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翌朝、漁師が目を覚ますと、かまどの前で女が振り返った。
女はにっこり微笑むという。
「おはようございます。朝ご飯の用意が出来ています」
さて、この夢は一体いつ覚めるのだろうかとも思ったのだが、漁師は女が進めるままに朝飯を食べ、そしていつものように漁に出かけた。
そしてその日も今夜食べる分の魚を魚籠に入れ、残りは海に返して家に戻った。
すると、女はまだ家におり、飯を用意して待っていた。
そんな風にして幾日か経った。
幾日か経ったある日、漁を終えて家に戻ると女がいない。
家の中を見渡し、戸口から外にで家のまわりとぐるりと一周した。
もうどこかに行ってしまったんだろうかと、漁師が戸口に佇んでいると、
「お前さま、そんな所でどうなさったのですか?」
と、背後から鈴を転がすような声がした。
「いや、別に」
と、振り返った漁師は戸惑いが隠せなかった。
女は頭からずぶ濡れになっていて、真っ白な滑らかな女の肌に黒い髪の毛が海草のようにぺたりと貼り付いていた。
「海に落ちたのか?」
という漁師の問いには答えず、女はにこにこと楽しそうに貝を差し出してきた。
「見てください」
何がそんなに楽しいのかと訝かみながらも漁師が聞く。
「焼いて食べるのか?」
それを聞いた女は一際可笑しそうに笑った。
「焼いて食べるのも良いのですが、その前に貝を開いて中を良く見てくださいな」
漁師は言われるままに錐で貝の口を開くと、そこには大きな真珠が入っていた。
驚く漁師を愉快そうに眺めた女は笑いながら問う。
「お前さま、何か欲しい物にはございますか?」
漁師は女に目をやり首を横に振った。
「これはお前が見つけたんだろう。お前の欲しい物と交換しよう」
女は首を傾げて呟いた。
「欲しい物などありません」
そして真珠を魚籠に放り込み、女はにっこり笑ってその腕を漁師に絡ませて言う。
「今夜の夕飯は何ですか」
それから時々女は真珠をみつけてくるのだが、真珠は魚籠に放り込まれるのだった。