第2話「指紋スロット」
「ミカ…といったか、アイツとはまぁ…残念だったな。」
守衛さんが俺に話しかける。
「はい…喧嘩別れですね‥。」
「こんな雰囲気で言うのもあれだけどさ、お前の相方も一緒にこの学園に入学してほしかったんだがな…」
「ミカにはミカの人生があります。アイツは漫画家志望です。学園志望ではなかった。」
「…そうだな。」
しばらく沈黙が流れた後、守勢さんが切り出した。
「しかし、お前の収納、すげぇよな。普通、自分自身を収納に収納なんてできねぇぞ…」
「そうなんですか?」
「ああ…。養殖したスペーストラベラーの収納は生き物は収納できない。荷物などの生きてないものしか収納できないんだ。」
「へぇ‥、野生のスペーストラベラーしか無理なんですね…」
「ああ…学園生徒の収納は養殖物ばかりさ。そもそも…野生のスペーストラベラーには普通出会うことなんてできないんだよ。」
「スペーストラベラー、才能の在る者の前に突如として現れ、連れ去る…でもそんな現れないんですか? 才能の在る者なんて割といるんじゃ?」
「俺の知る限りじゃ13年前のユキ・ベルナールと20年前のザルドビーチェ以来だな。ユキの件は秘密になっているがな。」
「俺には教えていいんですか?」
「教えるもなにもお前は知ってるだろ?何せ、ユキはお前の母親だからな。」
「はは…何で分かったんですか?」
「目元がそっくりなんだよ。それに苗字も一緒だし、おまけに使う技まで一緒。バカでも分かる。」
「流石にばれちゃいましたか。」
「だな。…さて、無駄話はここらへんで、学園に入学するまえにやらないといけない手続きがある。それについて話しておいていいか?」
「お願いします。」
「じゃあ、お前、裸足になれ。そして両手両足にこの墨をつけろ、手形と足形を取る。」
「何故…?そのようなことを。」
「指紋スロットの確認だ。お前の指紋の模様を見たい。」
指紋スロット?何のことだ? まぁあ、学園の入学手続きならやる必要があるのか。俺は深く考えずに両手両足に墨を付けて、床に置かれていた画用紙に両手両足の手形足形をとった。
守衛さんはその画用紙をまじまじと見て俺の指紋の模様を確認している。
「…こいつは凄いな。13スロット…ザルドヴィーチェ以来の量だ。普通は一つか二つ。ザルドヴィーチェが15スロットだと判明した時は、学園の歴史がひっくり返ったもんだ。……まさか、二度目があるとはな」
「ザルドヴィーチェ?誰ですか?その人?」
「20年前にこの学園に入学してきた、伝説の首席卒業生…今はどこにいるかもわからねぇが、噂ではラストダンジョンにいるんじゃ‥とも言われている。」
「へぇ…」
13スロット…、俺の収納の異空間にも13部屋ある。大きな廊下を分かち左右に六部屋ずつ、そして突き当りに一部屋ある。そして、各部屋のドアに模様がるんだ。左から2番目にあるのが、ひし形室だ。ほかにも真円室や台形室など様々だ。
そしてザルドヴィーチェ…、そういえば母さんからもらった秘伝のノートにも少し出てきた気がするな。その名前、もう一度読み直すか。
俺は一通り考えた後、守衛さんの方を見ていた。
守衛さんは何か文字を書いている。おそらく俺の指紋スロット?とかいうものをメモしてるんだろう。
守衛さんは一通り書き終わり、俺にその紙を見せてきた。案の定、それは俺の指紋スロットをまとめた表だった。
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指の指紋 指の種類 特殊調理で
の模様 保有した能力
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楕円 右手親指 なし
右足親指
右足人差指
左足中指
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ひし形 右手人差指 スペーストラベラー
のスキル『収納』
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正方形 右手中指 なし
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五芒星 右手薬指 なし
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真円 右手小指 なし
右足小指
左足人差指
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六芒星 左手親指 なし
左足小指
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台形 左手人差指 なし
左足薬指
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順三角 左手中指 なし
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ハート型 左手薬指 なし
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四芒星 左手小指 なし
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逆三角形 右足中指 なし
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スペード型 右足薬指 なし
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渦巻型 左足親指 なし
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「お前の指紋の模様パターンは13種類、つまり、13種の魔物の固有スキルを取得できるんだ。…普通は大抵は一つか二つくらいしか無いんだがな。」
指紋の模様パターンは13種類、なんか気持ち悪いな。あまりよく自分の指紋なんて確認しないから知らなかったが、俺って13種類も指紋があったんだ。それに指紋の数が普通は一つか二つらしい。俺も普通が良かったな。だって13種類って気持ち悪いじゃないか。
「指紋の模様パターンは13種類、それが何と関係があるんでしょうか。」
「いいか、一部の魔物を特殊調理して食べるとその能力の恩恵を得られることは知っているな?」
「‥はい。」
「その保有量にも限界があるんだよ。その限界を見極める方法がこの指紋の模様パターンってことだ。」
「えっと…この表で言うところの指紋の模様の種類ってことですか?俺の指紋のパターンが13種類だから、魔物の能力は最大13個得られるってことでしょうか?」
「…そうだ。だが14個目は取得したらダメだ。」
「それはどうしてでしょうか?」
「それはお前の容量の限界値だ。14個目はお前の器が耐えきれずに発狂して、お前自身が魔物になっちまう。」
「…なるほど。では気を付けないといけませんね。」
「でもなんで俺の右手人差指に収納の能力が宿っているって分かったんですか?」
「お前の収納、異空間のゲートの形がひし形だった。ありとあらゆる能力は指紋の模様パターンに影響するんだよ。」
「…なるほど。」
「それにお前の右手人差指の指紋を見てみろ、中心にホクロがあるハズだ。」
俺は自分の右手人差指を見て見る。確かに中心にホクロがある。
「指紋スロットに能力が宿ったら中心にホクロができるんだ。覚えておけ。」
「…わかりました。」
「さて、俺が説明しないといけないことは終わった。あとは入学式だけだな。」
「えっと…試験とかしなくていいんでしょうか?」
「お前は既に試験を合格しているんだ。」
「えっと‥それはどういうことでしょうか?」
「この学園への入学資格は指紋スロットが2つ以上あること、そして入学試験はスペーストラベラーの収納を特殊調理で手に入れること、だからだ。」
「確かに俺はすでにこの条件二つをすでに揃えていますね。…でもなんで収納を手に入れることが入学試験なんでしょうか。」
「この学園は魔物討伐料理学園、その性質上、ダンジョンや外に出て魔物を狩らなきゃなんねぇ。野営しなきゃいけないんだよ。大量の荷物をどうやって持ち運ぶ?」
なるほど、そのために異空間に収納する必要があるという訳か。
「そういうことですか。…でも収納ってそもそも手に入れることって難しいのでは?さっき言ってたように野生のスペーストラベラーなんて滅多にお目にかかれないって‥」
「だから学園はスペーストラベラーを養殖しているんだ。毎年500匹生産している。…それを入学試験に使ってるんだよ。」
「学園って恐ろしいことするんですね。そんなこと可能なんですか?」
いや、そもそも目の前に現れないのにどうやって養殖してるんだよ。養殖って最初は野生の種を見つけないといけないんじゃないのか?
「魔物科の先生の功績だ。俺もよくわからねぇが、魔物養殖をやってるらしい。」
なるほど、魔物養殖については守衛さんも分からないらしい。
「さて、学園はお前の正門入学の準備を行っているから、しばらく正門前の宿に泊まってもらう必要がある。」
守衛さんは突拍子もないことを言った、
「どうしてですか?さっさとこの正門を突破して、学園都市を見て回りたいんですが…」
「ダメだ。これは学園の伝統なんだ。養殖じゃないスペーストラベラーを保持したものが正門で一発合格する、これに敬意を表して正門を通った生徒をそこで祝う、これが学園の伝統。無理なもんは無理だな。」
「それって一般人に迷惑じゃないでしょうか?」
「大丈夫だ、正門合格者が出た場合のみ学園は一般人用の裏口を解放している。いいか、お前の入学はそのくらい特別なんだよ。」
「これ断ったらどうなるんですか?」
「学園の校訓の一つ『才能あるものに人権なし』に引っかかっちまう。途端に先生と生徒から寄ってたかっていじめられるな。」
「いじめって、学校がやっていいもんでしょうか?」
「いいか、新入生、あの学園は普通の学校じゃないんだよ。普通の倫理観や道徳なんて持ち合わせていないんだ。分かってくれ…」
正直驚いた。俺が今まで通っていた小学校や中学校とは違う価値観だ。でもそんなことは関係ない。だって俺って既に半分は廃人なんだから。
「そうなんですね…仕方がないですね。」
「怖気づいたか?」
「いえ、その程度で怖気づくなんて、ミカにも家族にも俺自身にも申し訳が立たない。」
「その意気だな。…ではしばらく向かい側の宿で泊まってもらうぞ。」
そこで俺と守衛さんの会話が終わって、俺はこの守衛さん用の建物の向かい側にある宿に泊まることにした。
本来この宿は一般人用には解放されていない。学園が正門合格者用に作った宿らしい。本当に正門合格者は特別なんだな。
*
13スロット分の能力を保有できる。
本当にそうなんだろうか?肉体には13個能力をストックできるかもしれない。
でも精神はそれに耐えられるのだろうか。俺は母さんの天ぷらだけでこの有様だ。何も考えずに13個なんて本当に大丈夫なんだろうか。
俺は一抹の不安がよぎったが、『母さんの天ぷら』だけが特別なんだと…そう言い聞かせ、この心のドロドロに蓋をした。




