応天門の変~この書を紐解く者へ~
宇佐八幡宮神託事件はいかがでしたか?
一年ほどかけて完結しましたが、どういったかたちにまとめるかとても悩みました。
今回からは次の章。こちらも日本史における一つのターニングポイントとなった出来事です。
貞観8年(864年)。奈良の政変から時を経て、政治と暮らしの中心は平城京から平安京へと移っていた。
ここに遷都してから既に70年が経過した。以前の平城京を知る者も数えるほどとなった。
かつて平城上皇との政争に勝利した嵯峨の帝によって平安京はますます栄え、貴族も民衆も僧もここでの暮らしを楽しむ余裕が出てきた。
そんななか、平安京に激震をもたらす事件が発生した。
応天門の変。この京の宮城である大内裏の、内側にある門が放火されたのだ。単なる小火騒ぎなどではない。
そしてこの事件に京の政治に関わる者たちの思惑が絡み合い大勢が火災だけではない火の粉を浴びることとなった。何を隠そう私もその一人だ。
このような場合、普通ならば私のような下々の者は関わり合いになるのを避けた方がよいのだが、ひょんなことからこの事件に深く関わってしまった。
しかしそうなったからには私にも記録を残す義務があるだろう。
よって、事の重大さと顛末について私が知っていること全てを後世に書き残しておきたい。
よって今から記すことは内密に願いたい。