表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.3 Conflict
59/132

五十七話 綺麗

 ──あれから、数時間が経った。


 何でこうなったのだろう。

 俺は今、耐え難い気だるさと法悦の中、二人の少女に腕を抱かれたままベッドに横たわっていた。


 無論、裸でだ。

 無論、二人も同様だ。


 何があったと聞かれれば、ナニがあったとしか言いようがない。

 詳しく言うと、まずキリカに迫られた。それを押し退けようとしたら、シオンが参戦してきた。

 二人に勝てるわけがなかった。次いでにあんな経験をしたキリカを邪険に扱うのも憚られて、気が付けばあれよあれよという間に裸にされていた。


 そして、二人も裸になっていた。下着も残さず、すっぱり裸に。

 二人とも、凄く綺麗だった。

 最近健康的な肉が付いてきたシオンは言わずもがなだ。

 そして、不謹慎だが、キリカの傷跡の赤い腫れが肌が上気したように見えて、それすらも綺麗だと思った。


 俺が耐えられるはずもなかった。


 正直、思うところがなかったわけではない。

 シオンに操を立てたというか、まだ日本人的な、現代人的な「一対一」という考え方が俺の中には根強かった。


 でも、キリカの物欲しげな、そしてどこか悲しげな目を見てしまったら、もうどうにも止まれなかった。

 俺は駄目男だ。わかってはいたが、やっぱり耐えられない男だった。


 キリカを抱いた。致してしまった。

 震え、怯えながらも切願するキリカに応えたくて、そして何より俺が昂ぶりを吐き出したくて、せめて優しくしようと努めつつも、結局抱いた。


 そして、当然シオンも抱いた。

 キリカと俺がしている最中に、黙って見ている彼女じゃなかった。自分でも準備をしながら、俺達二人の情事に巧みに介入してきていたのだ。


 シオンは一体、いつから、どうして、誰のせいでこんなにいやらしい子になってしまったのか。

 俺か。俺のせいか。俺が一度経験して歯止めが利かなくなったように、シオンも俺のせいでちょっと壊れちゃったのかもしれない。

 だったら責任を取らなければと自分に言い訳しつつ、シオンの全身を味わって、楽しんだ。


 色々なことが頭によぎった。あの夢のことだとか、自己嫌悪だとか、責任感だとか、背徳感だとか、申し訳なさだとか。


 でも、それ以上に、心地がよかった。

 終わった後の二人の邪気のない、緩んだ笑顔を見て、特に根拠もなく「これでよかったのかもしれない」と思った。


 ただ、何にせよ。

 成り行きと雰囲気に流されて、二人の女の子の初めてをもらってしまった。その責任は取らなければならなかった。

 結局のところ、キリカに籠絡されてしまった形になったわけだが。今はもう、それでもいいのかもしれないと思っていた。


 キリカに求められて、幸せだった。だから、俺もキリカを幸せにしなければいけないのだろう。

 そう考えることにした。これも一種の取り引きなのだ、と。


「……シオン、よかったのか?」

「はい?」


 右腕に抱いたシオンに尋ねる。彼女は身をよじって横にしながら、俺に向けて薄く笑んで聞き返す。


「何がですか?」

「何がって……こうなったこと」

「別に、何もいけないことはないと思いますけど」


 いや、普通はそうは思わないだろう。

 前も思ったことだが、自分の男が他の女と懇ろになっているのだ。普通はそれを、浮気だとか捉える。シオンはそうではないのか。


 キリカに聞かれているとわかっていて、少々申し訳ないと思いつつも、シオンに聞く。シオンは答える。


「えっとですね。お風呂で、キリカさんと話したんです」

「うん」

「キリカさんも、セイタさんのことが好きなんです」

「うん?」

「ちょっと、シオン……!」


 恥ずかしさからか、キリカの抗議の声が上がる。俺もどこか恥ずかしかった。だがシオンは気にしないで続ける。


「身体で取り入るとか、そういうのじゃなくて、セイタさんにもらってほしいって。だから、それならそれでいいんです。セイタさんは、キリカさんとしたら私のこと嫌いになりますか? いらないと思いますか?」

「そんなわけないだろ。シオンのことはずっと好きだ」

「だったら、私は何も嫌じゃありません。浮気とかじゃないですから」


 シオンが、小さな手を俺の腰に回す。


「正直、ちょっと気まずいと思っていました。キリカさんがセイタさんのこと好きってわかってて、セイタさんを一人占めにしているような気がして。だから、一緒に可愛がってもらえて、私は嬉しいです」

「そういうものか?」

「はい」


 要するに、相手を一人だと決め込んで、別の女を好きになったからと古い女を捨てるくらいなら、二人とも好きになる方がマシだと。

 そう言われると、まあそうかもしれないと思えてしまう。だが、俺はシオン自身がどう思うかと考えていたのだ。要するに、俺への独占欲とかそういうのはないのか? と。


 どうもシオンの様子を見るに、ないらしい。というより、期待されているというか、信じられているというべきか? 俺が、相手が二人になったからといって向ける情の割合を割かないということを。


 そうすると、つまり俺は単純に考えて、今までの二倍女の子のことを考えなければいけないのだが……

 ……いや、それは必要経費というべきか。甲斐性ってのはそういうもんだ。


 浮気者というか、スケコマシというか……俺がこんな風になってしまうなんて、俺自身が思ってもいなかったから、どう考えたらいいものか。


 と、そこでもう一人の当事者に目を向ける。


「じゃあ、キリカは……その、よかったのか? こうなって」

「あたしは、その……うん、まあ、別に」


 別にって。何か、行為が終わって冷めた感じのするキリカだった。

 いや、落ち着いているだけ大分マシだろうか。さっきに比べれば。


「あ、あたしはさ……ずっと言ってたじゃない。セイタのこと、いいなって。セイタの女にしてほしいって。だから、嬉しいよ。本当に」

「お前も物好きだな、俺なんかに。あんまいい趣味には見えないぞ」

「それを言ったら、シオンも趣味悪いってことになるじゃない」


 む。それもそうか。

 しかしな。俺はそんなに男前でもなければ、甲斐性もないし堪え性もない。キリカは優良物件と思っているかもしれないが、別にそんな大した人間でもないのだ。悲しいが、それが現実だ。


 シオンが俺のことを好いてくれているのは、多分、ウルルと同様精神的に繋がっているから、それで安心するからだ。

 単純に男として惚れた、というわけではない気がする。そこに引け目を感じるのもいい加減徒労なので止めたが、それでもそこが、シオンがキリカと明確に違う部分であるのは確かだろう。


 ……危ないところを助けたという初っ端の部分は同じだが。


「あんたは、自分が思ってるほど悪い男じゃないよ」


 キリカはそう言ってくれた。言いながら、俺の首に手を添えてくる。


「自分でわかってないの? セイタは優しいし、面倒見もいいし、顔だって、とぼけてるけど言うほど悪くないわよ?」

「はあ。そうかい」

「それに何たって、責任感もある。だから、中々シオンとあたしに手を出さなかったんでしょ?」

「どうかな……」

「あたしはそうだと思ってるけど」


 それはどうだろうか。

 これは前にも考えたことだが、責任感があるからではなく、責任を取りたくないから手を出さなかった気がする。

 二人を助けて、そのことに付け込むような感じが嫌だったのだ。

 今となっては、そんな言い分ももう手遅れだが……


 というか、二人にとってはどっちでもいいんだろうか。

 結局、俺のやることは変わらない。手を出してしまった以上、責任は取るしかない。それが押し切られたからだとしても、だ。


 ただ、「付け込んだ」と思っているのは俺だけではないみたいだった。


「……悪いとは思っているわよ。二人には、その……何だか、何て言うか……あたしがこんなだからって、こんなこと頼んじゃって、さ……」


 浴室で二度二人きりになって、シオンとキリカは俺の話をしていた。

 切り出したのは、シオンの方からだったらしい。そこに至るまでは、尋問に対してのキリカの謝罪が続いていたそうだが。


 何があったかを話し、謝り、キリカが俺を裏切ったと言い、シオンはそうではないと言って慰めた。そこから、ここに至るまでの計画を立てられた。


「セイタさんは許してくれますよ。キリカさんを追い出したりなんかしません」

「でも、それじゃあたし……」

「私からも頼みます。それで駄目なら、身体で払いましょう。ついでに慰めてもらいましょう。大丈夫です、怖くありません。私も一緒に頑張ります」


 慰めてるのか何なのか知らないが、シオンは割と気が触れた様子でそう言っていたらしい。いくらキリカのことを考えてと言っても、やっぱりちょっと怖い。


「あ、あ、あの時は、だって、キリカさんはこんなにセイタさんのこと考えてるのに、セイタさんに私の方ばかり見てもらっているのが申し訳なかったというか、それで、その……」


 つまり、俺が持っていた申し訳なさと正反対のものをシオンは持っていた、と。そういうわけだ。

 そういうわけなので、こうなったと。

 いや、いくらなんでも飛躍し過ぎだ。いつの間に俺は君達の共有財産になった。というかシオンがキリカに俺の共同統治を提案したのか。


 わけがわからないよ。わけがわからないまま下半身を握られてしまった。完全に意のままだ。大事なものを奪われた気分だ。

 でもまあ、キリカが落ち着いたならいいか。俺も気持ちいいし。


 ……だからそういう思考が駄目駄目だっていうのに。


「もういい。俺は寝るからな」


 ふてくされた声で言って、毛布を引っ被る。

 そうして誤魔化そうとしても、両脇の柔らかさと温かさが心地よくて、どうしても拭い切れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ