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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.4 Conspiracy
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八十話 平穏

 サルベールを引き渡し、こちらは金を受け取る。

 それで、全て終わり。俺がそもそもの原因ではあったが、ジュストとレギス商会にはそれを追求する意志はなし。少なくともこの場では。


 ジュストは常時崩すことのなかった薄い笑みをやっぱり残したまま、取り巻きにサルベールを拘束させて出ていった。

 残された俺達の中で、まず声を出したのがカズールだった。


「まったく、どうなることかと思ったぜ」


 俺とサルベールの因縁は言ってなかったから、あんな展開になるとは思っていなかったのだろう。俺も思っていなかった。サルベールが変なこと叫び出さなきゃ、黙って知らん振りする気だったし。


 まあ、申し訳ないことをした。

 誠意は形にして渡すことにする。支払われた金の一割、金貨十枚だ。これを手数料としてカズールに支払う。


 が、変な顔をされた。


「あれ? 少ないか?」

「いや……お前本当にそう思ってるのか?」


 違うのか? 多かったのか? 

 困る俺を尻目に、何故かカズールとローグが目を合わせていた。目と目で「こういう奴なのか」「こういう奴なんだ」みたいなやり取りをしている気がする。やめろ。照れるぜ。


 冗談はさておき、とりあえず金貨十枚でカズールとは手を打った。

 さて、次にローグだ。

 あの小デブとは元々無関係だったが、アナイア達とやり合う上で相当世話になったからな。正直残りは折半という感じでいいと思った。ギリングの首にかかっていた賞金をパーにしてしまったことだし。


 しかし、ローグはそれを辞退しようとしてしまう。


「俺は元々ギリングは殺すつもりだった。賞金がアテだったわけでもないし、お前と一緒に奴を始末できただけでも充分だ」


 それに、とローグが付け加える。


「あんまり金があっても、面倒しか呼ばないからな」

「そうかなあ?」

「そういうもんだ」


 あるだけあればいいと思うが、そうじゃないのか。

 まあ、だからといってこんな大金をバラ撒くわけにもいかないし……


「気持ちだけでいいから受け取ってくれ。ギリングの首代ということで」


 そう言ってなかば無理矢理金貨二十枚をローグに渡した。複雑な顔をされたが拒否されなかった辺りこの辺が許容範囲なのだろう。

 あと、カズールが「ギリングって誰だよ?」みたいな顔をしていた。まあそれはどうでもよかったんだが。


 そうして、薄暗い地下での取り引きはお開きになったのだった。



 ◇



 その後は、寄り道せずに宿に戻った。というより『転移』した。

 横着な気がするが、何か二人を置いたままだとそわそわして落ち着かないのだ。先の一件が意外に相当トラウマになっている気がする。


 当然、部屋では何事もなく二人が待っていた。安心である。


「それで、どうだった?」

「特に問題はなかった。これがお駄賃」


 と、金貨をテーブルにザッと出す。

 一瞬二人が呆気に取られ、俺もそれに釣られかけたが、気を取り直して三人でせこせこ数え始めた。


「えーっと、今までの蓄えと足して……」

「金貨百三十枚分ありますね」

「お、おう」


 何か凄いことになっちゃってるぞ。わかってたけど。

 確かにローグの言った通りかもしれない。こんな金貨にまみれていたらどうにかなりそうだ。というかなりかけてる。


「どうしましょうか、これ……」

「とりあえず、数ヶ月は遊んで暮らせそうね」

「何かダメな感じがするからやめろ」


 食ってくのに困らないのはいいが、何もせずに食い潰すというのも危険だ。

 とりあえず、金は使うものだ。同時に稼ぐものでもある。

 金は天下の回りものというが、循環しないと世間も個人も駄目になる。水が溜まって出ていかない濁り池のようなものだ。


 なので、とりあえず使おう。

 豪遊だ。まず腹に美味いものを詰め込む。そうと決まれば話は早く、昼飯時をちょっと過ぎた辺りだったので昼を食いに行った。


 食いに食って、その後は町を歩いてまた食べ歩いていた。

 意外にもシオンとキリカは食う方だ。甘いものは別腹なのだろうか。


「あんまり食って太ってくれるなよ」

「あたし今まで太ったことないわよ」

「今までとは食糧事情が変わってると思うんだがな……あ、シオンはもう少し肉付けて健康的になってくれよ」

「え、あ、はい」

「何この扱いの差」


 そんな感じで夕飯も普通に食った。さすがに満腹だ。

 そうして宿に戻って、風呂に入ろうとして、ふと思うところがあった。


 健康は食事と運動と睡眠が作る。

 食事はした。さて後は運動と睡眠だ。だが今日はあまり動いていない。当面の危険が去ったので二人との訓練も休んでいた。


 となると、俺がすべきことは一つである。


「シオン、キリカ、ちょっと来てくれ」

「何?」

「何ですか?」


 風呂場に二人を引き摺り込んで、滅茶苦茶運動した。

 運動しながら汗とか、他の色々とか流せて一石二鳥だ。やかましいわ。


 すっきりさっぱり涅槃状態に入って、三人で温まった浴室でぐでんぐでんしていると、キリカがとらんとした声で話しかけてきた。


「セイタ……変わったわよね」

「何が?」

「最初は、意地でもあたしに手出さない感じだったのに」

「でも出しちゃったから、もう手遅れだし。それで今度はキリカだけ放っといたら、何か仲間外れみたいだろ」


 仲間外れはよくない。気まずいのはよくない。

 みんな仲良し、これでみんな幸せ。簡単だ。幼稚園児でもわかる理屈だ。


 ただ、女と男の間に友情は成立しない。

 男女が仲良くなるということは、突き詰めればそういう関係になるということである。


 俺達の場合、間にあるべきものを色々と抜かしていた気がするが……まあ、別に無理矢理ってわけでもなかったし、今も普通に仲がいいし、問題はないだろう。二人の白い肩を抱いて、極楽じゃ、極楽じゃ。


 何か昂ってきてしまったので、また三人で気持ちよくなった。

 そうして身体を流して、すっかり長風呂で出る頃には完全にのぼせてしまっていた。ちょっと間抜けだ。反省。


 食欲満たせば性欲。性欲満たせば睡眠欲だ。

 やることは既に済ませていたので、疲れのまま三人ばったり泥のように眠った。誰が一番先に寝入ったのかもよくわからない。


 ただ、とにかく幸せだった。



 ◇



 それから五日が過ぎた。

 この五日間、俺達は努めて規則的な生活を送るようにした。あまりダラけていても危険だと思ったからだ。


 朝食を取り、訓練し、昼食を取り、町の散策。夕食を取って宿に戻る。

 で、寝る。性的な意味はない。本当だ。

 ほどほどにしないと色々と支障をきたす。そして一度始まってしまうと「ほどほど」では済まなくなる。それくらい二人は魅力的で、俺は辛抱が足らない。そもそも昼に目一杯くたびれてそれどころでもないと言える。


 健康的な生活である。何だかんだ金銭的に余裕があるのは大きい。

 ただ、ふと思い出すと身体が重いようなことがあった。毒のせいだろうか。ここまで後を引くとは。いや、根本的に治療してないからしょうがないのだが。


 そこで何となく思い付いて、あの丘の砦にまた向かうことにした。

 今度は一人で、しかも徒歩でなく『転移』でだ。一度行ったことがあるので、方向だけ合ってれば問題はなかった。都合三度の『転移』で到着である。


 目的は、ギリングの剣、それと鎧の回収だ。


 前者は、あの砦の廃墟の中に落ちていた。『屍操』で動き出してから落としたのだろう。思い返せば奴は素手で殴りかかってきたし。


 後者は……ちょっと、探すのに難儀した。

 アナイアの『爆閃』の爆心地という目印はあったが、上手い具合に土に埋もれたり飛び散ってしまっていたので、肉眼ではどうにもならない。

 そこで『探知』を使い、微量な魔力の残り香をアテに回収した。結果として、大部分の部品を回収できた。


 当然、死体部分は削ぎ落していった。キモいからな。



 ◇



「……で、何故俺の所に?」

「ちょっと聞きたいことがあって」


 ギリングの遺品を回収した翌日、俺はローグの宿に向かった。

 俺達の宿に比べると格は下がるが、下がった分以上に割りのよさそうな宿だ。少なくとも寝るだけなら全然難儀しないだろう。一泊銀貨一枚、ひと月泊まるなら三割引きになるのも嬉しい。俺が泊まっているわけじゃないが。


 いや、それはいいんだ。問題は例のあれそれである。


「これなんだけど」


 俺は、ローグの前にギリングの鎧の籠手と、あの毒剣を出して見せた。ローグは口をへの字にして、それを見下ろしてから俺を見る。


「奴の装備だな。取ってきたのか」

「ああ。ちょっと気になることがあって」

「だから、何だ」

「ローグ、こっちの剣、何か変な感じがしないか?」


 俺が言うと、ローグは目を細めて剣の刃を見下ろし、顔を近付けた。

 その眉が、ぴくりと動く。


「……わずかだが魔力を感じる。流れた後、か?」

「やっぱりそうか」

「これがどうした?」


 俺は確認も含めて、話した。

 ギリングにこの剣で刺されたこと、その時毒を流され死にかけたこと。

 しかし、昨日この剣を回収しその足でウルルに会いに行き確かめてもらったところ、この剣からは毒物の臭いがまったくしなかったということ。

 そこで注意深く見てみると、俺もローグと同じく剣から魔力の残滓を感じたということ……


「何の毒かわかれば解毒できると思って拾ってきたけど、自然毒を塗ったりしているわけじゃないらしい。多分、魔法で毒を作ったんだ。そのための魔導具なんだろうな、こいつは」

「そんなことができるのか?」

「毒を作る魔法ならあるし、多分魔導具として付呪(エンチャント)もできると思う」


 というか、状況的にそれしか考えられない。魔王の知識と照らし合わせると、別に突拍子のない話というわけでもなかった。


 ついでに言うと、魔法毒というのは厳密には化学的な毒物ではなく、遅効性かつ持続的な悪影響を及ぼす魔法と魔力を流し込むことで対象を害し、またはその対象者の体内で毒性のある物質の生成を促すものだ。

 この場合、凶器には大抵毒は残らない。魔力だけが残る。

 つまり、今の状況がもろに当てはまる。


「それを確かめるために来たのか」

「うん。それと、どうしたらいいか聞きたかった」

「お前の食らったという毒のことか? 悪いが、俺は魔法に関しちゃ門外漢だ」


 ローグは俺の身体の中に魔法毒の魔力を感じない。俺自身が莫大な魔力を持っているせいで隠れてしまっているのか、そもそも既に魔法毒が俺の身体の中で化学毒を作った後なのかもしれない。


 残念だが、仕方ない。剣のことを確かめられただけでも僥倖だ。

 差し迫った脅威でもないしな。ただちに命に関わる事態ではない。


「けどな」

「ん?」


 ローグが、ぽかんとしている俺に続けて言った。


「魔導具のことなんだろ。それなら魔導具を扱ってる店にでも聞きに行ったらいいんじゃないのか」


 名案だと思った。

 そして数秒遅れて、そのアテが俺にはあることも思いだした。

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