地理把握のお時間です
サーセン・・・
「はっろー!」
目が覚めると、と言っていいのだろうか。
気が付いたら見覚えのある果てのない白い空間に居た。
いや待て、なんでだ。俺はキャスティの家の部屋を借りて寝たはずだ。
「いやいや、それは関係ないよ~。だって僕、神様だもん!」
いや知ってるけども!
というか年甲斐もなくもん!とか言ってんじゃねえよ・・・
「実年齢を知ってるわけじゃないのに何言ってるのさ」
・・・八億歳くらい?
「ブブー!ピッチピチの22歳ですー!残念でしたー!」
すごいね字面だと勘違いされそうだね。だがこいつは男だ。
「誰に向かって言ってるのか知らないけど、っと。いやいやそんなことはどうでもいいんだ」
いきなり真面目な顔になったな。で、本題はなによ?
「君、」
ごくり、と音が聞こえた。見たことのない真面目な顔で言ってきたのはーーーーーー
「女の子は好きかい?」
ーーーなんとも気の抜ける質問だった。
「・・・なんでそんな事を聞く」
「おお!ここに来て初めて喋ったねぇ」
感慨深いよー、と頷く。が、そんな事はどうでもいいのだ。
「じゃあ質問を変えようか?」
今度はニヤリと笑って言った。
「女の子と男の子、どっちが好き?」
「だからなんでそんなことを聞く」
「それはどうでもいいんだよ。重要なのは君がどっちが好きかってことさ」
男と女、どちらが好きか。
いや悩むまでもなく女の子だけども。
疑う余地も無いけれども。
「本当に?」
そう言われてみれば少し・・・
「ってねぇから!そんなのないから!」
「ははは!そうかいそうかい。わかった」
楽しそうに笑っているが、こっちにしてみればこいつからイジられるかイジられないかの話なのだ。
下手すりゃ今後の呼び方が、モホ太郎君!とかになりかねない。
「じゃあ、また」
案外あっさりと帰る(?)らしい。こちらからすればありがたい。
「お屋敷の人によろしくね。モホ太郎君」
・・・前言撤回。居座ってこいつ殴りたい。
あ、ダメっぽい。また視界が白く・・・ちくせう
◇◆◇◆◇◆◇
「・・・知らない天井だ」
「じゃあ覚えてください」
「そんなレベルで滞在させてくれるのか?」
「生活が安定するまでは居てもらっていいですよ、一応」
だから早く職を見つけて下さい、とのこと。
小さい子からの無職呼ばわりは結構クルものがあるなぁ・・・
事実なんだけどさぁ・・・
目覚めからジャブにしては重い一撃をもらって起きあがると、カーテンを開けるキャスティの姿が見えた。
「行きましょう。朝食ができてます」
◇◆◇◆◇
(美味いなぁ・・・)
「タカヒロ君は今日はどうするんだい?」
「昨日の地理の把握の続きをしてもらおうと思ってます」
紅茶付きの朝食に舌鼓を打っているところだったので、代わりにキャスティが答える。
「そうか、しっかり説明してあげなさい」
はい、とキャスティが返事をすると今度は俺に
「タカヒロ君も、いつまで居てもらってもかまわないから。キャスティの遊び相手になってあげてくれ」
い、いつまでも・・・なかなか魅力的な提案じゃないですか
「お言葉に甘えさせて貰います。キャスティのことは任せて下さい」
「・・・そう言う意味ではないよな?」
「はい?」
「いや、なんでもない。私はいつもの部屋にいるから、何かあったら呼びに来なさい」
いいね?と聞かれたキャスティが「はい」と短く返事を返して朝食が終わった。
◇◆◇◆◇◆◇
「今日は昨日の続きで大陸周辺の地理を覚えて貰おうと思います」
「うっす」
おなしゃす
「ここが私たちの居る町です」
地図の中央より少し左を指し示すキャスティ
その指が示す少し右、中央にはチェスで言うビショップのようなものに上下左右を囲まれた城があった。
「ここは?」
「ここは王都ですね」
「王都っていうとあの城下町とかある・・・」
「いえ、お城と城壁があるだけです」
「え、城だけ?」
「はい、お城だけです」
奇妙すぎる・・・
「それ食料とかはどうするんだ・・・」
「商人たちが運んでくるらしいです」
は、傍迷惑な話だ。王城の食糧っていったら中々の量だろうに・・・
「た、大変だな」
「臣下も愚痴ってるともっぱらの噂です」
ろくなとこじゃねぇ・・・
「こっちは?」
俺が指さした場所には丸の中に「文」という文字があった。確か元の世界なら小学校の意味を持つはずだが・・・
「ああ、魔術学校ですね。変人の集いです」
「そ、そんなに言うことは・・・」
「こんな話があります」
曰く、ふと腹が減っていることに気付いた魔術師はこういったらしい
「そうだ。ドラゴン狩りに行こう」
そんな京都行こう的なノリで・・・
「ちなみにドラゴンは生態系の中でも三番目に強いです」
「魔術師バケモンじゃねぇか」
「ほかにもこんな話があります」
発明家の友人ととても仲の良かった魔術師はこんなことを頼まれます。
「もっと威力があって広範囲に攻撃できて強いものが欲しい!ちょっと作ってみてくれ」
魔術師は爆発の魔法を作り、友人に授けた。
その魔法は攻撃範囲に自分が含まれていて、しかもそれを変更することができなかった。
その魔法を発動した友人は・・・
「まさか・・・死んだのか?」
「いえ、羊になりました」
「ショボすぎる!」
そのためだけに新しく魔法を作るとか・・・頭のいい馬鹿かよ。
「あと、一番有名なのは・・・」
◆◇◆◇◆◇
むかしむかし、あるところに、一人の美しい女性がいました。
彼女はとある魔法使いと、贅沢はできなくてもとても幸せな暮らしを続けていました。
しかしある時、彼女は病に倒れてしまいます。
とある医者は言いました。
「これは助からない。今の技術じゃどうやっても無理だ」
魔法使いは何人もの医者に頭を下げて頼みましたが返ってくる返事はどれも同じものばかり。
皆一様に
「助かるわけがない。私には治せない」
と言うばかりでした。
魔法使いは野を駆け山を踏み締め、沼地を這いずって治療法を探します。
民間療法から高度な医療技術まで、万能と呼ばれる薬も彼女には効果がありませんでした。
疲れきって帰ってきた彼を迎えた彼女は
「もういいんです。貴方と出会えて、私は幸せでした」
そう言って力尽きた彼女を覆うようにして、魔法使いは涙を流し謝り続けたのでした。
◇◆◇◆◇◆
「という内容の小説を他の人々に送りつけようとして捕まった魔法使いですね」
「なんっでだよ!」
結構泣ける話かと思ったら微妙なオチがついてきた。
「他にもこんなのが・・・」
妙に楽しそうになっているキャスティの話はその日の地理把握の時間の殆どを持っていったのだった。
(無言の土下座