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彼女が先導して僕の知らない小道を歩いて行く。
この辺りは、随分と昔懐かしい雰囲気だ。
十四年しか生きていない僕に、昔懐かしいかなんてわかるわけない筈なのに、何年も前から変わっていないという雰囲気がどこかから伝わってくる。
もう倒産してしまった会社が作っていた飴の看板。
ずんぐりとした形の車。
割れた窓硝子に絡むツタ。
「ねえ、僕は夢の中じゃこんなところ歩いていなかったんだけど、大丈夫なの?夢の内容が変な事になったりしないかな?」
「そんなの、私にもわかんないよ。
でも、ま、変になってもいいんじゃない?
大体、あなたと一緒に私が歩いている時点で、もう大分内容が変わっているわ」
「それもそうだね」
そのまま僕たちは、何も喋らずに歩き続けた。
夢の中だからなのか、疲労はしない。
しばらく歩くと、見慣れた道に出た。
もう少し行くと、学校に着くな。
この辺りは、月光を遮るものが無いのか、比較的明るく感じる。
前回のこの夢の中では月光を疎ましいなどと感じていたな。
とんでもない。
やはり、暗闇というのは、人の恐怖心を強く刺激するようで、明かりの下に出た途端、つい溜め息を吐いてしまった。
さて、いよいよ目的地に着く。
そこで、僕は出会うのだ。
今隣を歩いている、この殺人鬼に。
「ねえ、ちょっと待っててもらっていい?
どうしてもやらなきゃいけないことがあるの」
始めてその人に出会った時、その人は誰か知らない男の首を抱きしめていた。
…少し、嫉妬してしまうではないか。
いや、生首にはなりたくないけど。
「僕も行くよ。
大丈夫、手も口も出さない。
少し離れたところで見ているだけ」
「……凄く、汚い物を見ることになるわ。
それでも良いって言うなら、見ててくれると、うれしい、かな」
彼女は俯いて、もどかしそうに口を動かす。
少しづつ、この少女が自分の中で大切なものになってきている気がする。
でも、まだ名前すら知らないんだろ?
どんな人間かもわからない。
気がついた時には首を跳ねられているかもしれない。
本当に、大切にしてしまってもいいのか?
…彼女を、つまり良くはわからないものを否定しようとする僕も、間違い無く存在する。