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me m [ミーム]  作者: q69p
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1

「私はいつだって、あなたの側に」

殺人鬼は僕に告げた。

視界が、黒く染められていく。


僕は、恋をしていた。

誰にと聞かれると、返答に困る。

それは、非常に曖昧なものだ。

わかりやすく、単純に言えば、

そう、異常に恋をしていた。

その日も僕は、異常を求め、午前二時に自分以外誰もいない家を飛び出した。

さあ、異常探しの始まりだ。

光が消え、物と物の境界が曖昧になるこの時間。

僕はこの時間が好きだ。

ただどうにも、空に浮かぶ星や月が邪魔で邪魔で仕方がなくて、ただただそこだけは、この時間に対して不満を持っていた。

取り敢えずいつも通り、いつも通らない道を探して歩く。

この時点ではいつも通りだった。


自分がどこにいるのかわからなくなるような、そんな夜の中を歩く。

闇の中に僕が溶けていってしまいそうで、少し背筋がゾクリという。

しばらく歩くと、何時の間にか見慣れた場所に居た。

学校だ。

ほぼ毎日見ている見慣れた造形にあくびが出そうになるが、途中でそれを殺さざるを得なかった。

いつもと違う。

何かがいつもと違う。

居る。

少女が居るのだ。

血が滴る男の首を大切そうに抱きしめている少女が。


〜光陽中学校 2年3組 教室 〜


「んで、そこで冒頭に戻るっ!」

「はぁ、さいで」

「んむぅ、なんだよその薄っすい反応は!?

…なんかさぁ、ワクワクしてこない?ビクビクしてこない!?」

「ただの悪夢にワクワクする要素を見出せるのは、お前程の中二病患者くらいだ。

つか、ビクビクってなんだ?」

「むきゅう。中二病って、僕達現在進行形で中学二年生じゃないか。大目にみてよぉ」

「よ。またやってんのかい。あんたらも好きだね〜」

「好きでやってるんじゃない。ただ、このまま放っておくと、こいつが残念な奴のままで人生を終えてしまいそうでな」

僕はアレクサンダー・祐。ヒロシじゃなくて、ユーだ。

父親はアメリカ人、母親は日本人、ごくありふれた家庭でごくありふれた育ち方をしてきた、ごくありふれた少年だ。

今は、授業と授業の間の休み時間。

友人達と、ただ意味も無く会話を繰り返す。

そんな、ごくありふれた生産性のない行為に僕たちは時間を捧げていた。

「残念かなぁ?僕そんなに残念かなぁ?

ねぇ、お袋さんどう思うよ。

僕はごくありふれた家庭でごく普通に教育を施されてきた、ごく普通の少年のつもりだったんだけどなあ」

「んー。アレクはなあ、なんだ、ウザい」

笑顔で僕をウザいと呼ばわったこの女の子は、みんなのお袋さんこと、袋井朝霞さん。

性格のほうも、お袋さんの一言で説明しきれると思う。

「でも、間違いなく悪い奴じゃないな」

ほら、大体こんな感じの人である。

「そうか?」

この男は、見た目は不良っぽいけど、意外と常識人な秋葉友則。

なんだかんだ言いつつも、僕の側に居てくれるツンデレさんでもある。

「兎も角、お前は先ず見た目から変えてみたらどうだ?

金髪ロングストレートの男なんざ怪しすぎるだろ…」

「にゃはは、まだアレを根に持っていたのかい!?

君は大した漢だ!」

アレというのは、入学して間も無い頃、僕が男子トイレに入ろうとした所を、友則が必死に引き止めたという事件を指す。

この学校には、制服というものが無いので、後ろ姿だけ見ると、女の子のように見えたんだろう。

「あの時の友則君はか~あいかったなぁ。

特に、僕が振り向いた時の焦りようったら、あっは」

「う、うるせぇ。そういうわけじゃなくてだな。だいたい、あの時は…」

友則が、何かを言いかけた時だった。

「あ、とものんだ!やふ〜」

おや?誰だろう。知らない声だ。

「なっ!?」

聞き覚えの無い声に、友則がオーバーなリアクションをとる。

なんかもう、手がわっちゃわっちゃしている。

これ程まで友則が焦るとは、どうやら只者ではないようだが、どうにも声の主が見つからない。

廊下の方から聞こえた気がしたんだけど、

「なにキョロキョロ探してんのさアレクサンダー君。

ここだよ、こ こ」

つい、とシャツの裾を引っ張られてようやく気づいた。

そこにいたのは、

「やあやあ始めまして、永遠の十歳児呉羽兎ちゃんです」

僕の腰くらいまでの身長しかないロリっこだった。

成る程、気がつかないわけだ。

「ええと、誰?でも、僕の名前を知っていたから、完全に他人ってわけでもないか。

友則の妹さん…でもないか、苗字違うし……。

…あ、わかった!友則の義理の妹だな!!

爆発しろ!!!友則ィ!!!!」

「ぶぶ〜。

ハズレ。

現実はラノベのようにはいかないものです。

はぁい、次の方、どぞ」

「ん〜、いとことかかい?」

「ざんね〜ん。それもハズレ。

ささ、とものんさん、お答えをどぞ、って、あれ?」

友則の姿が見当たらない。

さっきから、妙に口数が少ないと思っていたが、何時の間にか雲隠れしていたとは。

流石、逃げ足だけは速い。

「ちょっ、とものん!?

おおおぉおいぃ!!?」

十歳児の方も、どこかへ走っていってしまった。

『廊下は走るな』と書かれた紙を貼られた掲示板が切なく揺れる。

「行っちゃったね」

「行ってしまったな」

「何だったんだろうね」

「さあ?」

キーンコーンカーンコーン。

録音された鐘の音が、スピーカーから聞こえてくる。

友則は授業開始迄に帰ってこれるのだろうか?


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