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夜行のススメ

夜、どんなに頑張っても眠れない時ってあるじゃない。

そういう時はもう、寝る事を諦めてしまえばいいよ。

その夜も、僕はどうしても寝付く事ができなくて苦しんでいた。だから布団から抜け出して、思い切って外へ散歩に出たんだ。


暗い暗い住宅地を抜けて、駅のほうへ

昼間はあんなに賑わっているのに、夜になるとまるでゴーストタウンだ。

路地を曲がり、細道の商店街を歩く。するとどうだ、植え込みちょこんと腰を下ろした老人が居る

彼は煙草を一口吸うと、上を向き、工場の煙突のようにモクモクと煙を吐き出した。

夜の天井に上っていく白い煙、僕は思わずその老人に話しかけてみた。

「こんばんは、すごい煙ですね」

「いや、煙じゃないよ、これは雲だ」

鼻と口から煙を、もとい雲を噴出しつつ、老人は答えてくれた。

「一体なぜ雲を吐き出しているのですか?」

「簡単な事さ、明日は雨にするんだ、だから雲を造っている」

再び老人は煙草を咥える。


そういえば明日、妹が遠足に行くと喜んでいたっけ、仕方ない、ダメ元で一つ頼んでみるか。

「明日を晴れにする事はできないでしょうか?」

「何でだい?」

僕は幼い妹が明日の遠足を楽しみにしている事を話した。すると老人は深く頷いてからこう言った。

「うん、解った、だけども晴れにしたいなら日を造る者にも頼まなくてはならないぞ」

「日を造っている人は何所に居るんですか?」

老人は駅のロータリーの方を指差した。

僕は老人にお礼を言うと、その方向へ歩き始めた。

しばらく行くと、道に水着を着た太った女性がうつ伏せに倒れていた。

「あの、日を造る方でしょうか?」

「そうだけど、今夜は休みだよ」

「そこを何とか、日を造ってはもらえないでしょうか?」

僕は妹の話をした。すると女はその巨体をゆっくりと持ち上げ、面倒そうにこう言った。

「わかったよ、日を造ってやる、だけどこの雲を散らさないとダメだ、風を造る者に頼みに行って来い」

「風を造っている人は何所に居るんですか?」

女は街外れの古い鉄塔を指差した。

僕はお礼を言うとその方向へ歩き出した。


だいぶ歩いてからようやく古い電波塔にたどり着いた。

そこには鉄骨に逆さ吊りにされている男が居た。

男は不気味な笑みを浮かべると僕にこう言った。

「よく来たね、話は聞いていたよ」

男は耳が良いらしく、今までのやり取りを聞いていた様だ。

「それは話が早くて助かります、では早速」

「いやいや、それが今私はとてつもなく空腹でね、とても風を造る元気は無いのだよ」

「それは困りました、どうすればよいのでしょうか?」

「あなたの足元に落ちている物を私にくれませんか?」

足元見ると小さな貝殻が疎らに散らばっていた。

僕は数枚それを拾うと彼に渡した。

彼は金ぴかに輝く小さな貝殻を嬉しそうに頬張り、バリバリと音を立てて食べ始めた。

「ありがとう、おかげで元気が出たよ、これで風を起こす事ができる」

僕はお礼を言うと家に向かって歩き始めた。

さっきまで立ち込めていた雲は、心地よい風に流されて行き、月が顔を出した。

家に着くと、歩きつかれた僕はぐっすりと眠れた。



朝、妹は喜んで遠足へ出掛けた。

その日は雲ひとつ無い快晴になったが、どういう訳か時折雨がぱらついた。

僕は、雨を造る者にお願いするのを忘れたと、今になって気がついた。

まぁ、妹が喜んでくれたので良しとしたが。


それから僕は、眠れない夜には雨を造る者を探しに、外を散歩するようになった。

今度はちゃんとお願いできるように。


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