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  作者: yoshihira
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2-4






 馬車を使って辿り着いた王宮では、奥まった場所にひっそりと隠れるような扉から通され、そこが裏口なのだと説明された。


「まだ、俺たちが帰ってきた事を秘密にしろって言われててさ」


 そうして誰にも会う事無く、それでも幾つかの回廊を渡り、突き当たった小部屋に入る。

 そこで長椅子に座って待つ事しばらく。

 入ってきた扉とは別の扉から、右目に眼帯をした一人の男が現れ、謁見の準備が整った事を告げた。


「まさか、生きていたとはな」


 彫刻のように雄々しく整った顔、抜きん出た長身、がっしりとした肩幅の偉丈夫は、腰に留められた一振りの剣を見ずとも、戦いに身を置く人間だと見て取れる。

 唇の片端を上げて笑う金髪の男の眼差しは、二人に刃を突き付けるかのようだった。

 友好的とは言えない口調や冷然とした銀の眼をみる限り、タズークとソウキの友人ではなさそうだ。


「セイドも相変わらず凶悪そうな顔してるなぁ。裏方のお前がわざわざ出てくるなんて、ちょっと驚いたんだけど」


 タズークは意に介さず、軽く笑って受け流す。


「お前たちを本物か見極めるのも仕事の内でな。だが、その能天気そうな面はお前以外有り得まい。それに―――かの救国の魔術士殿も確かに健在なようだ」


 面白くもなさそうに冷え切った絶対零度の目で嗤ったセイドと、静かな目で黙って見返すソウキとの間に、そこだけ空間が切り取られたかのように他者の入り込めない何かが張り詰める。

 セイドの態度は憎んでいると言っても良い程、凍てついていた。


 緊迫した雰囲気に、側にいたリナは知らず、隣のソウキの袖の端を握り締めていた。

 ついと引っ張られる袖に、ふっと視線を流したソウキと目が合うと、自分のした事が目に入って、慌てて手を放す。


 ソウキは問題無いと口にする代わりに、そっとリナの頭を撫でてやった。


 一部始終を見ていたセイドの瞳が驚きに瞠られる。


「じゃ、そろそろ行くか。陛下も待ってるんだろ?」


 その様子をタズークが面白そうに見守っていた。


「…その子供は」

「陛下の前で話す」


 セイドは何か言いたげな色を浮かべたものの、口を閉じ、踵を返した。


 案内された私的な謁見室の玉座に、サンフォルド国王は待っていた。


 何とはなしに、髭を生やした高齢の男を想像していたが、玉座に座っていたのは、ソウキたちとそう年の変わらないだろう、眠たげな目をした男だった。

 着ている服も黒一色で一見、地味にみえる。玉座に座っていなければ王だと気付かなかったかもしれない。

 蜜のような金髪と、秀麗な顔立ちの持ち主ではあるが、大欠伸をしてだるそうに頬杖をつく姿では何というか、色々台無しだった。


「なんだ、本当に生きてやがったか」

「帰還しての第一声がそれですか、陛下。よくぞ無事に戻ったとか、生還を信じていたとか、もうちょっと盛り上がる言葉は無いんですかね」

「あー? 面倒臭ぇ事言うなよ。幸い、葬式もまだ挙げてねぇから安心しろ」

「…それはそれは、アリガトウゴザイマス」


 王の前で片膝をついたタズークは、形だけは臣下の礼を取っているものの、声は親しい友人に喋りかけるようなそれだった。


「で、異界に跳ばされただと? 何の寝言をまたほざくかと思ったが」

「誓って真実を申し上げてますよ。信じられないのも無理はないですけどね。俺もあの時、こりゃ死んだなーって思いましたし」

「ふん、全く悪運だけは強いヤツだ」


 何を思い出したのか、忌々しそうに王は舌打ちした後、にやりと笑った。


「三年分の職務怠慢は高くつくぞ?」


 タズークはそれに肩を竦めてみせる。


「しょうがないですねー。陛下を寂しがらせた分、これからたっぷり甘やかして差し上げましょう」

「気色の悪ぃ事言うな」


 久闊を叙する、なごやかな空気はそこまでだった。


「で、俺たちの帰還を内密にしろだの、すぐに王宮に来いだの、きな臭いったらありゃしないんですが」

「察しがいいな」

「…ちなみに裏と表、どちらが入用なんです?」

「裏だ」


 王は即答した。

 タズークは明らかに嫌そうな顔になる。 


「それで獲物は?」

「赤帝と黒狸」

「…帰ってこなきゃ良かった…」


 数年の空白があったとは思えない、そこまでの流れるようなやり取りを終えて初めて、王である青年はソウキへ一瞥をくれた。

 先ほどまでの気だるそうな顔と打って変わって、こちらを見下ろすその表情は王と呼ぶに相応しい傲然たる威容だった。


「好い加減、眠り獅子でいるのも面倒だ。王命だ。二度とふざけた事を考えられないように、黒狸の尾を噛みちぎって来い。

 処分はお前たちに一任してやる」

「御意」


 具体的に何について話しているのかわからないまでも、不穏な気配だけはひしひしと感じる会話だった。

 話が一段落したその時、そこで初めてソウキが伏せていた面を上げた。


 再び気だるい様子に立ち戻った王である青年が気づいて首を傾げる。


「何だ? 常に受身なお前が動くなんて珍しい」

「…恐れながら、陛下にお許しをいただきたく」

「頼み事? 珍しいな、お前がか?」

「私たちが任務を終えるまで、彼女を王宮で保護していただけませんか」


 その発言を機に、リナに視線が集中する。


 王宮で保護?

 告げられた内容に驚く。どうしてという疑問が形になる前に、ソウキの淡々とした声が続いた。


「正確に言えば、我が師、王宮筆頭魔術士であるオーバ様の側に置いていただきたいのです」

「で、そのガキは何だ?」

「異界で知り合った子供です」


 あらかじめ知らされていたのだろうか、異界の人間と知らされても王は眉をひそめただけで驚きもみせなかった。


「何でわざわざ連れて来たんだ? お前の女にするんならともかくこんなガキ」


 目の前の魔術士が極端な女嫌いである事を知っているくせに、人の悪い笑みを浮かべた王はそんな事を言う。


「帰還する際の術に不慮の事故で巻き込まれたのです。異界の娘ゆえ、界を渡った影響がどう出るのかを含めて、オーバ様に監視をお願いしたく」


 監視。

 言葉は悪いが、ソウキの口調に悪意はなかった。多分、そうする必要があるのだろうと納得する。


 厚意に甘えてついてきてしまったけれど、リナはこれ以上、二人に迷惑をかけたくなかった。

 彼らがそうしろと言うなら、どんな事でも従うつもりでいる。


「おい、子供、ちょっとこっちに来い」


 不意に王に手招きされて、戸惑う。思わずソウキを見上げれば、怪訝そうな顔をしていたものの、行ってきなさいと頷かれた。


 玉座に続く数段の階段を上り、恐る恐る近寄る。

 何処まで近づけば良いのか、距離をはかりかねていると、顎で指し示されて、手を伸ばせば届くほどの距離まで寄るはめになった。


 間近でしげしげと観察されて、居心地の悪さに身体が硬くなる。


「極普通の子供にしか見えねぇが、これが本当に異界から来たって?」


 ついで眠たげな目が細められた。ぞっとする程、無慈悲に。


「陛下!?」


 驚愕したタズークの声。

 全てを理解する時間も無く、気づけば首筋に抜かれた刃が突きつけられていた。







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