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二代目魔王の御乱心  作者: 古口晶
Chapter.1 Induction
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二話 控えよ下郎

「おーはよーうごーざいまーす」


 俺が高らかに挨拶するなり、山々も元気に挨拶を返してくれる。おーはよーうごーざいまーす、おーはよーうごーざいまーす……おーはよーうごーざいまーす…………


 うん。虚しいのはわかっている。

 ただ一度聞いてみたくてね、山彦。


 俺はTシャツに半ズボン、サンダルというこの世界に来た時から変わっていない、明らかに山を舐めた格好で、高山の冷たい空気を胸一杯に吸い込み、大きく背伸びをした。

 眼下に広がる雲海と山々の連なりを目に収め、喜色満面。

 絶景かな、絶景かな。いや、絶景過ぎるわ馬鹿。


「まあこんな景色が見られるなら、馬鹿でも構わんよな」


 そう一人ごちて、寂しく自分に首肯。いや寂しくはない。虚しくはあるが。

 まあいい。今俺の目の前の景色を前に、そんなしみったれた感傷など無意味だ。


 大陸有数の標高を誇る霊峰、オルタル山。俺は今、その頂に立って、この世の全てを手に入れたような錯覚に酔い痴れていた。


 ◇


 俺がこの世界に魔王として君臨(笑)してから、ひと月が経つ。

 あの日、俺は自分の居城たるナハトファーレからトンズラこいて、合計十二回の『転移』を実行し、この地へとやってきた。


 なんか妙に回数が多い気がするが、というのも、そもそも『転移』はあまりに長距離な移動が可能な魔術ではなかったのだ。いや、一度で百キロ──体感ではあるが──も跳べれば充分ではあろうが、それでもアホみたいに広い魔王領から人類領へと逃げ込むには、一度二度の『転移』では到底足りないほどだった。


 さらに、始めは順調だった『転移』が回数を重ねるに従い、どんどん精度と移動距離が怪しくなっていったのだ。さすがの俺、というか魔王でも六度の『蘇生』も併せて、魔力切れを起こしかけていたらしい。なんか終盤よだれ垂らして喘いでた気がする。

 どうにも魔力切れは心身に多大な不調を引き起こすようだ。しかも最大魔力量が高ければ高いほどその症状は深刻になるとか。ふざけんな! 


 でもまあ、そんなことになりながらも、俺はどうにかこの時代の魔と人の分水嶺、オルタル山とそれに続く連山に辿り着いたというわけだった。


 とりあえず、最初の一日は疲れ果てて、岩の上であるにも構わず寝た。

 二日目は、痛む身体を引き摺って麓の森を歩き、やっぱり疲れて寝た。

 三日目、いよいよ空腹具合がヤバいとなって、死の危険を覚え始めた。


「魔王だって食べなきゃ死ぬんだょっ……!」


 当然である。馬鹿じゃねえの。

 と自分を蔑みつつ、俺はこの状況でどうすべきか考えた。

 閃いた。狩りをすればいいのだ。

 そんな垢抜けない考えの何が閃きだと思いながらも、俺は考えを実行に移した。


 まず、三日で回復したらしい魔力を使って『探知』を使用。周囲の動植物を探した。

 そこから、獲物にアタリをつけて接近。三回ほど逃げられながら、近付けるギリギリの距離を探った。同時に魔法で風の流れをそこはかとなく操り、風下に立つようにした。


 記念すべき、そして悲しむべき最初の獲物は、雄のアカシカらしき獣だった。理由は「なんか食いでがありそうだったから」である。


 俺は草むらに隠れながら、狩りに使える魔法を適当にリストアップ。弓矢の代わりに使えそうな『氷槍』を発動させようと、精神を集中させた。

 すると、数秒で俺の手の平の上に冷気と空気中の水分が集まり、肘ほどの長さの『氷槍』ができあがった。

 どうやら、俺は思いつく魔法なら大体使用して、形にできるらしい。腐っても魔王だからね。『蘇生』だって使ったんだし、これくらいのことはできないとね。

 と得意気になりつつも、魔法の訓練はするべきだとその時に誓った。

 ついでに、ろくに狙わず放った『氷槍』はアカシカくんの心臓を一発で貫き、当面の飯の心配はなくなったのだった。


 聞きかじり、というか魔王の知識──なんであいつはこんなこと知ってたんだ──頼りに、色々と魔法を使いつつシカを解体。内臓と血の臭い、グロテスクなビジュアルに若干オエッとなりながらの食肉加工。『火球』を転用しての火起こし。うっかり山火事になりかけ周辺一帯を『凍結』などなど、失敗を重ねながら腹を満たし、くたびれて寝ては蚊に刺された痒みで起きたりしながら、俺は魔法の練習を始めた。

 いや、この場合は「復習」だろうか? 知識自体は既にあるのだし……いや、どうでもいいかそんなこと。


 とにかく、俺は一週間ほど魔法の訓練に費やし、徐々に使える魔法のレパートリーを増やしながら、またその概念自体にも理解を深める努力をした。


 まず、この世界における『魔法』とは、世界と自分の中に満ちる『魔力』を用いて様々な現象を引き起こす一種の技術のようなものだ。まあ、ありきたりでわかりやすい概念だな。

 で、人間の間に一般的に広まっている魔法体系では、魔法と魔力は地水火風の四属性元素に分けられるという『四元素式』が一般的だ。これもまあ理解しやすい。

 ただ、魔王の知識ではその体系は不完全らしい。


 実は、ヴォルゼアはかつて人間だった。だが魔法を極めた末に魔王となり、強大な力を得て人をやめた。その際に『一元式』の魔法体系を構築するに至った。

 これはつまり、「魔力に属性などなく、その運用と法式次第でどのような魔法をも生み出せる」という考え方だ。

 これによって、魔王ヴォルゼアはより根本的な部分での魔法の革新に成功した。大樹が無数に枝を伸ばすように、次から次へと魔法を生み出していったのだ。

 これが人の魔導師であれば、歴史を変える偉人となっていたことだろう。

 だがヴォルゼアはその力で異界の門を開き、悪魔を招き寄せ、人間と世界の支配を願ってしまった……


 まあ、もう死んだからどうでもいいことだけどな! 


 今大事なのは、俺がその魔法の極みとでもいうべき知識の全てを持ち、自由にできるということだ。

 次から次へと頭に浮かぶ、というか検索に引っかかる便利そうな魔法の数々……確かにこれは、欲がむくむく湧いてきても仕方がない。それだけの魅力がある。可能性が無限に広がっていくいい気分だぜ。


 何もしないけどな。

 だって俺ってばノーと言えない日本人の気質そのままだし、後先考えず暴走できるほど神経太くないし。

 あと人とか別に殺したくないし、支配とかむしろされてる方が安心しちゃう。

 俺ってば根っから指示待ち人間なんだよ。いいじゃん、平和ならそれで。

 というわけで、俺はこの一ヶ月魔法を使いながらのらりくらりとアウトドア生活を送ってきたというわけだ。


『探知』で獲物を探して。

『氷槍』や『風刃』で獲物を狩って。

『火球』で肉を焼いたり服を乾かして。

『結界』で夜の虫除けをして。

『土整』で居住用に洞窟整えて。

『掌握』で狼とか従えたりして。


 ……実に魔王らしくない行為の数々である。

 でも平和的でいいと思う。大体もう魔王は死んだんだし、それでいいんじゃない? 

 俺はここで気楽に暮らしますよーっと。


 ◇


 とはいえ。

 さすがにひと月も野宿野宿アンド野宿では、退屈も募るというものだ。

 いや、野宿が悪いんじゃない。『結界』やら各種温度調節用の魔法のおかげで、寝床である洞窟は快適だし。森は静かだし。シカ肉は新鮮で美味いし。

 退屈なのは、あんまりにここに引き篭もり過ぎているからだ。


「……下界に下りてみるか」


 そんな仙人めいたことを思う。仙人はひと月で山籠り中止したりはしないと思うが。


 ただ実際、外の世界、というか大陸全土の状況は気にならないでもない。五百年暴虐を振るっていた魔王は勇者達の手で滅ぼされたわけだし、みんなお祭り気分なんだろうか、とか、それともまだ魔王領への進軍は止まっていないんだろうか、とか。

 いや、言い繕っても仕方がない。

 ぶっちゃけ、そろそろ人恋しくなってきたのだ。

 何せひと月。三十日も一人なのだ。日本では考えられない。刑務所だって毎日人と顔を突き合わせるだろうし、独房だってそんな長くはブチ込まれないだろう。これでは本当に仙人だ。

 ああ、そんな風に考えると一層寂しくなってきた。悲しくなってきた。惨めだ。俺ってばメンタル豆腐。笑っちゃうぜ。笑ってくれ。


「なあウルル~笑ってくれよ~」


 惨めったらしい声を洞窟に響かせながら、俺は傍らに座る「ウルル」と名付けた灰色狼の背に顔を埋めた。

 なんか偶然見付けたので『掌握』でペットにし、段々慣れていくうちに『掌握』なしでも懐いてくれるようになった、俺の優しく凛々しいAIBOである。

 なお、このウルルは俺の世界の狼より一回り、いや四回りほど大きい。平然と背中に乗れるレベルで大きい。虎とかライオンとかと同等、あるいはそれよりも勝るほどの体躯だ。初めて目と目が合った瞬間、つい自分が魔王であることを忘れて「あ、死んだ」と思ったくらいに威圧感あった。なんとか姫のなんとかの君を思い出すな。


 あ、ついでになんか最近、こんな風に元の世界のアニメやら何やらを思い出すことが多くなった。俺はあっちではオタク寄りの人間だったらしいからな。相変わらず自分自身のことは結構おぼろげだけど。

 ……こう考えると、俺にとっては俺自身の記憶よりアニメや漫画やゲームの記憶の方が重要だということなのだろうか。なんかそれって、虚しい。


 まあ、元々大した人間でもないし、別にいいけどね! 

 ……強がりじゃないんだからね! 


「うう~俺の友達はお前だけだウルルよ~」

「ウゥゥゥ……」


 なんか唸ってる。めっちゃ困った声上げてる。だがそこが可愛い。愛してる。

 なお、ウルルは雄の模様。いや、別に、俺はホモじゃないし、それにウルルが雌だったからって、なんかそんな冒涜的な真似とかしないから……

 ……誰に言い訳してんだ、俺。やっぱ、精神的に参ってんのかな……


「ウゥウッ?」


 と、突然腹ばいになっていたウルルが、頭を地面からがばっと引き上げた。

 何か、と思いきや、鼻をスンスンと鳴らしている。

 この反応は、あれだな。付き合いの長い(二週間)俺でなくてもわかる。

 何かを嗅ぎ取ったんだな


「どうした、おい?」


 俺が声をかけると、ウルルは一瞬唇をめくり、奥の牙を覗かせて見せた。その反応に、俺は少し変なものを感じる。

 こいつは、ただ獲物が近寄っただけではこんな反応はしない。もしそうで腹が減っているのなら、ただ黙って立ち上がり、俺を促す。減っていないのなら、鼻を一度鳴らして終わりだ。

 化け物の如き巨体を持つこの狼は、この辺りの生態系の頂点にいると思われる。そんなこいつが、曲がりなりにも警戒心を覗かせるとなると。


 ……相手は魔物か、人か? 


 ……それとなく、『探知』を使う。いつも狩りをする時は微弱な生命でも引っかかるように魔力を調整するが、今回は一定以上の大きさの生命力と魔力が引っかかるように『探知』を飛ばした。

 が、それらしい反応は引っかからない。仕方がないか。俺の『探知』の最大範囲は広いようで、実際そうでもない。

 巨大な魔城ならばすっぽり探れたとはいうものの、今俺がいるのはそれより遥かに広大な樹林の奥地である。推定索敵範囲半径一キロ程度ではどうにもならない。


 対してウルルの鼻はといえば、狼であるからにギンギンに研ぎ澄まされた嗅覚を備えているのは疑いようがない。多分、身体もでかいし凄まじくいい鼻なのだろう。魔力も嗅ぎ取れるかもしれない。勝手な想像だが。

 というと、なんか魔王って大したことなくね? って気分になるが、まあ別にいい。俺ってばそんなに自尊心高くないし、というかむしろ低いし、そもそも俺の力は全部借り物みたいなもので、俺が誇るべきものでもないし。

 ああ、どんどん卑屈になっていく。やめよう。


「なあウルル、なんか臭ったのか?」

「ウゥッ」

「ちょっと連れてってくれないか?」

「ウォウッ」


 肯定と受け取る。というか、肯定だ。

 俺とウルルの間にはもう隷属関係はないが、微弱な魔力の繋がりがある。意志の疎通を可能にする程度の繋がりだが、これが実にいい。

 その強面に似合わないウルルのちょっと抜けた思考とかが伝わってくるし、何より俺の言うことをウルルが理解してくれる。

 というか、そもそもそれを理解できるほどにウルルが賢いってことなんだよな。やっぱりここの狼は元の世界のとはどっか違うのかもしれない。

 まあ、そのことは追々考えるとして。


「じゃあ頼むわ。ゆっくりめでな」

「ウォアッ」


 言うが早く、俺はウルルの背に飛び乗った。即座にウルルは地面を蹴って立ち上がり、根城の洞窟から飛び出す。

 ゆっくりって言ったのだが、それでもウルルの足は結構速い。そもそも歩幅が馬鹿みたいに広いのだから、これは仕方がないことだろう。必死に振り落とされないよう前傾姿勢になる。枝に頭ぶつけることもあるからな。というかあった。


 そうして、体感で十分ほど森の中を走った頃だろうか。

 ウルルがゆっくりと速度を落とし、足を曲げて姿勢を低める。俺はそれを受けてウルルから降りた。

 そうして、金色の瞳と見詰め合う。「近いぞ」と言っているように俺には思えた。俺が頷くと、ウルルは一度湿った鼻を俺に寄せて、それからその場で忠犬待機の構えに入る。ハチ公のアレだ。

 凄まじくカワイイ。涙が出る献身振りだ。いや、親友だ。ウルルは親友なのだ。惨めったらしい俺とともにいてくれる、無二の存在。

 ウルルになら掘られてもいい。むしろ食われてもいい。もういっそ三代目魔王にしてやってもいい。そんなことできるかわからないが。


 冗談が過ぎた。用件を済まそう。


 俺はその場で再度『探知』を使った。ウルルは俺がやることをわかっていて、『探知』の範囲に相手を捉えられる距離にまで近付いてくれたのだ。ウルル自身はその巨体で隠密行動ができないので、ここでお留守番となる。

 そして果たして……『探知』には反応があった。


 その反応の動きから、それが人間である、あるいはそれに準じる存在であることはすぐにわかった。ひと月前の魔城で感じた動きとよく似ていたからだ。

 あの時と違う点は、二つ。数が著しく少ないこと、それから、一つの反応を他十弱の反応が追いかけるように動いているということだ。


「山賊……盗賊?」


 そんな考えがぱっと浮かぶ。実に短絡的で、そして的を射た結論だと思う、我ながら。

 さて、それではこの件をどうするか。


「関わり合うのは面倒……でも知っちゃったからに見過ごすのもなんか後味悪いし……」


 どっちに転んでもあんまりいい気がしない。人恋しいとか言ってた割に勝手な考えだと我ながら思うが、俺の心も秋の空っていうしね?

 どうでもいいが、今の季節は何なのだろうか。若干肌寒さがあるから秋なのか、山が近いから、あるいはそういう地域だからそうなだけなのか、そもそもこの世界にちゃんとした季節があるのか……


「……まあ、いいや。行ってみるか」


 とりあえず今は、騙されたと思って偽善活動でもしてみるか。

 異世界もののお約束って感じだしね? 


 ◇


 木々を縫って、緑色の服の少女が駈けていく。

 それを追い、どかどかと草を踏み荒らして叫ぶ十の影。

 やがて少女は木の根に足を引っかけ、その透き通った金髪を振り乱して転倒する。


「ああっ」


 驚きと痛みと、それから絶望の叫びとともに、少女が地面に倒れ込む。

 彼女は地面を掻いて立ち上がろうとするも、それより早く影──革鎧姿の男達が、その矮躯を押さえつける。


「オゥラぁっ!」

「いやぁっ!」


 少女の悲鳴にむしろ気をよくした男達は、下卑た笑いを浮かべながら彼女の腕を押さえ、足を押さえ、その服へと手をかけて──


「おい待てコラァ!」


 と、そこに颯爽と登場する俺。

 タイミングを図ったわけではない。全速力で走ってようやく間に合ったのだ。いやもう手遅れといえばそうなのかもしれないが。なんか女の子の服の胸元少し破れてるし。


「なんだぁ……?」

「ガキじゃねえか」

「見ろよあれ、変な格好してるぜ」


 と、一人が俺のTシャツ半ズボンサンダルの夏真っ盛りスタイルを見て笑う。他の男達も笑った。みんなが俺を見て笑っていた。個人的に楽で好きな格好だったから、なんかちょっと屈辱的……


「そ、その子にいかがわしい真似をするのはやめなされ」


 馬鹿にされながら、ちょっと引け腰かつ変な口調で忠告。なおウルルに話しかける時は日本語だったが、今の俺は魔王の知識頼りで現地語──エルデ語というらしい──をバリバリ使っている。いや、バリバリ使えてないから変な口調になったのかもしれないが。


「「「「「あっははははははははははは!!」」」」」


 だからだろうか。もっと笑われた。なんか悲しい。馬鹿にされるって悲しい。中学でちょっといじめられてたことを思い出す。なんでよりによって今思い出すんだろうか。記憶くらいちゃんと奪っておけないのか魔王の馬鹿ちん。


「笑うなこの汚物ゥ!! 虚勢されてえか!!」


 プッツンきてかつての俺をちょっと取り戻し、下品な暴言で反論してみる。自信満々に指を指しながら。

 ああ、なんかちょっとスッキリした。こういうのでいいんだよ。

 山賊どもも黙って、俺を見る目も据わってるし……ん? 


 あ、なんか睨んでる。

 俺、睨まれてる。喧嘩売られてる、というか、狙われてる。

 あの目は、アレだ。身ぐるみ剥いじまおうとかそんなんじゃ済まない。歯を一本一本引っこ抜いて悲鳴を子守り歌にしようとか、ケツの穴に手が入るまで使ってやろうとか、煮込んで食っちまう、骨はダシ汁に使うからなとか、そんなことを考えている目だ。


 俺ってば、超ピンチ。イッツァピンチ。


「てめぇ、いい度胸してんな」

「なんなんだ、てめぇ」


 じりじりと、賊どもが俺を取り囲み始める。計九人。『探知』を使うまでもない距離で、俺はその位置をなんとなく把握できている。

 一見して、かなりマズい状況だろう。四方八方を危ない男達に囲まれているのだ。

 だが、今さら謝ったって遅い。謝る気もない。賊の一人に引き立たされた女の子の乱れた服を見るに、ちっぽけな正義感がビンビンに反り立っていらっしゃる。

 俺は内心ちょっとビビりつつも、賊の問いに不敵な笑みを交えて答えた。


「──魔王である。控えよ下郎ども」


 ……また盛大に笑われたのは言うまでもない。

一話5000字~10000字辺りを目安とする予定です。

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