表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.3 Conflict
69/132

六十七話 個人的復讐

「連中はここで仕留めたい」


 俺は断固そう言い切って、朝飯の場を引っ掻き回す。特にシオンとキリカが困っていたが、問題なく続けることにした。

 押し切れば、大体通る。話というのはそういうものだ。


「連中は危険だ。危険だってことが周りにも知れ渡って、お尋ね者になった。丁度いいからそれに乗っかって、俺達もアナイア達に仕掛けよう」

「実際はセイタのせいだけどね……」


 キリカがぼそりと呟く。うるさい。わかってるんじゃい、そんなことは。

 ローグには聞かれてないか。大丈夫か。でもどうなんだ。俺がギリングと事を構えたことは知ってるし、何らかの疑いを持たれているかもしれない。こっち見てるし。


 まあいい。今はアナイア達のことだ。無理矢理気持ちを切り替える。


 既に、アナイア達のことは南の町や村にも触れ回られているらしい。町を壊した重犯罪者ということでだ。なので南側からも賞金稼ぎや冒険者達が動くだろう。アナイア達は数日のうちに身動きが取れなくなるはずだ。


 チャンスである。チャンスと言わず何と言おうか。

 ローグはギリングに追い付くチャンス。俺は憂いを断つチャンス。

 チャンスは自分で作って掴むものだ。今がその時だ。そうに違いない。


「そういうわけで、町を一度出て奴らを追いかけたい」


 できれば、ギルドから依頼を受けた冒険者達と一緒に。

 味方の数は多い方がいい。それだけこっちが安全になる。向こうもいくら何でも、囲まれれば動き辛くなるだろう。


 馬車で逃げてるらしいし、仮にそれを捨てても小デブのサルベールがいる。追い付くのは難しくないはずだ。アナイアが『転移』でも使えない限り。


 俺は至って冷静に、合理的に、今やることを提示した。そのつもりだった。

 だが、ローグは苦い顔だった。


「……言わせてもらうが、お前はやはり行くべきではないだろう」


 理由は、昨日と同じ。

 俺にはシオンとキリカがいる。アナイア達に関わるのは全員を危険に晒すことになる。そういうことだ。


 で、ローグは俺達から離れるらしい。一日限りの契約だったが、やはり当初の目的であるギリングを追う必要があると。

 しかし行かせないぞ。

 無理を言ってこれを通す。多少前が見えなくなっているかもしれないが、俺は冷静だ。冷静と言ったら冷静だ。


「今見失ったら後が怖い。今なら追える。ローグがいるし、他の奴らもギリング達を追っている」


 そしてもう一人、人探しにうってつけの仲間がいる。

 三人を説き伏せ、準備を始めることにした。

 というよりもう、今日から動く。拙速は巧遅に勝るのだ。



 ◇



「何だ……この狼は……」

「俺の仲間。ウルルってんだ」


 商会でウルルと合流し、先にアロイスの外に出ていたローグ達と合流する。

 雲のかかった白い空の下、ローグとウルルの初顔合わせ。当然ローグは驚いていた様子で、ウルルはいつも通り知らん振りという感じだ。


 興味がないのだ。興味というか、警戒心というべきか。

 ローグもそんなウルルの様子に、警戒するのは馬鹿馬鹿しいと思ったか。早々に荷物をまとめ始めていた。

 まあ、シオンとキリカが平然としているくらいだしな。大の男がいつまでもってなもんだ。


「よし、行こう」


 まだ昼前だったが、行動は早いに越したことはない。

 俺達は、アロイスの南に伸びる街道を歩き始めた。



 ◇



「噂では南に向かったと聞いたが」

「馬車でですよね?」

「しかも夜だから、あまり行けないと思うけど」


 五人並んで街道を進みながら、いささか事務的ながら意外にも会話が進む。


「俺はあまり魔力の残り香とかはわからないけど」

「俺は、町の門までだった。南から出たのは確かだろうが、その後はどうか……」


 ローグが言葉を詰まらせる。そこまで広い範囲を探ったり追ったりはできないらしい。多分、今までもわずかな手掛かりと足跡からアタリを付けてギリングを追って来たのだろう。


「と、いうわけだ。ウルルは何かわかるか?」

『魔力のにおいはよくわからない。だが、この道にはほんのわずかに血の臭いが残っている』


 快い返事が帰って来た。いや、内容はあまりよろしくないが。

 多分、昨夜の逃走劇の際に流血沙汰になったのだろう。多分返り血だ。

 それが馬車か、あるいはアナイア達に付いたか。『隠蔽』を使っても垂れ流しのそれはどうしようもなかったのだろう。


 あるいは、そんな臭いを辿られているということもわかってないのかもしれない。奴らはウルルを知らないだろうから。


「南に向かったのは間違いなさそうだ。とりあえず、しばらくは」


 雇い主で一番の足手纏いであるサルベール。そして馬車という移動手段。行軍速度とアナイア達の取れる手段は推して測れる。

 これが陽動である、もしくは最悪、アナイアがサルベールを捨てて逃げるという可能性も実際なくはないだろう。


 だがそこまで考えたところで、今は意味がない。

 今はただ、追うだけだ。歩くだけだ。距離は縮まっているはずだ。

 そう信じるだけだった。



 ◇



 村を一つ過ぎた辺りで、陽が沈んだ。

 街道から外れて野営の準備に入る。そのための荷物も持ってきて、ウルルに運んでもらっていた。


 と言っても、大したものは持ってきていない。食糧に水、金品、それから精々雨が降った時のために天幕として張る布くらいだ。

 そしてその支柱は必要ない。俺が魔法で立てるからだ。


「便利なものだな」


 俺が土を『練成』して硬質の棒状に仕立て上げるのを見て、ローグが零した。いやあ、それほど大したことではない。


「俺とあんたがそっち、シオン達はあっちか」

「いいのか?」

「何が?」


 テントは、キリカとローグに手伝ってもらい二つ作った。それで組み分けは男女別にした。

 が、それに異議を唱えたのがローグだった。何やら俺達に気を遣っているらしい。アレとかソレみたいな意味で。


 いや、俺そこまで節操なくないから。自制は利くから。

 今までそうでなかったから説得力がないかもしれないが、ここ数日で大分精神状態も改善してきた。ローグに会って「男かくあるべき」みたいな意識も芽生えてきた。


 何より、そこまで元気じゃない。昂っていない。今は。

 とにかく今大事なのは、アナイアとギリングに追い付いて始末することだ。当初の目的であったサルベールは、この際どうでもいい。


「お前がいいなら、それでいいが」


 特に食い下がることもなく、ローグは同意した。

 晩飯を食って、俺達はそれぞれのテントに分かれる。ウルルは外だ。別に臭ったりはしないのだが、テントはそこまで大きくなかった。少し申し訳ない。


 そうして、テントの中で温風を弄っていた。

 久し振りに歩いたということで、さすがに少し歩き疲れた。『結界』と『探知』を張りながら、そろそろ寝ようかと欠伸を噛み殺す。


 そんな時に、ローグから話し掛けてきた。


「……あの娘達は、見掛けより体力があるな」

「え? ああ」


 ローグは平坦だが、素直に感心したように言った。

 体力か。確かに、元から身体が資本だったようなキリカはとにかく、シオンも結構付いてきたと思う。当初のひ弱な身体つきとか顔色とかはもう面影も残していない。それでいて余計な肉は付いていないし、最高だ。


 とふざけつつ、ローグに頷く。


「素の体力は、多分俺よりある方だと思う。俺は魔法使ってこれだし」


 今はギリングにやられて身体が弱っているから『身体強化』で補助している、という意味もある。

 それ以前に、身体を『活性』することで元の体力不足を補っているというのがある。こうしなければ、元々もやしっ子な俺が延々歩いたり走ったりできるわけがない。心肺機能が真っ先にダウンするだろう。


 まあ、そんな運動の方に引っ張られて、いつの間にか素の体力も付いているという可能性は否めないが。だからといって確かめる気もない。


「だが、戦わせるのは無理だな」

「そりゃね」


 キリカもシオンも、ナイフや魔法で自衛くらいはできるとローグに言ってある。

 だが、二人は戦わせるために連れてきたわけではない。万一何かあった時のために、守れるために一緒に来てもらっているのだ。


 そのことは行く前から決めてあることだ。今のはその確認みたいなものだった。

 ローグが拳を擦りながら言う。


「……お前もだ。奴らに追い付いても、前に出なくていい」

「何でだよ?」

「二人を守っていろ。これは俺のやることだ。もう充分手は借りてる」


 そう言う。ローグはそういう認識だった。

 つまり、あくまでギリングは自分が捕らえる相手で、俺達は協力関係、雇い主、護衛対象と。


 まあ、確かにそれはそうなんだがな。

 けどこっちにも、事情とか心情ってものがある。


「俺もやる」


 今度はヘマしない。油断も準備不足もない。確実に仕留める。

 それに、だ。


「元々俺とあんたで目標が違う」


 ローグはギリング。俺はアナイア。

 元はそうだった。ならこれからもそうするべきだ。

 一対一で戦う。その方が集中しやすい。ローグはアナイアを知らないし。


 確かに、ギリングに刺された恨みはあるがな。


「そんなことより、実際どうやり合ったらいいか考える方がいいと思うね」

「……それもそうだな」


 ギリングは納得したのか、まだ思うところがあるのか。声の調子ではよくわからない。そもそも外套に包まって表情もあまり見えない。


 まあいいか。対策を考えるとしよう。アナイアとギリング、それぞれのだ。

 とにかく第一に考えることは、防御だ。前回は油断を突かれた。だが反応できないからってなす術がないわけじゃない。俺が単純に端から疑う意志がなかった。それが敗因だった。


 相手がどれだけ俺の背中を、隙を突こうと、関係なしに防ぐ方法。

 あるはずだ。『探知』が効かなかろうと問題はない。

 それは……


 ……眠い。明日でいいか。


 ほどよく温まったテントの中の空気に、睡魔が刺激される。耐えられず横になった。

 向こうは寒くないだろうか。シオンに、訓練の一環として温度調節の方法は教えたけど……



 ◇



 そうして、俺達はウルルの鼻頼りに、アナイア達の追跡を続けた。

 その行程に変化が生じたのは、アロイスから出て三日が経った頃だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ