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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

プルフイ

作者: mg

プルフイいえ~~~

君さえよければ、これから僕と、ひとつの小さな、とてもこじんまりとした、何てことのない、だけど大切な、素晴らしく誇らしく、ちょっぴりくすぐったい思い出を共有したいと思うのだけれど、どうだろう。そうだ、温かい紅茶を淹れようか。それはね、とびきり美味しいんだ、何しろパリ一番の洒落男がこっそり教えてくれたものだからね。ともかくそこへ座ってくれるかい?お砂糖はいくつで足りる?






初めて出会ったのがいつどこで、二人の若い男がその時何をしていたかということは、この尽くることのないパリの喧騒、その雑多のうちへ有耶無耶にさせておこう。かいつまんで述べると本題はそれより少し手前、彼らが何度か、或は何度も顔を合わせるうち、顔見知りと呼びうる季節をとっくに過ぎ、関係性を改めて認識しなおす機会の必要をうすうすと感じるようなころ、丁度初夏を迎えた街のうきうきと色めき立つ、夕暮れの居酒屋での話になる。

「どうかなフイイ、僕たち友人にならないか」

そのように切り出した男の、ちょうど向かいに座っていた男は、皿に残るサラダの残りをしゃくしゃくと音を立てて咀嚼する作業に没頭しているらしかったが、その問いかけを受けてはたと我に返る。もとより盛られたといい難い量の野菜が入っていた皿である。残りはほぼないといってよい。

「友人?」

「そう、散歩や食事を共にするんだ、長いこと話をして、君は僕の新しい詩を読むし、僕は君の仕事場を覗いて、いかにも偶然そばまで来たから寄ってやったんだという顔をして、やあと声をかけるのさ、そしてそんなことをね、何度も繰り返す」

「他には?」

「なんでも半分こにする」

そこまで聞いてからフイイはこの気の弱い(又は気のいい)男の、柔らかな微笑をたたえた口元や、きわめて優しい目元を見つめた。困惑というより混乱、混乱というより呆然、その呆然のなかに期待が紛れ込み、やんややんやと踊っては、眉をしかめた貧困と嘲笑う孤独にたしなめられる。たしなめられるなり、ではなぜ友人が不必要かと問うた。お前は母を必要とし、それを祖国に置き換える方針を立てた。お前は父を必要としない。ならば友はどうだ。お前は友を必要とするし、目の前の男はお前を友として必要とするのに、どうして迷うだろう解せぬと喚いた。その訴えを聞きつけ、彼のうちにある貧困は悩ましげにため息を吐くし、孤独は肩を竦めてみせるばかりである。さてどうしたものか。彼はゆっくりと口を開いた。

「友を持つというそれは、一見素晴らしいようにも思うが、さてどうだろうね」

「うん?もう少しの言葉を足してくれると助かるかな」

「僕は友人なる制度を指して、それがおそらくは大変なものだろうと推し測っているのさ。僕は君を信じ、君は僕を信じ、僕は君におはようを、君は僕にお休みを言い、ほんの些細なことで口喧嘩を、又はそのすぐあとで仲直りをして、くだらない冗談を言っては肘で小突きあい、たまに背中をさすって慰みの言葉を二三かけてやり、とにかく対等に付き合うよう常に心がけ、半端な遠慮を捨て、なるべく嘘をなくし、小さな我儘を聞いてやるときはなんだそんなことかと笑い飛ばし、大きな我儘を聞くときは仕方がない、友人だものなと唱え、いつも誰に対してもあれが僕の連れですと紹介してやれるくらいでなくては」

「または、愛し合うこと」

「それは?」

「僕が君を好きで、君が僕を好きだということ」

そう言ってくすくすと可笑しそうに、さも愉快そうに、無の邪気を孕んで笑ったかと思えば、殆ど照れ隠しのようにはにかんでみせたかと思えば、手元のフォークをまるでどうでも良いというような、または無上に愛おしむような眼差しでもってくるくると弄んだかと思えば、取り澄ました様子で背筋を伸ばし、拳に含み笑いをのせ、少しの挑発と妙なる闇を握らせ、こほんと軽く咳をする。

「それじゃ、プルーヴェール、君は僕が好きなのかい」

「ごく自然に、まるで当たり前のようにね」

はにかんだ瞳は揺れることなく、二輪のマーガレットが覗いていた。

「ならば問題ないだろう、友人を始めるのに」

「うん、よし、そうだね、友人を始めよう」

ではさっそく契りを交わそうかと声を弾ませたプルーヴェールはパンをひとつ、それをふたつにしてみせ一方を自らの口へ放り込むと、もう一方を新しい友人へ差し出した。思わず顔をほころばせた友人の、受け取ったパンに記された友好宣誓文は、もちろん読み上げられることなく、ただ彼らに僅かな腹の膨らみをもたらしたきりである。

「それでは、まずひとつめの小さな我儘を聞いてくれるね」

「僕に了承を得るまでもなく勿論のことだ」

「何てことはないよ、何しろほんの小さな我儘だからね。ただ、君が僕を好きだというのを、ちょっと聞き損ねてるってだけさ」



これでお話は終わりだけど、どうだった?僕があの居酒屋で過ごしたうち、あれほど素晴らしい日はきっとないだろうね。なに、覚えているって?君も?ははは、そうか、だから途中で変な顔をしていたんだね、まあそう不貞腐れるなよ。ところで君、もう少し思い出を掘り起こしてみる気があるかい、僕は紅茶を淹れなおそうと思うんだ。あまいお菓子もある、頼むよ、次は意地悪言わないからさ。


フイイさんもしゃもしゃ!mgです読んでくださりありがとうございました~~~イヤッフ

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