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昔々ある所に一人の漁師がおりました。
ある良く晴れた日にいつもように船に乗り海で漁をしていると、網にたくさんの魚がかかった。すると、その中に一際キラキラとひかる白い魚が混じっている。
漁師はその白い魚を手にとって見た。
魚は海の中を泳ぐのに無駄のないしなやかな曲線で形作られ、そのウロコは真珠のような七色の光沢をはなって、尾びれも背びれも太陽の光をうけてキラキラと輝いている。
驚くほどきれいな魚だった。
漁師はそのきれいな魚を光にかざして眺めていると、魚は漁師の手の中で体を震わせて飛び跳ねた。
そこで、漁師は魚を海に返した。
それから、今夜食べる分の魚を魚籠に入れると、獲った魚の大半は海に返してやった。
漁師はこの辺り一番の漁師だったのだが、数年前に流行り病で妻と子をなくし、今はただ静かに時の流れに身を任せる日々であった。
男が家に帰ると窓から煙が出ている。
火を消し忘れたかと漁師がかまどに目をやると、そこには見目麗しい女が釜の前に立っていた。
「何をしている?」
と、漁師が聞くと、
「食事を作っています」
と、女はにっこり笑いながら鈴を転がすような声で答える。
見ると、釜からは白い飯が鍋からは貝と海草の汁がうまそうな匂いと湯気を上げていた。
「飯と汁を作ったのか?」
漁師が聞くと、
「おかずは貴方が今獲った魚です」
と、女は答え、漁師の持っていた魚籠からちょいっと魚を取ると、見事な手さばきで魚をおろし始めた。
そしてさばいたばかりの魚を盛り付け、飯を茶碗つけ、貝と海草の汁を椀に盛り付けて、
「お酒はお召しになられますか?」
と、女が言った。
「そうだな」
と、漁師は戸惑いながら返事をすると、どこからともなく女が酒を持ってきて並べた。
こんな海っぺりに狐でも出たのかと漁師が訝っていると、
「どうぞ召し上がれ」
と、女はにっこり笑った。
「お前は食わないのか?」
と、漁師が聞いてみると、
「ご一緒して宜しいのなら」
と、女が答える。
そこで、漁師はしまっておいた夫婦茶碗をゴソゴソと出してきて、女に渡す。
すると、女は自分にも飯をつけて、漁師の向かいに座ってにっこり笑って、
「いただきます」
と、箸を持って食事を始めるのだった。
酒も入ってほろ酔いかげんになってきた頃、女が口を開いた。
「暫く私をここに置いて下さいませんか?」
漁師は戸惑いながら答える。
「置くのは構わないが、ここには俺一人しか住んでいない」
「存じております」
すると、女はすっと漁師の側に座り、その腕を漁師に絡ませて魅力的な笑みを浮かべた。
漁師はさすがにこれは狐か狸に一杯食わされたに違いないと思ったのだが、そのまま真っ白な滑らかな女の肌に吸い付いてみた。女は嫌がる素振りもしないので、漁師はきっとこれは夢を見ているに違いないと思いながら女に覆いかぶさるのだった。