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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.3 Conflict
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六十四話 大反省会

 大変情けないところをお見せしました。

 と誰に言い訳するでもなく、ただししっかりと反省はする。


 そう、反省だ。

 猛省しなければならない。昨日の俺は大変駄目駄目だった。

 何がというと、征太、征太、泣き虫征太なところもそうだが、そもそもの失敗が何もかもの元凶だったのだ。


 油断である。

 アナイアに気を取られて、ギリングにザックリいかれた。あれが悪かったのだ。最も恥ずべき失態だ。首だったら今頃死んでいたのだ。


 確かに、言い訳しようと思えばいくらでもできる。そもそもギリングは完全に気配を殺していたし、アナイアに仲間がいるなんて知らなかったし、そもそもそのアナイアの奴だってサルベールを助けに来ると思ってなかったのだ。


 いきなり二人も敵が増えるなんて、それこそ悪い冗談だよ。

 と、そんなことを言っていられないのが理不尽な現実だ。


 整理しよう。まずサルベールだ。

 野郎はアナイアを護衛として雇っていた。奴らの言葉からそれは確定だ。ただし昨日はサルベールが独断で人を雇い、俺達を襲ったと。


 次にアナイアだ。

 紫色の唇しか見えなかったが、女の魔導師だ。まあそれはいい。

 奴は、かなり「やる」魔導師だ。魔力、魔法の腕もさることながら、ああいう荒事に慣れている。『隠蔽』で気配は消すし、身のこなしも相当だ。常に余裕ぶっているのもこっちの調子を崩すのに効果的だった。

 得意な魔法は、土系統か……? だが、あの時は材料が周りに多かったから土魔法を使っただけかもしれない。底は知れない。要注意だ。


 そして、ギリング。

 こいつはアナイア以上にわからない。サルベールは知らなかったらしい。アナイア個人の護衛か? 護衛の護衛って……まあいいか。

 奴も多分、相当「やる」。だが、どれほどかはわからない。実際、奴とはまともに戦っていないからだ。

 『隠蔽』で気配を消せるのはわかる。瞬時に距離を詰め、シオンを捕らえたことから身のこなしも相当だと予想できる。そもそも、俺の心臓をブッスリやったのだ。ヤバいのは嫌ってほどわかっている。

 得物は毒の剣。使うのも見たし、体感した。思い出したくもないが。

 寡黙で、鎧と兜のせいで表情もわからない。得体の知れない気味の悪い野郎だ。ブッ殺して面ァ拝んでやらないと気が済まない。


 さて、感情はひとまず置いといてだ。

 こいつらに、どう対処する? 


 こういう時、俺の経験不足がものを言う。無論、悪い方向で。

 魔法の制御だけなら、アナイアは俺よりずっと上だろう。出力では勝るだろうが、そうするには魔力解放しなければいけない。

 そうすると、多分隙ができる。アナイア相手にそれは致命的だ。


 そこに、ギリングが加わるわけだ。

 得物にしているくらいだから、剣が得手なのだろう。それも相当だと類推できる。しなければならない。古今東西敵を甘く見てよかった試しはない。


 俺はギリングに追い付けるだろうか? まあ、イエスだろう。

 限界まで『超化』すれば、多分俺が追い付けない速度の敵はいない。最後の一発だけだが、実際不意を突くこともできたわけだし。


 ただ、問題はそれがギリング一人が相手ならということだ。

 ギリングにかまけているところに、アナイアが後ろから魔法を撃ってくる。そんな想像が容易くできる。嫌になるくらいに簡単だ。


 多分、勝手知ったる身で上手く連携してくるだろう。そうなるとちょっと、俺だけではどうしようもない。

 そもそも、二人ともまだ何か奥の手とかがないとも限らない。不安要素だらけだ。対策を考えるだけ無駄なのかもしれない。


 ……勝とうと思えば、無理矢理勝つこともできるだろう。

 俺が本気を出して、魔力を全開放して、粉微塵に消し飛ばすつもりでいけば……まあ、やれなくもない、はずだ。

 だって、魔王なんだし。それができる魔法をいくつも知ってるし。


 ただそれをやれば、アロイスがどれだけ消し炭になるか。

 いや間違った、どれだけ町が残るか、だ。

 二人を抹殺するために、千人規模の人間を殺していては世話がない。そんなことをできるだけの胆力もなければ、狂ってもいない。


 俺は魔王(ヴォルゼア)をやりたいわけではない。ここで目立ってどうする。

 ただ、出し惜しみして死んでたらそれも世話がないんだが。


 ……逃げるか? 確かに、最終手段としてそれはある。

 ただ、それをやると完全敗北して涙目になる。屈辱だ。恥辱だ。

 意地張って死んでも仕方がないが、これ以上情けない格好晒したら胸張ってシオンとキリカに向き合えない。個人的にこれが我慢ならない。


 そしてそれ以前にまず、根本的な解決にならないという問題もあった。

 今回の件で、アナイアとギリングとは完全に敵対した。殺し合ったし、これからも顔を合わせれば殺し合うだろう。どちらかがくたばるまで。


 不安要素はさっさと排除したい。後になれば膨れるだけだ。

 俺が容赦したくないのは恐怖心の表れだ。自分で言うのも何だがな。

 なので、できるならすぐ始末したい。やっぱり、殺されかけた俺が言えることじゃないが。


 ……何にせよ、まずは身体を治さなければいけない。

 一刻も早く動けるようにならなければ、選べもできない。

 それ以前に、襲撃がないか気を張らなければ。


 ……あいつら死んでてくれねえかな、マジで……



 ◇



 朝になり、目を覚ますと、大分気分もよくなっていた。

 まだ痛みと痺れは残っていたし、今度は吐き気まで催してきて一日ぐったりは確定だったけど、それでも心身ともに参っていた昨日とは雲泥だった。


 ベッドに寝たまま、俺と時を同じくして起きた二人の介護を受けた。まず服を剥かれ、血塗れの身体を拭くところからだ。


「うあ、べっとり……」

「これ、セイタさんの血ですよね? この位置に付いてるってことは……」

「あー……」


 仕方ないので、胸を刺されたことを言う。

 シオンは卒倒しかけ、キリカがそれを支える羽目になった。


「何無茶してるのよ……!」

「だって、あいつら結構強くて……」

「それだけやられて『結構』で済ませないでよ!」


 実際、したのは無茶ではなく、油断だった。

 と、それ言ってもまた怒られるだけなので黙っておく。気を持ち直したシオンが胸を拭いてくれた。


「傷……治ってますけど、少し跡が……」

「あ、ほんとだ……」


 毒を受けたせいか、刺された場所の皮膚は変色して、血管が不気味に浮き上がっていた。我ながら痛々しくて気持ちが悪い。


「これ、セイタ治せないの?」

「治してこれなんだ。解毒しないと駄目だろうな……」

「そう……」


 ただ、何度も言うが心臓ブッ刺されて生きているだけめっけもんだ。さすがに自分は『蘇生』できないからな。

 毒くらいならば……もしかすると、細胞を『活性』させて自然治癒ってことも可能かもしれない。これだけ治ったんだから、望みはある。


 ……何か、一晩経ったらポジティブに考えられるようになった。

 多分、シオンとキリカのお陰だ。二人がいるだけで大分慰められる。というか、癒される。病は気からというか、そんな感じだ。


 そんな元気はないが、つい二人を抱きたくなってしまう。

 性的には無理だから、物理的に。

 いや、やっぱり性的にも抱きたい。


「あっ……?」

「ちょっ、セイタ……んっ!」


 震えて力が入らない手で、二人をベッドに引き摺り込む。

 そんでもって、色々な所を弄る。好き勝手に。傍若無人に。


 参った時に女に縋る、駄目男。そんなのはわかってる。

 それでも俺は二人が好きで、二人に触れていたかった。



 ◇



 ベッドですっきりして、浴室でさっぱりした。

 そうして俺は、賢者になったにも関わらず二人を侍らしたまま、ベッドで横になっていた。ただしもう邪念はない。


 そもそもこうして添い寝を受けているのは、二人からの提案によるものだ。


「身体が弱って、血もたくさん流したんだから、体温下がると思うのよ。冷やすと治るものも治らないわ」

「そうです」


 一見それっぽいことを言っているキリカと、あからさまに便乗しているだけのシオン。だが別に拒む理由もなかったので、こうなったわけだ。


 まあ、本音はこうして慰めてくれているということなのだろうが、それはそれで涙が出るほど嬉しい。もうすっかり二人抜きではいられない身体だ。


 耐性がないから、簡単に女に溺れる。破滅が見える気がするな。

 ただ、簡単に破滅してやる気はないぞ。いっそこのまま溺れに溺れてやる。

 悦楽地獄、三人で沈めば怖くない。待っているのは苦痛ではなく子沢山の幸せ未来だ。多分そうだ。そう思うことにしよう。


 雄の本能だ。今さら後戻りなんてできるか。こんな避妊具もない世界で女々しいこと言うなってなもんだ。


 ただまあ、もう少し落ち着いてからイチャつきたいものだな。

 身体がろくに動かないので、魔法だけ勝手が利く状態だった。

 なので、俺とシオンは手を繋ぎ、二人で今の俺を診察することにした。


「……『治癒』は、効果がないわけではないみたいですね。結局あまりないですけど」

「ああ。毒は損傷としては見られてないからな」

「やっぱり、胸の辺り……ですね、問題は……」

「そうだな……」


 魔力や魔法の知識を受けるに限らず、俺の体調までも感じ取れるとはな。それも客観的視点だからか、俺よりも詳しい所もある。

 これは、上手く『解毒』の手掛かりも得られるか……? 


 シオンの静かな報告を受けつつ、目を瞑って組んだ『解毒』の魔法式を少しずつ書き換えていく。

 全身に回った毒を後遺症なく治さねばならないのだから、一手間だ。


 昼飯を食ってまた作業を始める。気も紛れたのか、歩けるくらいには回復した。シオンの魔法の訓練を見ながら、毒の成分を解読、解読。

 何か、このまま自然治癒した方が早いんじゃないかと思ったのは、陽が沈んでとっとと寝てしまおうかと思った頃だった。


 その日は結局、アナイア達は攻めてこなかった。



 ◇



 何事もなく三日が経った。経ってしまった。

 その間俺が何をしたか、というかどうしたかというとだ。

 とうとう解毒を諦めた。着実に復調していく体調を感じていて、何やら全てが面倒臭くなったのだ。


 俺は毒物だとか化合物だとかの知識がない。なので結果から言うと、『解毒』の最適化は酷く困難を極める作業だった。

 潔く諦めて、余った魔力を全部代謝の『活性』に回す方が早いと思ったのだ。無論、今度は多頭竜(ハイドラ)の時みたいに副作用が起きないように。


 そんな甲斐もあって、三日で七割くらいの体調には戻っていた。気だるさと頭痛、それと左半身の末端にわずかに痺れが残る程度の体調だ。これならばチンピラ程度どうとでもなる。


 ただ、相手がチンピラで済まないのが今回の難点だ。

 万全の態勢でも危うかった手練二人。連中を抹殺するには今のままでは危険だ。また同じ轍を踏む馬鹿はしたくない。


 そういうわけで、部屋の『結界』と『探知』のレスポンスを高めておいた。もう『隠蔽』すら暴くほどだ。これはシオンの『隠蔽』で実証済みだった。


 が、それでもやはり不安は残る。

 宿を移るべきかとも考えた。いっそアロイスを出ようかと。


 そんな風に、気もそぞろに歩いていたのが悪かったか。

 気晴らしに三人で散歩していた夕方、うっかり入り込んでしまった路地裏で、チンピラ共に囲まれた。

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