続いたのだった

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