第4話 誰が殺した、織田信長
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第4話 誰が殺した、織田信長
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信長様が懐から書状を出した。
差し出されたから、へへーと恭しく受け取ったけど、これは何?
「官途状である」
官途……功のあった家臣に、主君が官職を与えるもの、だったはず。
「義昭公に頂いた。時久はこれより尾張掾だ」
「え?」
将軍が出した官途状は、すぐに叙任されるように朝廷に働きかけるから、正式に名乗っていいよ、といった感じのものだよね。
「尾張掾では不満か」
「いえいえいえいえいえ。僕に官職をいただけるのですか!?」
毎回不満かと聞くのは止めてください。不満そうな顔をしているのではなく、面食らっているのですから。
「そのうち、朝廷から叙任されるであろう」
「ありがとうございます」
正直言って、官職になんの魅力も感じないけど、ないよりはあったほうがいいのかな? 程度の感覚ですね。
「なんじゃ俸禄より喜ばんな」
「……俗物なものなので、すみません」
現金のほうが僕は好きだ!
できれば名刀が欲しい。刀はいいね。あの怪しく光るところがいいんだ。フフフ。
「時久はどれほど未来からやってきたのだ」
今が元亀元年なら、西暦でいうと一五七〇年。
「ざっと四百五十年ほど未来です」
「四百五十……で、あるか」
あくまでもざっとです。正確じゃないですからね。
「して、儂はいつまで生きるのだ」
い、いきなりですね。
そんなヘビーな話をいきなり切り出すのですか。
「僕が知っている歴史では……天正十年です。あ、今から十二年後です」
「で、あるか」
史実の信長様は四十八歳の若さでこの世を去る。いい人は短命なのです。なんて言わないよ。
寿命が短いのは、戦国だから。簡単に人を殺す人が、右を向いても左を向いてもいる時代だからだ。
「儂を殺すのは何者ぞ」
「……それを聞いてどうされますか」
「どうもせぬ」
本当ですか。とは聞けない。そういうの、信長様は好きじゃないと思う。
「今その者を殺せば、歴史が変わる。であるなら、殺すのは得策ではない」
「……それは僕の知る歴史が変わるから、僕からの知識を得ても役に立たなくなるということですか」
「分かっておるなら聞くな」
いやいや、聞かないと分かりませんから!
「だが、我が家臣らをむざむざ死なすのは惜しい。場合によっては歴史に干渉し、家臣らを助けてやりたい」
信長様はブラック企業の代表のようなイメージがある人だけど、家族や家臣にはそれなりに優しい面がある。
歴史からもそれを窺い知れると、僕は思っている。
「信長様を討つのは、明智光秀です」
「十兵衛であるか」
信長様は淡々とした表情で、特に怒りとかは感じない。
この頃の明智光秀は将軍の義昭と信長様の間で両属状態のどっちつかずのはずで、信長様の無茶ぶりはまだされてないはず。しらんけど……。
「ですが、明智光秀を動かした、裏で糸を引いている人がいた可能性があります」
「それは明確になっていないのか?」
「歴史に埋もれた事実も多いのです。歴史家たちが研究したところでは、三人というか三組の裏ボス説が有力ですね」
「裏ボスとはなんだ」
「ああ、裏から人を操っている総大将みたいなものです」
「ふむ。続けよ」
「裏ボスが三組いると言いましたが、まず一組目は」
信長様、結構楽しんで聞いてる?
前のめりなんですけど。
「一組目は徳川家康です」
「……で、あるか」
ショックを受けてる!? どうしたの? そんなに家康を信じてたの!?
たしか、幼い頃の家康が尾張で人質だった時期がある。あの頃から信長様と家康は顔見知りだと思われる。
それに、信長様はなぜか家康に優しい。はたから見たら息子と正室を死に追いやっている悪魔のような人かもしれないけど、家康が連座されてないことを考えると、家康に何かしらの期待をしていたのだと思う。
それに、信長様は家康に信康を殺せとは命じてないと思う。そんなことを言ったら、家康との間が拗れる可能性があるし、愛娘五徳姫の旦那だからね。多少の害はあったかもしれないけど、それほど大きな害を受けてないのに、殺せとはいわないはずだ。
「次を」
「あ、はい……。二組目は足利義昭と毛利輝元です」
「ほう、公方様がのう」
すっげー目つきが鋭くなった!? 怖すぎるよ、信長様!?
「その頃の義昭は信長様に京を追放され、安芸の毛利を頼っています」
「追放……で、あるか」
信長包囲網を築き、信長様を窮地に陥らせたからね。追放で済んだのは、将軍だからだと思う。
いくら信長様が破天荒な方でも、この時代の価値観は持っていたのだろう。だから、将軍殺しはしなかったんだと思う。
目の前に本人がいるのだから、いつか聞いてみたいものだ。
「次を」
「はい。三組目は……豊臣、あ、今はまだ羽柴……いや木下秀吉かな? と黒田官兵衛」
「秀吉……サルか」
「はい。木下秀吉です」
家康以上にショックを受けたようだ。それほど秀吉を可愛がっていたのだろうか。
優秀なのは間違いないし、愛嬌もあったと思われるけど、性格が悪いからね、秀吉。
「豊臣とは?」
「えーっと……言いにくいことですが、木下秀吉は、信長様亡き後、織田家から独立し、天下を平定しました。その際に織田家の方々を……」
「で、あるか……」
他にも公家が関係している可能性も否定はできないし、これまでに挙げた全部が関係してないとは言えない。
信長様って、人の能力を見抜くの目は凄いものを持っていたけど、人の性格や恨みといったものには鈍感な人だもんね。まさに天才肌の人だよ。
目を閉じて何も言葉を発しない信長様と僕の前に、久太郎さんが白湯を置いた。
喉が渇いたところだったんだ。
でも、信長様が口をつける前に飲んでいいのかな。ここは待つことにしよう。
目を開けた信長様が白湯に口をつけた。
僕も飲む。ああ、喉に染み入る~。
できれば冷たい水をグイッといきたいけど、生水は危険だ。
僕のような現代育ちの貧弱な胃を持った人が、この時代の生水を飲んだらピーッとなってしまうことだろう。
この時代に安全な水道水なんかないものな。我慢、我慢。




