表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
me m [ミーム]  作者: q69p
day1 ターニング・ポイント
4/28

4

「…ハァ、ハァ。

はふう…。

…もう、さいっっっっこうっっ!!!」

「そう?なの。

…喜んで頂けてなにより…?」

なんだか呼吸が荒い。

「この私を気絶させちゃうだなんて、あなた最高にイッてるわ」

「…どう考えても、君ほどじゃないよ」

どうも、この子は生粋のマゾヒストのようだった、又は、さっきのアレで目覚めてしまった、又は、頭がおかしいらしく、結果アレをとてもお気に召されたようだ。

「あっ、だめ。

…思い出すだけで……」

まずい。

このままだと、十八歳以下の人がこれを読めなくなってしまう。

急いで皿に盛り付けをして、さっさとテーブルに運ぶことにした。

「はい、どうぞ。

粗末なものですが」

「あ、………ふう。

あら?

くれるの?私に?」

ちょっと遅かったようだが、いや、間に合ったことにしておこう。

とにかく、料理に気を逸らしてくれたようだ。

肯定の意味で、こくりと頷く。

「変なの。

私は変態殺人鬼よ。

あなたがそうやって頭を下げているうちに、殺してしまうかもしれないのよ?」

ふふ、と殺人鬼らしからぬ優雅な微笑みを浮かべて、ガントレットを振り上げる仕草をする。

なんだかちぐはぐな言動だな。

「殺されない自信があるからね」

「……それ、ゾクゾクくる」

「お気に召して頂けたようでなにより」

自分の分もテーブルの上に置き、椅子に腰をかける。

正直に言うと、まだこの現状がよく飲み込めていない。

自分の夢の中の登場人物が現実にあらわれるだなんて、想定外の外だ。

「さて、それより色々と質問したい事があるんだけど、食べながらでいいかな?」

「私も聞きたい事だらけだわ。

でも、いいよ、あなたから聞いて」

フォークを肉に突き立てながら、口を開いた。

「そうだね、先ずは君が一体どういう人間なのか聞こうか」

「それは……今夜寝れば多分わかるはず」

「…つまり、また僕はあの夢を見ると?」

「いつも通りならね」

「いつも?」

「気づいてないの?

あなた、ここ最近毎晩同じ夢を見てるのよ?」

手が止まった。

止まった、が、取り乱す程のことでは無い。

毎晩同じ夢を、か。

まあ、それが本当なのかどうかも、今夜寝ればわかるだろう。

どうも、大抵の質問はこの一言で片付けられてしまいそうだな。

「…へえ。

気がつかなかったな」

それっぽく、合わせたつもりだったのだが、なんだか微妙そうな顔をされた。

なにか、まずかったのだろうか?

これはこれで、可愛いけど。

「……ね、私も一つ聞いていい?」

眉根を寄せたまま、彼女は肉を口に運んだ。

「どうぞ。僕が答えられることなら」

彼女にならって、僕も肉を食べる。

うん、なかなかの味だ。

売れ残りの安物だけど。

「なんで、あなたはそんなに落ち着いているの?

普通、悪夢の中から殺人鬼が出て来て、何時の間にか自分の家でくつろいでました、なんて状況になったら、ショック死したっておかしくはないと思うけど」

なんだ、そんなことか。

「いや、凄くビックリしてるよ。

ただ、表に出てないんだろうけど」

「…そう?まあ、これはいいけど。

もっと、聞きたい事があるわ。

なんで、私の攻撃をあんなに軽々と避けられるの?

これでも私は人を殺すことには自信があるのだけれど」

軽くなかったよ。

かなりギリギリでしたよ。

「うん、それは、まぁ、……

格ゲープレイヤーだからかな?」

正直、僕にもよくわからないので、適当に誤魔化した。

「かくげえ?何それ?」

「格闘ゲーム。略して格ゲー。

その名の通り、一対一で格闘をするゲーム。

あ、ゲームっていうのはどういうものかわかる?」

一旦米を口に入れることで聞きに回った。

やはり日本食はいい。

「そのくらい知ってるわよ。

…やったことは無いけど」

ほう。

ゲーム脳は犯罪を犯す説に異議が申し立てられたようだ。

「食べ終わったら、一緒にやってみる?」

「…え、遠慮するわ。

よくわからないし」

「そう」

少し残念だ。

実は、彼女が着ている鎧は、そのゲームに出てくるあるキャラクターの物に凄く似ているのだが、彼女にそのキャラを使わせてみたかったりする。

まあ、いいか。

しばし沈黙が続く。

なにか、気分が悪くなりそうな間だ。

どう会話を切り出そうかと考えているうちに、向こうが質問を再開してくれた。

「あの、本当になんとも思わないの?

私、なんかもうこの家に馴染んじゃってるけど、大丈夫なの?

私、ふとした時にあなたを殺しちゃうかもしれないし、それに……ん………そうだ、あなたの家族は?」

「いないよ」

「!……あ、ごめん。

そうだよね。

…気づくべきだったわ」

「そうだね。

あまり他人の家庭の事情に踏み込むのは良くないよ。

君も変なことに巻き込まれたくないでしょ?」

「え、あ、うん」

僕は何を言っている。

ポカンとした顔をした彼女を眺めながら、どうしてこうも会話が下手なのだと自己嫌悪に陥る。

「ごめん。忘れて。

人とこんなに長くいるのは久しぶりだから、たまに僕は変な事を言ってしまうかもしれない。

君が不快だと感じた言葉は全部忘れてくれていいよ」

僕の言葉を聞いて、彼女はピクリと体を揺らし、そしてニヤリと口先を曲げた。

「その言葉が不快!

忘れて、ですって!ハハ…。

ふふふ、それじゃただの逃げじゃない」

「そうだね、ごめん。

でも、僕は逃げたいんだ。

出来れば誰の迷惑にもならないところまで逃げて、みんなに僕を忘れてほしい」

僕の言葉の半分以上は嘘かもしれないが、こればかりは本心だ。

心の底の方で、僕はいつだってこう思っている。

「…やだ。

逃げさせてあげない!

忘れたくない!!」

何時の間にか、硬くて冷たい鎧に抱き締められていた。

痛い。

「だって……。

そんなの悲しいよ。

忘れられるのは悲しい。

忘れるのはもっと、悲しい」

忘れるのは、悲しいのか。

そうか。

そんなこと、考えたことすらなかった。

僕はつくづく自己中心的な生き物だ。

「ねえ」

金属に塞がれた口をなんとか動かし、くぐもった声を出す。

「…なに」

少し間をおいた返事。

それでも、返ってくる事が少し嬉しい。

「僕達、今日始めて会ったんだよね?」

「違う!」

いっそう、締められる力が強くなる。

苦しい。

「あなたはいっつもそう言うの。

何度も繰り返す同じ夢の中で、会う度に何度も何度も。

何度も会ってるのに、その度に忘れちゃってさあ!

…私から忘れてやろうと思うこともあった。

けど、忘れられなかった。

所詮夢だからね。

筋書き通りなんだ、全部!」

「そう、なら、もう大丈夫」

「え?」

「だって、ここは夢なんかじゃないもの。

それなら、君が僕を捕まえててくれるでしょう?」

「………ばか」

更に更に強く抱き締められる。

この苦しみは、間違いなく現実のものだろう。

幻覚でも夢でもなく、現実の…

「…そういえば私、ごめんなさいのごの字すら聞いてないわね。

…って、あら?」

けど、暫くお別れだ、現実さん。

僕は意識を放り投げた。

「えっ、ちょっと!?

祐!!?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ