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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.3 Conflict
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七十二話 決着は

 ギリングが死んだ。完全に死んだ。

 黒い鎧を血でべっとり濡らし、その腹からは臓物を垂らして、兜は無残に拉げている。中の頭も多分、あまり無事ではないはずだ。


 俺に乱されてなお鎧に流れていた魔力の反応も途絶えた。多分、着装者の魔力で稼働する仕組みになっていたのだろう。あれだけの機能を使っていたということは、ギリング自身の魔力も相当量だったということか。


 ……しかし、あいつはなんであんなことを? 


 俺が魔王だって? なんでそんなことがわかる? 

 見付けたと言っていた。俺を。探していたと言った。魔王を。

 あいつらはそれが目的か? アナイアも? 何のために? 


 魔王を……探す? そんな、馬鹿なこと……

 いや……それ以前に、魔王(おれ)のことを、何故知っている?


 魔王が消えてなくなったわけじゃないことを知っている……何故? 


 ……関係ない。もう終わった。こいつは死んだ。汚い肉と鉄の塊だ。

 死体を放り捨てる。黒い鎧が人形のように転がり、血が広がった。

 それと同時に、『白霧』が晴れ始めた。魔力を継続して注がなければ、これくらいが効果の限界か。


 次はアナイアだ。ローグを助けなければ。

 考えるのは後だ。今は、さっさと始末を付けよう──


「……ぐっ!」


 霧の向こうから転がってくる人影。声でローグだとわかった。


「大丈夫か?」

「ああ、まあな……!」


 立ち上がるローグ。その全身には無数の傷が付いていたが、どれも浅い。

 強がりではなさそうだ。無視界の中でアナイアの魔法を避け続けたのか。まったくもってとんでもない。


 とにかく、これで二対一だ。

 前とは逆の展開だな。俺は逃がす気はないが。


「あなた達……」


 と、ローグが転がってきたのとは別の方向から声。

 そちらを見ると、いつの間に移動していたのやら、ギリングの死骸の傍らで膝をつくアナイアの姿が。


「やって……くれたわね……」


 今までとは違う声、違う目だった。

 馬鹿にしたような嘲笑も、口調もない。底冷えして、どこか震えた目と声だ。


 ……何だ? おい? もしかして悲しんでるのか? 

 仲間がやられて、悲しいか。怒っているか。まさかそんな顔をするとはな。だが悪い気分じゃない。

 これで借りは返してやった。いい気味だ。まだ終わりじゃないが。


「ギリングの野郎……殺したのか?」

「ああ。悪い、横取りしちまった」

「いや……死んだなら、それでいい。そうか、死んだか……」


 ローグはローグでどこか感慨に耽っている。だが警戒を緩めるわけではない。剣を持つ手にも力を入れ直す。さすがに弁えている。


 俺も『氷鎧』の修復を急ぐ。元々ただの氷の塊に魔法式を組み込んで動かしているだけのものだから、修理も簡単だ。その分魔力は大量に使うが。


 アナイアに目を向ける。どれだけ魔力と体力が残っているか。

 細かい傷がローブに見受けられた。血も滲んでいる場所がある。ローグにやられたか。『治癒』したようだが、それも追い付いてないらしい。


 好機である。ここで殺してやるには最適だ。

 右腕のランチャーに『氷矢』を装填し、突き付けた。


「見ての通り、二対一だ。大人しくするなら楽に殺してやる」


 逃がすつもりもないし当然生かしておくつもりもない。これが最大限の譲歩である。誰が見てもそうは見えないだろうが。


 仕方ない。こいつは俺達を危険に晒す存在なのだ。

 それに、だ。

 ギリングだけでなく、こいつも魔王を探している。その可能性がある。

 ヴォルゼアが別の誰かに力を移した、そのことを知っている。だが誰が魔王の力を持っているかは知らない。それを探している。

 そんなところだろう。何の目的があるのかは知らないが。


 ……心当たりは、全くないわけでもないが。


 それでも、ここでくたばってもらうのが穏当だ。そのはずだ。

 だから、容赦はしない。できない。


「……馬鹿言わないでよ」


 アナイアがそう言い、魔法を発動──

 させる前に、その肩に『氷矢』を撃ち込んだ。


「あぁぁっ!!」


 転がるアナイア。その身体が床を滑り、悲鳴と荒い息を漏らす。


 ローグとやり合ったせいで疲れているのか。『隠蔽』が温いぞ。魔力の動きが今度ははっきりよく見えた。

 おまけに発動も遅い。コンマ数秒ではあるが、それでも確実に遅い。

 今の俺は『氷鎧』に攻撃魔法を添加しているため、以前のアナイアと同等以上の速度で魔法を発動できる。負ける要素がなかった。


「悪いがこっちも命がかかってるんでな」


 倒れたアナイアに歩を進める。さっさと終わらせよう。

 感慨はない。もう人殺しには慣れた。まして俺に害をなす人間など。


「死ね……」


 右手を振り上げる。もう魔法は必要ない。潰して終わりだ。

 アナイアの頭目掛けて、氷の拳を振り下──


「えっ」


 その時。アナイアの口元が見えた。

 笑っていた。冷たい笑みだ。毒々しい唇に、血を滲ませて。


 いや、それは重要ではない。

 もっと、異様なものを見た。アナイアの手元だ。

 そこに、丸い石の塊が見えた。『隠蔽』のせいか、魔力がわずかにしか感じられない。流れが読みにくい。


 だがその刹那、俺は、「それ」から見える魔法式を解読できた。

 当然だ。俺が今さっきまで飽きるほど使ってきた魔法だったのだから。


 そいつは『爆轟』──いや、『榴弾』だった。


「てめ──」


 声を上げようとするが、遅い。

 そして、アナイアの動きがその一瞬だけ俺を上回る。

 拳を避けられ、懐に飛び込まれ──俺の胸元に『榴弾』を叩き込まれる。


 爆発は、その一瞬後だった。



 ◇



「があぁあぁぁぁっ!?」


 胸を、あばらを、肺を叩いて、背中まで貫く強烈な衝撃。

 血を吐く。視界が回る。頭まで激痛が飛ぶ。床に落ちて転がった。


 視界が暗い。身体が動かない。『治癒』だけをどうにか使う。

 そして……回らない頭で何が起きたかを思い出す。わずか数秒前のことを。


 ……『榴弾』だ。アナイアが『榴弾』を使いやがった。

 俺の『榴弾』……見ただけでコピーしたのか? しかも、それだけ『隠蔽』で隠して、俺を誘き寄せて……どころか、爆発に指向性を与えていたような気すらする。無論、俺の『氷鎧』を貫通するために。


 大したクソ女だ……まんまと騙された。

 しかも、あんな超近距離での起爆なんて……普通は考えない。

 自爆だ。そこまでは読めなかった。詰めが甘かったか。クソ。


「セイタ! 大丈夫か!?」


 ローグの声がする。近付いてくる。

 答えようとして、思わず咳込む。血が出た。こいつは酷い。大した量じゃなかったのがせめてもの救いか。


「あ……ああ……大丈夫……」


 言いながら、自分の身体を改める。まず『氷鎧』の胸部の装甲がばっくり砕けているのに気が付いた。しかもそこを中心に破損が広がっている。


 修復はできたが、もはや用無しと思い『氷鎧』を解除する。各関節部が融け、さらにパーツごとに分割が始まる。

 一気に融かすと全身びしょ濡れになるのでこういう脱装法式になった。こだわりだ。結局中身の俺が割とびしょ濡れなのは変わってなかったけど。


「オエッホ……! あー痛い……」


 胸を擦りながら身体を起こす。呼吸をすると肺が痛い。

 当たり前だ。推定致死半径数メートルの『榴弾』を直で食らったのだ。『氷鎧』がなければ確実に死んでいた。さすがに生身でも『障壁』くらいは使ってただろうが。


 使われて、初めてわかる、怖ろしさ。人体実験をしたことはないからな。まさか自分で効果実証をすることになるとは。


「やってくれたぜ」


 立ち上がる。わずかに立ち眩み。脳震盪のおまけ付きか。立ち上がれる以上大したことはないだろうが。


「大丈夫か、本当に?」

「まあね……それより、あの女は?」


 俺とは違う。アナイアは直で爆発を受けた。生きてはおれまい。

 そう思い、爆煙の中を見回す。見回す。


 だが、いない。気配もない。

 いなかった。どこにも。煙が晴れても、姿が見えなかった。


「お、おい。どうなってんだ……」

「わからない……」


 ローグが首を振る。


「俺も、さっきの爆発で見えなくなった時に、魔力を追えなくなった」


 ローグには『隠蔽』が効かない。

 精確には、『隠蔽』でその身を隠しても、そこから垂れ流して隠し切れなくなった魔力の残滓を追われる。残滓に方向性があれば、動きが読める。


 そう話を聞いた。それを前提に戦術を組んだのだ。結局ごっちゃごちゃな乱戦であまり役には立たなかったが。

 だから、ローグが「消えた」と言ったら本当に「消えた」のだ。

 魔力ごと、その身も。


 『榴弾』で跡形もなく吹き飛んだ。そう思えればいいが、それだけの威力があるならローグもこの監視塔も吹き飛んでいるだろう。


 ならば、何だ? 『転移』でも使ったというのか? 

 まさか、そんな馬鹿な。ははは。


「あり得ない」


 『転移』は膨大な魔力を要する。面倒な計算を要求される。あの時のアナイアにそんな余裕があったとは思えない。魔力だって……


 ……いや、だが。

 余裕がなかったのは、俺もだ。『榴弾』に気を取られた。その『榴弾』だって、もう使えないと思っていた『隠蔽』で隠されていた。


 まさか、『転移』まで『隠蔽』で隠していたのか……? 

 逃げるための余力を残していた……あり得ない話ではない。あの女、それくらいはやりかねない。俺はそれにまんまと騙された……と。


「クソ」


 してやられたか。上手いこと逃げられた。最後の最後で。

 だが、とにかくこれで終わりだ、とも言える。


 逃がしたのは痛いが、追っ払えた。相当痛め付けたから、というかローグが痛め付けてくれたから、もう俺達に手を出してくることはないかもしれない。そう思いたい。そう思うことにして、もうお終いにしたい。


 何だかんだで、俺も疲れていた。気だるい思考がその証だ。今さっきまで絶対殺すマンだったのに。

 しかし、追えないのだ。追えないなら仕方がないとも思ってしまう。


 そうだ。これからは常時シオン達にも『隠蔽』をかければ、アナイアにも見付からないだろう。最悪、条件は互角だ。

 そうすれば後は魔力の総量の多い俺が有利だ。手を出してくるなら手痛くしっぺ返ししてやる。アナイア一人ならどうということはない。多分。


 そんな風に楽観的に考えつつ、ふとサルベールのことを思い出す。

 というか、目に入る。上階からの階段から這うように姿を現した。


 あれ? あの女護衛対象を置いて逃げたのか。酷い奴だな。ていうかさっきの『榴弾』で死んでなかったのか。アナイアの『障壁』の後ろに上手いこと隠れてたみたいだな。運のいい奴。


 ローグに振り返る。肩を竦められた。俺が「一応」サルベールも追っていることも話してあるし、賞金稼ぎのローグだから何となくわかってくれた。


 運がいいのは、こっちもだな。

 とりあえずここは、この小デブを捕まえてお開きに──


『……セイタ、さん!? 聞こえ……ますか!? すいません、こっちに……何、イヤァッ!?』


 突然、シオンからの『思念話』が入る。

 悲鳴混じりのその声に、俺の小デブに向かう足が、止まった。

(一日開いた言い訳は特にでき)ないです。

強いて言うならホリデーセールで買ったSkyrimやってました。

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