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me m [ミーム]  作者: q69p
day1 ターニング・ポイント
9/28

9

「ここで待ってて」

「うん」

「その、何度も聞くけど、とっても汚い物を見ることになるわ。

それでもいいの?」

「それを見たくて、僕はここにいる」

逃げるわけでも、忘れるわけでも無く、ただ少し離れた所で彼女達を見ていようと思う。

見たからといって、何がどうなるということは無いだろうが。

「…変な人。

いい、絶対にここを離れちゃ駄目だからね。

どっか行っちゃったりしないでね」

彼女は学校の中に入った。


なかなか事が起こらない。

彼女は僕から見える位置で、ずっと俯いたままだ。

彼女すら溜め息を吐き始めた頃だった。

ザシュウ、という何かが切れるような音が僕の背後で鳴った。

反射的に、前に体を傾ける。

「!?祐、後ろ!」

彼女の絶叫に、体が勝手に反応して後ろを振り向く。

そこには一人の男が立っていた。

僕はこの男に見覚えがある。

一度、生首になった状態で会ったことがある。

そう、彼女が抱いて、というより抱えていた生首の男だ。

立っているのだから、当然男は生きている。

僕は何をされた?

背中が熱い。

男は手に、変わった形のナイフを持っている。

ナイフの刃の部分には、装飾にしては趣味の悪い模様が入っている。

僕は背中が熱い。

つまり…………

「うああああぁぁっ!」

僕と男の間に、人間的では無い叫びをあげながら彼女が突っ込む。

少女はその勢いを乗せて男に殴りかかったが、するりとかわされてしまう。

そのまま流れるように、男はナイフを鎧の隙間に差し込もうとするが、辛うじてガントレットに弾かれた。

何が起こったのか理解するのに、数秒。ここが夢だと思い出すまで数十秒。

その間に男が立ち止まって喋る。

「なんだ……だれかと思えば。

…随分……綺麗に…なっ…ちまっ…たなぁ」

「………」

彼女からの返答は無い。

「あんだぁ?……俺を…忘れ……ちまっ…たのかぁ?」

「…………」

彼女からの返答は無い。

「おめぇは、自分の親に……返事……も…出来ねぇんですかあ!?」

男がナイフを投げる。

が、銀のガントレットが正確にそれを弾く。

「あなたは、パパじゃない」

再び攻防が始まる。

殴り、かわし、刺し、弾く。

ひたすらそれを、まるで馬鹿のように繰り返す。

なんだか、単調でつまらないな。

投げとか、飛び込みとか、昇竜とか、そういうのは無いのだろうか?

そこまで考えて、これがゲームではない事に気づく。

現実でも無いけど。

「殺す、取り敢えず殺す。

そんで、食う!!」

男が何かを叫んで突然こちらに飛びかかって来たのは、その時だった。

がっ、と首を掴まれて、ナイフを当てられる。

少し切れてしまったらしい。

不思議と痛くはなかったが、流れる血が鬱陶しかった。

「祐!?」

そんな、心配そうな声をあげなくてもいいのに。

「これ、食う。

いいな!!」

狂人が無駄にナイフを振り上げる。

彼女ならこの隙にどうにか出来ただろうけど、僕にはこいつに抵抗する手段が無い。

やたらスローな景色の中、僕の思考だけが元の速度を保つ。

僕、食われるのか。

人の肉というのは、どんな味なんだろうか?

まあどうでもいいか、どうせ死ぬし。

ここで死んだら、現実でも死ぬのだろうか?

彼女だって現実にやって来たんだ。

ありえる。

僕が死んだら、どうなるだろう。

誰かが悲しんだりするのだろうか?

僕?いや、特に心残りは。

強いて挙げるなら、彼女と格ゲーできなかったことくらいだな。

彼女か。

まだ、名前すら知らないんだよな。

……格ゲー。

………彼女。

…ここは、夢の中だ。

夢というものは、必ずその夢を見ている本体がいなくちゃいけない。

夢というものは、その本体の影響を受けることが多い。

僕は本体だ。

僕は、とある格闘ゲームが好きだ。

彼女はその、格闘ゲームのとあるキャラクターと良く似ている。

特に鎧が良く似ている。

その格闘ゲームには、こういうシステムがある。

…目の前に刃が迫っている。

驚きに隠された恐怖を無理矢理呼び起こし、その静かな恐怖を固体にする。

「あ?」

サイコデプスアームズ。

pdaと略す。

深層心理の防衛本能を、武器という形で実体化する……という設定の武器だ。

僕の首からは、男の物ではない鋭い刃が生え、その刃は男の手首に深々と突き刺さっていた。

そのまま体を前に軽く倒すと、いとも簡単に、男の手首が跳ね飛んだ。

ぶじゅあとグロテスクな音をたてて、男の血が飛び散る。

成功だ。

成功してしまった。

「あぁあああぃっ!?」

男が突然の痛みに驚き後ろに飛び退く。

しかし、足がもつれてしまったようで、ほんの少しの間男はよろめいた。

それがまずかった。

銀の拳が躊躇い無く、男の頭を殴る。

ぐじゃあぁぁという嫌な音が鳴り響き、首のところで男の体は二つに別れた。

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