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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.3 Conflict
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七十七話 終わり

「帰ったぞ!」


 思わず声を上げて、次の瞬間にはベッドに倒れていた。

 久し振りの我が家だった。いや借りてる部屋だけど。すっかり慣れて我が家も同然だった。既にホームシックすら覚えるレベルで慣れてる。


 シオンとキリカも、並んで部屋に入って来るやそのまま並んでベッドに倒れ込んでしまった。凄い有り様だ。

 女の子の見せていい姿なのだろうか。まあ、可愛いんだけど。


「これじゃ、事後処理は無理だな」


 アロイスに着いたのはもう夕方になる頃だった。ローグやウルルとは別れて、サルベールはどうしたものかわからなかったのでカズールに任せることにした。あの地下街にはカズールの顔の利く牢もあるので、そこにブチ込んどいてもらえるらしい。


 なので、もう仕事は済んだも同然だ。

 寝てもいいだろう。いいはずだ。というか寝るぞ。

 何か、まだ毒の影響があるみたいだ。ドッと気だるさが回ってきた。しばらくこれは抜けそうにない。

 毒のせいなら仕方ない。そういうことにしておく。


 やはり気になるのはアナイアだが……まあ、ローグがいるから接近は察知できるだろう。ここは頼るしかない。


 ……ローグか。何となく、昨晩話したことを思い出す。



 ◇



 ローグは、父親が魔人だった。そう言っていた。

 そのせいだろうか。外見に異常は現われなかったが、様々な力を生まれた時から持っていたらしい。


 その最たるものが、魔力や魔人を感知する体質だ。


 俺の見立てでは、それ以外にもあると思っている。鎧で『超化』していたギリングと渡り合っていたくらいだ。多分、無意識に『身体強化』くらいは使っていたんじゃないだろうか。


 まあ、奇異なもんだなとは思う。

 だが、それだけだった。

 なので、話を聞き終わって「はえー」なんて間抜けな声を上げていると、ローグから逆に困惑されてしまった。


「お前、俺が怖くないのか?」

「え、いや、別に」


 そう言うと、もっと困惑された。

 そんな反応されても、照れるぜ。というか俺も困る。


 でも、普通に考えたらそうか。半分だけとはいえ魔人だものな。

 人類側からしたら怖ろしい敵なわけで、そんなのが自分達の世界にいるってーとなると、普通は怖がるか。それが当然の反応か。


 無論、魔王である俺からしたらそんなの大したことないわけだが。


「だって、ローグは俺達を助けてくれたし。怖がる理由もないだろ」


 半分魔人だからといって、何だというのか。

 成り行きとはいえ同じ敵ができて、一緒に戦った相手だ。今さらそんなちっこい理由で怖がったり距離を置きたくなったりはならない。


「……変わった奴だな」


 そうだろうか。そうなんだろうな。

 何せ異世界人だ。この世界の常識で捉えられるとは思わないでほしい。

 俺にとって大事なことは、ローグのお陰で今回何度も助かったということだけだ。後はどうでもいい。


 むしろ、申し訳ないとすら思っている。

 俺が勝手にギリングをやっちまったわけだから。引け目というなら俺はそっちの方が気にかかる。


 ローグは、別に気にしてないみたいだったが。


「俺は……別に構わない。奴が死んだなら、それでな」


 恨み。復讐。その詳細を聞くことはやっぱりなかったが、まあ、もう聞く理由もないだろう。

 ギリングにかけられた賞金っていうのも、ローグにとっては二の次だったみたいだ。死体が灰になっても特に問題なさそうだった。


 まあ、灰にしたのはアナイアであって、仮に俺に文句言われてもうーんという感じではあったのだが。ローグはそんな小さい人間でもないだろうけど。


「とにかく、ローグがそう言うなら、俺も気にしない。あんたが魔人の血を引いてるってのも言わないよ」


 言ったところでどうなるって話だ。ローグは見た目ただの人間だし、腕が立つのが多少目を引きはするが、それでもあの力含めて何も言わなければ誤魔化せてしまう。その程度でしかない。

 吹聴したところで、誤魔化されて恥かくだけだ。意味がない。


「それにさ」

「む?」

「あんた、わざわざそんなことを俺に言ったのってさ。言い触らされないって信頼してくれたからじゃないのか?」

「ぬ……」


 ローグは、割と馬鹿が付くほどの正直者だ。

 ギリングのことを魔人だとわかっていて、それを俺に言わなかったことを「騙していた」と思って、こんなことを話した。それくらい馬鹿正直だ。


 そんな人間が悪い奴だとは思えない。人がよ過ぎる。

 俺も人がいいとは言われたことはあるが、それ以上だ。

 そんな人間を貶める気にはならない。そんな資格は俺にはない。


 何より、ローグは俺を信頼してくれた。だったら俺も信じるべきだろう。

 人として当然だ。少し恥ずかしいけどな。


 そう言ったら、ローグはくたびれた三十路の笑みを浮かべ、繰り返した。


「本当に、変わった奴だな」



 ◇



 もうしばらく、ローグはこの町にいるそうだ。

 その間は世話になることにしよう。シオン達のことが心配なのだろうが、そうローグの方から提案してきてくれた。好意に甘えよう。


 俺が頼りないからそう言い出したのかもしれないけどな。確かに、またシオン達を危険に晒しちまったわけだし。

 危機管理能力が足りてない。自覚がある。これからのことを深刻に考える必要があるだろう。


「……アロイスを出るかな……」


 ギリング達を片付けた今、その選択肢もありだった。

 魔人の入り込みにくそうな、より人に紛れる場所に……そうだな、例えば王都なんかに逃げるのもアリだろう。


 俺が魔王だってことにアナイアは確信を持ったみたいだが……あの女自身が魔人である以上、俺のことを吹聴するのも難しいだろう。逆に俺に糾弾されるって可能性もあるわけだし。


 何かしてくるなら、実力行使に違いない。しかしそれも、より人類領の中心に近付けば難しくなるはずだ。


 ……王都か。本格的にアリだな。

 ともあれ、ひとまず今は。


「……寝よう」


 久方ぶりに羽根を伸ばしてぐったり眠れる。

 眠れる時に眠る。喜ばしく、大事なことだ。今がその時である。


 何かわけのわからない自信に満ち満ちながら、俺は意識を手放した。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

ひとまずここで三章を締めさせていただきます。


いよいよ書き溜めが切れたので、また次章まで時間をいただくと思います。気長にお待ちいただけると幸いです。

その間、活動報告なんかで色々補足とかするかもしれません。しないかもしれません。未定です。


今年もよろしくお願いいたします。

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