表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.3 Conflict
78/132

七十六話 帰り道

 終わりは誰の身にも突然来るものだ。

 だが、今日は俺の番ではなかった。それだけだ。

 それだけだが、それはとても大事なことだった。




 さっきの爆発に心配したためか。多頭竜(ハイドラ)の時みたいに泣きじゃくるシオンを宥め、ウルルとキリカに任せる。


 そうして、ローグと一緒に焼けた土の上に転がる、黒焦げた鎧の残骸を見下ろした。いや、黒いのは元からだっただろうが。


「これが……ギリングか?」


 ローグの問いに頷き、籠手の部分を持ち上げる。中から炭化した肉がずろんと落ちた。気味が悪かったが吐き気は抑える。


「死体のまま動きやがった。魔法だ。多分」

「魔法?」

「野郎の鎧に魔法式が仕込んであった。色々と多機能で便利そうな、な」


 破壊されつつ、驚くべきことにまだ原型を保っているギリングの鎧を小突く。中身はグズグズだが、ガワは頑丈なものだ。繋ぎ合わせればまだ使えそうでもある。あまり気は進まないが。


「奴の妙な力はそれのせいか」


 ローグは知らなかったが、不可解には思っていたそうだ。納得が早い。

 確かに、常人離れした腕力のみならず、透明になったりしていたのだ。魔法でなくて何だという。しかし使っている素振りがなかったのが問題だ。


 だが鎧の機能だとすれば話は簡単だ。というかそうとしか考えられない。

 ローグは魔導具についての知識が薄い。だからそうだと言われればそうだと納得するしかないようだった。

 ぶっちゃけ俺も同じだ。よくわからないのでそういうことにしておく。


「ところで」

「何だ」


 どうしてももう一つ気になることがある。というか話したいことがあった。

 シオン達にはグロ死体があるからという理由で下がってもらって、検分は俺達二人だけでやってる。このタイミングで聞くしかなかった。


「……アナイアは、魔人だった。ギリングも多分そうだ。あんたは……そのことを知ってたのか?」

「……」


 ローグは驚かなかった。そのことにむしろ俺が驚いていた。

 やっぱりか。そう思いながら、沈黙を保ちながら頷くローグを見ていた。



 ◇



 また数日かけて、街道を北に進んだ。

 アロイスへの帰路だ。身体は満身創痍、服もボロボロの帰り道だった。

 だが、最もボロボロなのは病み上がりな俺ではなく、小デブだったろう。


「あ、歩けない……もう歩けない……」

「うるせえ歩けオラ腕千切って軽くしてやろうかオラ」

「ひぃぃっ!」


 あの後、思い出したようにサルベールを回収しに監視塔に戻った。

 うっかり忘れていたくらいなので、逃げられたと思いきや、半死半生で転がっていたので呆れながらとっ捕まえた。どうもアナイアの『障壁』の後ろで命だけは取り留めたらしいが、爆撃のせいで歩けない程度には深刻なダメージを負っていた。


 担いだり馬車を借りるのも面倒なので、『治癒』して歩かせたわけだが。

 まあ、歩かせてもウザかったのがアレだが。


「そういえば」


 ひぃひぃ喘ぐサルベールのケツを蹴りながら、俺は『針儀』を出す。

 俺が殴り飛ばした時にアナイアが落とした奴だ。どうもあの時に壊れてしまったらしい。水晶球が割れてすっかり用を為さなくなっていた。今度は完全に。


「おい小デブ。これ、元はてめえのだったみたいだな」

「あ……え……?」


 見覚えがないようだった。というかよく思い出せないというべきか。

 だが、シオンの方には見覚えがあったみたいだ。シオンの顔をはっきり認めた瞬間、呻いた。ウザいので殴っておく。

 どうにもシオンが『針儀』とセットの奴隷だったのは確からしい。どこから売られてきたのかはサルベール自身よくわかってなかったらしいが。


「じゃ、じゃあお前が、私の支店を……」

「そうだよ。文句あるか」

「あるに決まっている! 貴様のせいで、私はこんな……!」

「うるせえボケ!」

「ほがっ!?」


 むしゃくしゃしたので殴った。反省はしない。

 元はと言えばこいつのせいだ。こいつがルウィン達を掻っ攫ったりするのが悪い。俺は友達を助けただけだ。文句は言わせない。

 言ってもいいが、タマが潰れる。勝者は絶対だ。俺が神様である。


「ほんとに奴隷だったのね、あんた」

「はい、そうだったみたい……です?」


 シオンとキリカがちょっと間抜けな会話をしていた。確かにシオンはその時の記憶もないし、実感も湧かないのだろう。

 右腕の奴隷印があっても、そうだろう。そういえば、あれも魔族絡みだったと疑ったこともあったか……


「おい小デブ、奴らが魔人だってことは知ってたか?」


 サルベールは首を振った。知らなかったらしい。

 アナイアを雇った経緯に関しては、ルーベンを逃げ出した後、どこぞの町に潜伏している時に護衛に雇ったという。能力は確かだったから、頼ってそのまま国外に出ようと思っていたとか。


 多分、アナイアの方もサルベールの金や繋がりの伝手を利用しようとしていたのだろうと思う。目的のために。

 そう……「魔王の力を探す」という目的だ。


「この話は終了! ほらキリキリ歩け!」

「そんな……あひっ!?」


 勝手に切り上げ、小デブのケツを蹴り上げて進ませる。

 理不尽であろうか。否、勝者として当然の権利である。

 勝った者が正しいのだ。そして俺は勝った。なので正しいのは俺だ。


 今回はそれでいいだろう。ひとまず、サルベールに関しては。

 後のことは、後のことだ。



 ◇



「俺は魔力が嗅ぎ取れるだけじゃない。魔人の臭いがわかる」


 アロイスまであと一日という晩、焚き火を突きながらローグと話した。

 シオン達は眠っている。サルベールはウルルに見張ってもらってる。別にシオン達になら聞かれても問題ないとは思うのだが、俺も腹に抱えるものがある以上、二人で話した方がいいと思った。


 まさかこのタイミングとは思わなかったが。


「随分奇特な体質……だな?」

「そう思うだろう」


 当然、それだけで済ませられるものでもないと思うが。

 そして、俺が内心そう思っているのもローグは織り込み済みだろうが。


「奇特と言うなら、お前のその魔力も大概だがな」

「俺は魔人じゃないからな」

「悪い、そんなつもりはなかった。話を逸らすみたいだったな」


 まあ、別に気を悪くしちゃいないが。似たようなもんだし。


「どうして、俺が奴らを魔人と知っていると?」

「え? それは、えーっと……」


 何と言うか、逆説的で当て推量な帰結だ。

 ローグはギリングに恨みがあった。またその強さも知っていた。でなければあんな風に戦えるわけがない。加えて、魔力を嗅ぐ力もある。

 となると、ギリングが魔人であるということまでわかっていそうなものだ。ぶっちゃけあそこまでいくと、もうただの人間とは思えないわけで。


 俺がそう言うと、ローグは俯いた。どうした。


「……恨むか、俺を」

「え? どうして」

「お前に、そのことを言わなかったことだ」


 それは、ギリング達が魔人ということか。それとも、自分が魔人の臭いがわかるということか。あるいはどちらもか。

 しかし恨むとか責めるとか言われても、俺は相手が魔人であれ何であれ本気を出すしかなかったわけで、正直どうでもよかった。


 先んじて言われても、俺のやることは変わらなかっただろう。そう考えるとローグを恨みようがない。その理由がない。


 が、ローグには言えなかった理由があるみたいだ。

 無理して聞き出したいとは思わなかったが、知りたいとは思った。


「ん? そういえば……」


 ふと、魔王の知識に引っ掛かる部分があった。

 確か、そうだ。魔人同士だと、その生来の魔力への適性の高さ故か、魔力の波長のようなもので同族かどうかがわかる……と。


 待てよ。だとするなら……


「ローグ、あんたもしかして……」

「多分、お前の考えている通りで、半分合っている」


 遮るようにローグが答えた。肯定した。

 だが半分とは。疑問に思う俺に、顔を上げつつ、ローグが続けた。


「俺は半分、魔族の血を引いている」


22時にもう一話更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ