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翌日、漁師は漁に出ようと船に乗って漕ぎ出したものの船が沖に向かって進まない。
長年のカンで潮の流れが読めるのだが、今日はどうも沖に向かう潮が見つからない。
そこでそんな日もあるだろうと戻る事にした。
家に戻ると見知らぬ若者が戸口に立っている。
「お前は誰だ?」
と、漁師は言いながら辺りを見渡した。
「女なら此処だぜ」
と、若者が持っていた網を持ち上げる。
網の中では白い魚がぱたぱたと尾をしならせて跳ねている。
そのウロコは真珠のような七色の光沢を放っていて、何時ぞやに海に返してやった白い魚じゃないかと漁師は思った。
「どけ!」
と、漁師が若者を押しのけ家に入り、女の姿を探して家の中を見渡した。
そんな漁師に若者が話しかける。
「勝手にここにいた事は謝るけども、まずは俺の話を聞けよ。あんたの探しているのはあの天女みてえな女だろ」
漁師が振り返ると若者はにやけた顔しながら、もう一度持っていた網を持ち上げてこう言った。
「あんたの探している女はこれだよ。俺が人間の女に化けた妖魚を捕まえてやったんだ』
次の瞬間、漁師が衝動的に若者を殴り飛ばすと、若者はよろめいて網を落とした。
すると、手放した網にから白い魚が飛び出した。
白い魚は網に尾を引っ掛け、上半身だけ女の姿に戻って横たわっている。
そして、つぶらな瞳で漁師を見上げてこう言った。
「私を海へ戻して貰えませんか」