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宇佐八幡宮神託事件~いにしえのみやこ~

 平城京が誇る大通りこと朱雀大路。役所へ出勤する役人や東市・西市へ物を求めに行く市井の者で大変賑わっている。市が開くのは正午からだというのに。私の故郷、備後とはえらい違いだ。


 下級の役人は掘っ立て小屋のような家だが、太政大臣などといった政治的強者は大邸宅に住んでいる。以前招かれた藤原仲麻呂の屋敷などあまりの広さに腰が抜けてしまうくらいだった。


「何を余所見しておられる。さっさと行きますぞ」

「あっ、置いていかんでください」


 先を歩く前田様は一歩一歩が大きいためついていくのに気が気でない。彼は宮の比較的近くに住まいを構えているが、私は位が高くないので家から職場までかなり歩かなくてはならない。私の寝坊を防止するために遠回りして迎えに来てくれたのだろう。


 私の先を行く前田様が振り返る。

「ときに磐梨殿。今日は大極殿に行ってくだされ」

「大極殿? 何の用でしょうか」


 前田様はその立派な髭を撫でた。

「さあ、わしは存じ上げぬが。個人的な予想では法均殿関連でしょうな」 

「げっ」

 もしそうなら勘弁願いたいのだが……。


 とにかく私はやましいことをしていないし、大極殿は私の職場の近所なのであまり気にすることはないだろう。


 通りを行く者達を眺める前田様。何か思うところがあるようだ。


「京は平和ですな磐梨殿。東国では蝦夷どもが我が物顔で暴れまわっているそうですぞ」

「朝廷としても何か対策を練る必要がありますね」


 これは難しい問題だ。

 律令国家という目標を掲げる以上無法者を放っておくわけにはいかない。ただ、いきなり兵を出しても向こうを刺激するだけ。できれば代表格と話をつけるのが理想だ。彼らにだって生活はある。それに争いは国を疲弊させてしまう。


 などといっても私の管轄外なので意見を出すことはできない。



 話しているうちにあっという間に大極殿に着いた。普段来ない場所なのでどうしても緊張してしまう。


 大極殿は朱雀大路を突っ切った先の平城宮の内部にある。ここはみかどの住居や我ら役人が勤める官省がある平城京の中枢部だ。


 ここで即席の二人組は解散。

「じゃ。わしは先に行っております」

「失礼します」


 前田様は大股で民部省のほうへ歩き去っていった。律儀な人だ。


「さてと」


 迎えに来てくれた彼を心配させたくないのであえて言わなかったが、弱小役人にすぎない私が大極殿に召されるということは私を呼んだのはみかどとみて間違いないだろう。つまりかなりの大事。朝廷の政策に関わる何かについてだ。


 もしくはあまり考えたくないがあの坊主。みかどの寵愛を得て好き勝手に振る舞っているあいつが何か悪巧みをしているのかもしれない。


 とにかく行くしかない。

 意を決して大極殿に乗り込もうとする私の肩に誰かが手を置いた。

「清じゃん! やっぱ来たんだ」


 見間違える筈もない。まだ着慣れていなそうな法衣に身を包んだ女性。何より私を『清』と呼ぶこの人こそ


「姉上……」

 どうやら前田様の予想が的中したようだ。

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