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世界のるつぼ

登場人物

校長 青@dabunsanbun

 昔の話をしましょう。







 私は生まれつき体が良くありませんでした。今となっては病名すら思い出せません。ただ目も見えず、体も自由に動かせなかった事だけ覚えています。あとは、かろうじて聴覚が残っていたこと。

 私には母と父がいました。優しかった。温かかった。その記憶は今でも感覚としてずっと残っています。その母と父がいつも私に物語を聞かせてくれていました。目の見えない私に、少しでも多くの世界を教えるために。

 この世界の動物や自然の話。おとぎ話、冒険譚、昔話。古今東西様々な物語を私に教えてくれました。しかしそれはあくまで、話だけ。いつしか私は、この目で見たいと思うようになりました。


 気が付けば私は、閉じた目で、光が見えないはずの目で、世界を見ていました。

 しかしそれは真っ当な世界ではなく、自分自身の世界でした。自分の経験した過去を、そして経験するであろう未来が見えていました。どうしてそうなったかなんて、もはや覚えていません。きっかけはきっと、祈りだった事は確かですけれど。

 そう、それは世界への祈り。

 なにもない私に、光あれ。


 母と父には内緒にしていました。もし、もっと治療費や医療費がかかってしまったら? そう思うと何も言えませんでした。ですがそれ以上に私自身、この能力が目覚めて傷ついたからです。そして、この能力を認めたくなかったからです。

 能力のせいで、過去の自分がいかに何も持っておらず、母と父に沢山迷惑をかけていたか知ってしまったから。そして近い未来、自分は、死ぬという事を知ってしまったから。


 祈りはどうしてこんな仕打ちをするのだろう。いやもしかしたらまだまだ足りないのかもしれない。必死に私は祈りました。死の恐怖と精神の崩壊と闘いながら。

 貴方は想像できますか? 自分がもう死ぬという未来が分かっていながら、命を枯らしながら、必死に何かを得ようとする事の辛さを。悲しさを。

 いえ、こんな質問は愚問ですね。貴方だって、様々なことがあって、ここにいるんですもの。失礼を詫びます。


 そして私の能力はさらに力をつけました。

 次に見えるようになったのは、自分が今いる世界ではない自分でした。未来でも過去でもない自分。つまり、並行世界の自分でした。

 この並行世界の自分はまさに尽きる事のない物語でした。もしの数だけ自分がありましたから。違う国にすんでいる自分、違う親の自分、そもそも存在する世界観が異なる自分。見ても見ても違う自分がいて、始めのうちは楽しかった。これが私に与えられた何かなのか、そう思いました。


 しかし、しばらくして私は気が付いたのです。残酷な事実に。

どの世界の私も、近い未来、命を落とす。

病気、事故、その他理由はあるが、皆同じ時期に、死んでいました。

これが運命。これが因果律。これが秩序。


 それでも私は、諦めませんでした。その理由は自分自身にありました。この能力、自分自身の過去未来が見える、というモノ、これは私が見た限り、どの世界でも、この私しか有していませんでした。他の世界の自分はだれも持っていない能力でした。

 だから私は、この事実を光か闇か分からぬうちに、能力をさらに強くしようとまた、祈りました。もはや誰になのか分からぬまま、ただ世界という漠然としたものに。


 強く祈った次の日。私は、もう、そろそろ、命が終わる日だ、そう思って目覚めました。だっていつでも頭にあるのですから分かります。自分が死ぬ瞬間を見てしまったのだから。

 しかし目覚めた時、私は異変に気が付きました。母や父や主治医さん達など聞きなれた声ではない声が聞こえたのです。でもそれはいつも耳にしているような感覚でした。


 よう、お前が最後の私か。貧弱な奴だ。

 まぁそう言わないでよ? 一生懸命生きてるんだから。

 そう、私達と同じように特異な存在なのですから。


 3人の女性の声。その声はどれも、私の声と酷似していました。いつも耳にしているけど。聞きなれない声とはそのような理由でした。私は初めこの事態を理解できませんでしたが、考えているうちにきっとこれは祈りの能力なのだと分かりました。

 そして並行世界の私、3人は順番に話し始めました。


 聞け、私たちには時間がない。それを一番よく知っているのはお前だろう?

 単刀直入に言うよ。私達は、あなた。数多の世界でも特異な私。

 きっとあなたも知っているでしょう? 私たちはもうそろそろ死ぬということを。

 それは私達も同じなんだよ。だが、お前を含め、私達4人は祈りの能力を持っている。

 数多の世界を見る事が出来る変わった能力だよね。

 基本はそうですが、私達4人はそれぞれさらに異なる能力を有します。

 私は、世界を創る能力を持ってるんだぜ。

 私は、世界をくっつける能力なんだー! いいでしょ?

 私は、世界をとび越えて行き来する能力を保持しています。

 そして問題はお前だ。

 君は特にイレギュラーだよ? なんせ。

 世界に他者を召喚する能力、なんですから。でないと私はまだしも他の2人がここにいる理屈になりませんし。

 世界に祈ったのに、世界に干渉せず、違う世界の他者に干渉する能力たぁ恐れ入るぜ。

 だけど、それも長くないよ? だって私達は近いうち、死ぬのだから。

 そうさせない為に私達3人がここにいるのです。


 そう言うと3人は私の手を握りました。3人分の温もりが伝わってきました。必死に生きようとする、生への執着が感じられる強い温もりでした。


 未来を変えるんだ。

 何で君が私達を召喚したかは分からない。

きっと貴方も分からない。そうですよね?


 はい、その通りでした。ただ私は祈っただけですから。何かを与えたまへと。なので彼女ら3人が言うように、何故私にもさらなる能力が付与されたのか、何故特異な3人がここに召喚されたのか分かりませんでした。

 しかし、私も、彼女達も直感で分かっていました。これが正解なのだと。


 生きようぜ。

 祈ろう。

 足掻きましょう。


 そして、私も、3人の手を強く握りしめ、心から祈り、そして言葉を零しました。


 明日咲く未来を見よう。










 詳しい記憶はここまで。あとはこの通り、精神体に格上げってとこです。え? 他の3人はどうなったかって? それはこの学園で過ごしていれば分かりますよ? 怒ったり笑ったり仕事したりしているところを見れば分かるわ。


 私の生い立ちはこの辺で終わりましょう。前座はここまで。

ここからは君の物語。私も早く見たい。君の輝く物語を。

 

 どうして君をこの世界に呼んだかって?

 そんなの決まってるわ。

 見たかった景色を見るためよ。

 勿論君の心が共鳴したからよ? 無理矢理拉致なんて私はそんなに乱暴じゃないわ、失礼しちゃう。

 君の、もっと広い世界を知りたい、もっとたくさんの物語を知りたいという心が私と共鳴して、君はここにいるの。

 さ、授業が始まるわ。

 君にも世界の祝福がありますように。

 A melting pot of the whole world over.

 ようこそTWWO学園へ。


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