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第3話「正門入学」

俺は2週間くらいこの宿に泊まっていた。


飯も寝室も最高級ホテルのようだった。


ただ飯は傍から見たら驚くほどの絶品料理なんだろうな…、でも俺には分からない。また俺の舌が不合格を出しただけだった。いつものようにな。


「2週間ぶりだな。学園の準備も整ったみたいだ。」


俺の前には2週間前に会ったあの守衛さんが宿のエントランス前に立っていた。


俺は既に学ラン姿になっている。この学園はあまり制服にはこだわってないみたいだ。普通の学ランだし校則ではこの学ランを着てもいいし、着なくてもいい。

この学園は魔物の討伐と調理のことしか考えてないんだ。そのことがこの学ランを見てひしひしと伝わってくる。



「ルイ、最後の俺の役割だ。このバッチを付けてくれ。」


守衛さんの掌にモグラの紋章を象ったバッチがある。

このモグラの紋章は背景が紫色でこのモグラの頭上に星が一つ刻まれている。


「これは何ですか?」


「これはお前の学園での地位だ。紫色は主席、モグラはジャポンエリア出身、そして星の数は学年の数だ。…お前は1年生ということだな。」


「バッチなんて、学園は妙なことにこだわっているんですね。校章バッジだけでなくこんなモノもあるなんて…」


「まぁ…この学園は変なルールがたくさんあるんだ。慣れろ…。あとこのバッチ、常につけてないと、罰則があるからな。覚えておくように。」


「常にって?学園にいる間ですか?」


「いや、寝るとき以外は外すなってことだ。」


「いやいや、それおかしいでしょ?オシャレしたい人とかいるんじゃないですか?」


「『才能あるものに人権なし』」


「分かりましたよ…」


俺は納得いってないが学園のルールを守ることにした。


俺は守衛さんとそういったやり取りをしたら、すでにこの宿から出ていたんだ。


そして目の前には30メートルを超えるんだろうか…、大きな大きな門がそびえたっていたんだ。


この学園都市は大陸でもっとも大きな岩の丘を切り出して作られている。


大きな岩の中をくり抜いてそこに人が住んでいる訳だ。だからくり抜いていない箇所がそのまま天然の城壁となって外からの魔物の侵入を防いでいる。


いったいどうやってくり抜いたんだろうか? 魔物の能力でやったのだろうか?まぁ考えたって切りがない。


俺はこの2週間で何度も見た正門を今一度眺める。


門にはチキュウと呼ばれる異世界の地図の紋章が大きく描かれていた。


ニッポンレットウと呼ばれている4つの島が正門いっぱいに刻まれていた。この世界を救った四人の料理人であり異世界人の一人、『ケイスケ ササキ』の生まれ故郷らしい。


俺たちは守衛さんと一緒にしゃべりながら門の前に近づいていた。


「このニッポンレットウの門、かなり拘っているんだ。」


「いや、これだけでもかなり壮大ですけど、他にも何かあるんですか?」


「この列島の東西を分かつ溝、フォッサマグナを境にしてこの門は開かれる。東西の文化の敷居って訳だ。」


「確かにそれは拘ってますね。」


そうこうしてるうちに俺と守衛さんは門の前に来ていた。


守衛さんが仰々しく、よく手入れされた石のレバーを下ろした。


ズ、ズズ……と地響きが鳴り、ニッポンレットウの紋章が中央——フォッサマグナのラインで真っ二つに割れる。


門の向こう側から、目も眩むような光と、数千人の狂騒が溢れ出してきた。学園の生徒や先生はそこまで数は多くないが、一般人も含めると数千人にも及んでいる。


「……行け、ルイ。お前が何を求め何を成すか、見届けてやるよ。」


守衛さんの不敵な笑い声を背に、俺は一歩を踏み出す。


光の先には、紫色のバッジを付けた俺を獲物として見定める、飢えたエリートたちの視線。


だが、俺の心は凪いでいた。

どんな美食も、どんな権威も、俺にとっては母さんの天ぷらと比較して弾き出される『不合格品』に過ぎない。



正門を開くと幅が10メートルほどの大きな大きなレッドカーペットが敷いてある。


俺はそのカーペットの上を一歩一歩踏みしめて歩いた。


横から生徒たちの冷たい視線を感じる。疑念、嫉妬、困惑‥そんな感情をぶつけてくるかのような視線だ。


このカーペットの先には大きな階段があり、階段の先に玉座があった。おそらく劇のセットのようにこの日のために作ったんだろうが、それにしてはかなり壮観である。


そしてその玉座に座っている一人の荘厳なご老人、この人はおそらく校長先生なんだろうか…


その周りに3人の生徒と1人の先生が立っている。


俺は階段を登るか登らないか迷っていた。どうすればいいんだよ。この学園の入学式の執り行い方なんて聞いていない。あの守衛さんに聞いておけば良かった。



「へぇ‥コイツか正門合格したルーキーって訳ね。」


セーラ服の女子生徒が話しかけてきた。長髪で黒髪のきれいな顔立ちをしている。目は大きくて緑の瞳だ。弟が見たら一目ぼれだろうな。


「あ…はい、よろしくお願いします…先輩。」


この人のバッチは紫色のトカゲで星が二つだから2年生だな…ととっさ考えて先輩って言ってみた。まぁ違っても先輩って言われて悪い気はしないハズだ。


  

 ― パンパン ―


2回拍手が聞こえた。生徒たちの声が静まり周りが静かになる。


「えっと、ルイ君でしたか…。とりあえず入学おめでとう。」


声を発したのは、黒髪長髪のちょっと痩せている男の先生だ。丸眼鏡をかけている。さながらマッドサイエンティストのような風貌である。


「あ、ありがとうございます。」


「…いえいえ。ま、それより正門入学生の伝統を守っていただきましょうか。」


「俺、何か変なことやっちゃいましたか?失礼なことでも?」


「いいえ。今のところは…。まぁ、その伝統とはですね、現主席の1年生、そこにいるレオナルド・ロッシ君と首席の座をかけた決闘を行ってもらいます。ほら…彼も紫のバッチを付けているでしょ?」


俺は先生の指し示す方を見ると、『レオナルド・ロッシ君』‥と思われる人物が立っていた。


金色の短髪でさわやかな青年っていう顔立ちをしている。彼は紫で鷹の紋章が入ったバッチをしている。紫ということは現主席か。


それに決闘だと!?正直めんどくさい。なんで俺がこんなことをやらないといけないんだ?しかも全校生徒がいる前で、おまけに一般人の大人たちもたくさんいるぞ。おそらくこれを見るために集まってきたんだろうな。


「なんで、そんなこと、やらないといけないんですか?正直めんどくさいし、かなりハズいんですけど。見世物じゃないんですよ。」


「『才能あるもの人権なし』、守衛から聞いたでしょ?これは強制です。やらなければ君は不合格…、それだけのこと。

 

 それに理由はどちらが首席か決めるためですよ。

 

 彼に決闘で勝ったらあなたが首席で、負けたら一年の第二席です。

 

 ちなみに正門合格者で第二席になった人物は歴史上誰ひとりいませんから、頑張ってくださいね。」


先生は笑顔で答えた。でもその瞳の奥は笑ってない気がする。


「めんどくせーけどよ、そういうルールになっているんだ。お願いするぜ、新人君。」


レオナルド・ロッシと思われる人物が俺に話しかけた。


「お、おう。よろしくな…。レオナルド…君。」


するとあたりの生徒がニヤリと笑い、その場から少し離れて、俺とレオナルド君を円陣を組むように囲っている。ただその距離はかなり離れているが。


「えっと‥このレッドカーペットはそのままでいいんですか?あとそこの玉座も。」


「かまわん、レッドカーペットも玉座も適当にノリで作った。そんなことより自分の心配でもするんだな。」


玉座に座った荘厳な校長先生風の老人が口を開いた。そこはテキトーなんだ。




「レオ、こんなエリート気取りやっちまえ!」


「バカ面にお前の技を叩きこむんだ、レオ!」


「自称優等生に引導を渡してやれ!」




ギャラリーの一般生徒が盛り上がっている。俺はどうやらヒール役らしい。


そしてレオナルド君には人望があるらしいな。


「まぁ‥めんどくせーけど、本気で戦わないといけないルールなんだ。入学早々悪いが頼むよ。えっと…ルイ君?」


「そうみたいだね。よろしく、レオナルド君。」


「いや、レオでいいよ…」


そういうとレオの体から深緑の魔力が解き放たれた。





















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