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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.2 Outing
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三十五話 まるでデートじゃないの

 朝になる。

 三人揃って起きて、宿の裏に回り頭と顔を洗う。

 その後、洞窟でパクッてきた保存食をもっしもっしと食う。糖分を重点的に補給。


 まだ気だるさが少し残ってるので、全身の骨をごきごきと鳴らしながら軽く体操。

 昨日は割と久し振りに動いたからな。身体の奥に疲れが残ってるかもしれん。素の体力もつけといた方がいいかな。


「じゃ、行きましょうか」

「本当に行くのかよ」

「約束したじゃない」

「してねーと思うんだけど」


 と言いつつ、断り切れず俺はシオンとキリカの付き添いでサブリナの町に繰り出す羽目になったのだった。


 ◇


「セイタさん、まずどこに行きましょうか?」

「俺はわかんねえよ。キリカとシオンで決めてくれ」

「いいの? どうなっても知らないわよ?」


 何だよ怖いな。まあ仕方ないか。今日の俺は二人の奴隷みたいなもんだし。割とこの十日間そんな感じではあったけど。


 そうして始まったのはウィンドウショッピング。要するに見るだけで買わない女子お得意のスタイリッシュ冷やかしだ。午前中はイージーモードで済ませてくれるらしい。俺としても半日荷物が増え続けるのは勘弁なのでありがたい。


 なお傍目には両手に華で天国に見えるかもしれないが、当の本人は正直こういう状況は堪ったものではない。慣れてないので一々視線にビクつかなきゃならんのだ。俺を見る目もシオンやキリカを見る目も、何かしらの思惑を感じてしまう。


 俺の自意識過剰だろうか。いや、そうではないと思う。少なくともシオン達を見る目に下心が混ざっているのは間違いない。


 ていうか、普通混ざる。見た目は二人とも美少女そのもので、しかも今この町には色々飢えてそうな傭兵野郎で溢れているのだから。モブっぽい俺よりは大分見られてるはず。


「……なあ、気になったんだけどよ」

「何?」

「お前とシオン、よく一緒に町出てたよな。ナンパとかされなかったのか?」

「されたわよ」

「は?」


 初耳である。しかも割と衝撃的な事実だ。違和感はないがな。

 ていうか、大丈夫だったのだろうか。いや、大丈夫だからこうして今も平然としていられるんだろうが。


「ふーん、心配してくれてるんだ?」

「そりゃ、シオンに何かあったら大変じゃねえか」

「あたしのことは?」

「まあ、多少は」


 不機嫌な顔された。だって本当のことだもん。

 と、シオンが俺の服をちょいちょいとつついてくる。何だい? 


「あの……キリカさんがそういうの、追い払ってくれたんです」

「何だって?」

「凄かったですよ、とても強そうな男の人も簡単に何とかしちゃうんです。ちょっと話しただけで」


 何だよそれ、怖いな。一応キリカにも事情を聞いてみる。


「大したことはしてないわよ。ちょっと強く言えば大抵退いてくれるし、それでもしつこかったら『あたし達に手を出すと怖い魔導師が黙ってないわよ』って言うの」

「それって俺かよ?」

「そう。あたし達、あんたの女ってことになってるから。そういうことでよろしく」


 おいおいおいおいおい。それって俺が気付かないうちに誰かの恨みとか買ってるってことじゃねえの。やめてくれよ本当に。もう遅いか。遅いな。


「じゃあ、そろそろお昼にしましょ。ちょっと歩き疲れちゃった」


 どの口が言うんだよまったく。シオンの手前黙っておくけどさ。


 ◇


 昼飯を軽く済ませた後は、本格的に何か買おうという話になった。言い出したのは無論キリカである。しかし買うのはシオンの、特に服とかそういう類いのものらしい。どういうことだ。


「着替えなら調達したって言ってたじゃんよ」

「あの子の一張羅の話よ。せっかくお金あるんだから、甲斐性見せてもっといいもの着せてあげなさいよ。保護者でしょ」

「あ、あの、私は別に、これで……」

「駄目よ。女は嘘と見栄で勝負してるようなものなんだから。服は鎧よ。盾よ。剣よ」


 どういう理屈だ。わけわかんねえよ。

 と困惑しつつも、やっぱり抗えず俺とシオンは仲良くキリカに引き摺られていく。


 そうして辿り着いたのが、何の因果かサブリナに来て真っ先に入ったあの古着屋だった。


「あれ? ここかよ?」


 疑問の声は無視され、店内に入る。と、案の定あのお姉様が俺達を出迎えてきた。


「おや、あんた達また来たのかい?」

「え? キリカ、ここ来たことあんのかよ」

「昨日ここで着替え仕入れたのよ。その前もシオンとちょくちょく来てたわ。色々回ったけどここが値段とか品揃えとか一番いい感じだったから」


 へえ、知らんかった。そういうの聞いてなかったからな。

 いや、聞き出さなかったからか。俺が聞かなきゃシオンは話さないからな。

 ついでにキリカもキリカで結構秘密保護主義だ。そもそもが盗賊だからな、あいつ。


「それで、今日も何か買っていってくれるのかい?」

「ええ、この子の服を。うんと可愛くしてほしいの」

「待ておい、これから馬車乗るんだぜ。旅装じゃないと困るだろ」

「勝負服よ!」


 意味がわかりません。何で金出す俺と争点であるシオンを置いてけぼりにして話を進めているのか。


 結局、シオンに黒のローブを買うことになった。それも、当然全面黒単色とかいうつまらない奴ではない。所々に金色の刺繍が入っていて、地味ながら高級感漂う奴だ。


 一気に趣が変わったが、シオンにはよく似合っている。ただ一つ惜しむらくは、足首まで隠れるようになったのでシオンの太股を眺めて昂ることはできなくなってしまったということだろうか。はい、すいません。セクハラです。


 お値段は銀貨七枚である。中々お高い。まあ、着替えたシオンを見ると本当に魔法使いの少女そのものという感じで愛らしかったので、そこはトントンというものだ。


 あとは杖とつば広の三角帽があれば完璧なのだが。というか、むしろここまでくると完璧に仕上げたくなってしまう。

 探すか。杖と帽子探すか! よし! 探すか! 


「結局ノリノリじゃないの、あんたも」

「だって! 魔女だぞ魔女!」

「好きなの?」

「嫌いな奴がいるか!」


 こういうテンプレな格好も好物です、はい。ていうか女の子の着せ替えってどうもイケナイ気持ちになってくるな。このままではあらぬ格好まで試させてしまいそうだ。


 自制しなければ。いやいいか、今日は自制しなくて。


「よっしゃ! キリカも着替えちまえ! 金は出す!」

「は、はあ? 何言いだすのあんた」

「言い出しっぺはお前だろう! 俺の故郷には『言い出しっぺの法則』って言葉があるの! だからお前も着替えんの!」

「何よそれ……」


 だって、キリカは晩秋から初冬のこの時期に半袖ショートパンツなんて格好なんだもの。

 露出増やして誘ってるつもりかもしれないが、正直見るだに寒そうで忍びない。というのは当然建前なわけだが。


「あ、あたしは身軽な格好がいいし、それに寒いのは慣れてるから……」

「そうねえ……じゃあちょっと探してみるわ」

「よろしくお願いします」

「え? あれ? ちょっ、あれ?」


 お姉様に手を引かれ、あれよあれよという間に店の奥に連れ込まれるキリカ。それを見送りつつ、俺はリニューアルしたシオンを堪能することにした。


 やがて帰ってきたキリカの姿は、前の趣を残しつつも心機一転した姿になっていた。


 ショートだったパンツはタイトでロングなものに、黒いシャツも長めのものに替わっている。チョッキはそのままだが、首には黒のスカーフが巻かれていた。


 何というか……キリカの本職をわかってやってるんじゃないのか? というコーディネートである。お姉様、怖ろしい人っ。


「違和感はないけど……うーん」

「いいと思うぞ。スパッツが見れなくなったのはちょっと惜しいけど」

「すぱっつ?」


 おっと、ついまた本音が。いかんね、下半身は正直で。あはは。

 はてさてお値段はというと銀貨十二枚になりました。おい、元々の目的のシオンより金かかってるじゃないか。どういうことだこれ。まあいいか。


「あんた達、サブリナを出るんだろ? 寂しいねえ、いいお客さんだったのに」

「いやあ、どうもすんません」

「ま、大事にしてやんなよ。その服も、その子達もね」


 いやお姉様、誤解していらっしゃる。俺達そういう関係ではないのですよ、まだ。いや、金輪際? どうなのかな、何迷ってんだ俺ってば。


 ついでとばかりに俺の分の服も仕立ててもらってから、古着屋を出た。計銀貨二十五枚のお買い上げとなります。あのね、だから節約をね……

 今さらか。俺もノリノリだったしな……


 ◇


 その後。靴を買い替えたり昨日の調達漏れを補填したり、菓子店に行って頼んだケーキを試しに『凍結』でちょっと凍らせたら美味かったり、シオンに帽子を買ったり。

 そんな風に町をぶらりぶらりとしながら、気付けば夕方に、そして夜になっていた。


 やはりというべきか夕食も豪勢にならざるを得ず、俺はたらふく食べて幸せそうなシオンとキリカを見て苦笑し、結局自分もたらふく食った。


 そうして部屋に戻り荷物を整理し終えた頃、シオンとキリカは同じベッドで寝息を立てていた。最後の最後で気を遣ってくれたらしい。俺は今日もベッドで寝られる。


 灯りを消して天井を見上げ、目を瞑ってふと思う。

 食事して買い物して一緒に歩いて、これってまるでデートじゃねえかと。

 女の子二人も連れてデート? 何て罰当たりな。去勢されろよクソリア充、と。


「でもまあ、楽しくなくはなかったかな……」


 そんな風に思っちゃう自分が、ちょっと滑稽だった。

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