幼なじみという関係
加筆修正しました。3月19日
「教科書163ページの……」
先生の声が、単調に教室へ流れていく。
俺はというと、黒く整えた前髪を指先でいじりながら、ぼんやりと黒板を眺めていた。
(あとどれくらいだ……)
ちら、と時計を見る。
針は思ったより進んでいない。
残り十分。長い。
そのまま視線を落とすと、だんだんと意識が沈んでいく。
(ちょっとだけ……)
そう思った瞬間だった。
つん、と腕に鋭い感触が走る。
「っ!?」
反射的に体が跳ねて、膝を机にぶつけた。
ガタンッ。
思ったより大きな音が教室に響く。
一瞬、周りの視線が集まる。
けれどすぐに、何事もなかったかのように皆は板書へ戻っていった。
(いっっっ……!)
膝の痛みを堪えながら、俺はゆっくりと隣を睨む。
そこにいるのは、蒼井紗良。
丁寧に整えられた濃紺色のロングボブ。
光を受けてわずかに艶めく髪が揺れる。
こっちを見ている深海色の瞳は――
完全に、満足そうだった。
(絶対こいつだろ……)
だが本人は何事もなかったかのように視線を外し、淡々とノートに目を落としている。
……白々しいな。
じんわり痛む膝から意識を引きはがしながら、俺も教科書を開いた。
内容は、ほとんど頭に入ってこなかった。
ただ時間だけがやけに遅く進んでいく。
(はやく終われ……)
何度目か分からない時計の確認をしたところで――
"キーンコーンカーンコーン"
ようやく、チャイムが鳴った。
号令が終わると小さく息を吐いて、すぐに立ち上がる。
そのまま隣の机に手をついた。
「なあ紗良、前にも言わなかったか?授業中に寝てても起こさなくていいって」
そもそも紗良からすれば俺は寝てようが起きていようが関係ないだろう。
ため息混じりに言うと、紗良はゆっくり顔を上げた。
「え、文句ですか?」
わずかに目尻を細める。
完全に、面白がっている顔だ。
(こいつ……)
「寝てる方が悪いんですよ。起こされたくないのなら、寝なきゃいいのです」
きっぱりとした言い方に、言葉が詰まる。
「えぇ、それはないでしょ……」
(でも正論なんだよな)
「それ以上文句は受け付けませんよ」
にこり、と微笑むと同時に椅子を引く。
ギ、と小さな音が鳴る。
それだけで、二人の空気をリセットする。
紗良はそのまま何事もなかったかのように、軽い足取りで教室を出ていく。
(ほんと自由だな……)
「遥斗また寝てたのかよ」
振り返ると、亮太がニヤニヤしながら近づいてきていた。
後ろでは智樹が苦笑している。
「お前、ほんと蒼井さんと仲いいよなー、羨ましいわ」
おそらく本心だろう。
亮太は羨望の目を向けてくる。
「……は?」
思わず間抜けな声が出る。
それを聞いて、智樹も少し考え込むように僅かに眉を寄せて思い出すように言う。
「幼なじみなんだっけ?」
「……あぁ。ていうかあれのどこが仲良いんだよ」
「いや全部だろ」
即答だ。
「どこがだよ。あいつ、俺にだけやたら当たり強いぞ?」
「だからそれが仲いいって言ってんの」
「それそれ」
二人が同時に頷く。
(いや意味わかんねえ……)
眉をひそめたまま考え込む俺に、智樹が少し真面目な声で言った。
「遥斗からすればただの幼なじみなんだろうけどさ、僕らから見た蒼井さんって結構すごい人なんだよ」
「可愛くて、美人で、勉強できて、誰にでも優しくて、運動もできる。そんなやつと毎日普通に話してる時点で十分仲いいだろ」
亮太が肩をすくめる。
言われて、少しだけ考える。
(……そういうもんなのか?)
確かに毎日話してはいる。
でも――
(あれって、仲いいって言うのか……?)
ふと、さっきのやり取りが頭に浮かぶ。
あいつは、あれをどう思ってるんだろうか。
……そもそも。
(幼なじみって、なんなんだ?)
気づけば、そんな疑問が頭に残っていた。
読んでいただきありがとうございます!まだまだ表現など未熟なところもありますが、これから精進していきますのでぜひ第2話以降も読んでいただけると幸いです!




