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「……綺麗ね、いつ見ても」
玄関を出ると、辛うじて物と物の境目がわかる程度に、天体が夜を照らしていた。
「僕はあまり好きじゃないな」
「そう?残念。
…どして?」
なんだか糖尿病になりそうな声だ。
クラクラしてきた。
過剰に摂取しないように気をつけないと。
「こう言わないと、この話は進まないんだ。
君は知らないかもしれないけど」
ふぅ、と少し疲れたようなため息が返ってきた。
「なんか、そういうのつまんない」
僕もそう思う。
「ねえ、私あなたのことをなんでも知ってるような態度をとってきたけど、実際少しは知ってるんだけど、…けど、向こうであなたに会ってよくわからなくなったの。
ここでのあなたと今のあなたが余りに違い過ぎるっていうのもあるけど、……けど…」
「その話は、歩きながらしようか」
「…それもそうね」
夢の中で歩いた道をなんとか思い出す。
途中迄は現実でもよく歩いた道だから問題は無い。
だが、そこからは良く……。
まあ、歩いてみなきゃ始まらないか。
いつもの道を歩く。
薄汚れた電柱も、稲葉さんの御宅も、植木鉢の花も、地面に張り付いているガムも、良くは見えないけれど、きっといつもと同じだろう。
「さっきの続き、いい?」
二人で歩いていても、別に新鮮さは感じない。
「どうぞ、夕食の延長だね」
受け答えをしながら、これって実はとても希少な現象を体験しているんじゃないかと、今更ながら思い始めた。
自分の夢の中の登場人物と、その夢の中で一緒に歩きながら会話などしているわけだ。
だのに、どうにも……なんというか、僕は落ち着き過ぎているのだ。
まるで、これが日常茶飯事であるかのような、そんな落ち着き方だ。
余りにも突飛な現状を、まだ受け入れられていないのだろうか?
「単刀直入に言うことにするわ。
…あなたは、一体どういう人なの?」
実は、僕もよくわからないんだ。
「そう聞いても、君は夢を見ればわかるとしか言わなかったじゃないか」
「…今は夢の中よ」
ふふ、と彼女が小さく笑う、それを見て、僕は自分の事をこの人に全部さらけ出してしまいたいと思ってしまった。