第24話 呼び出し
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第24話 呼び出し
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甲賀郡の国人・豪族・土豪・地侍たちで僕の話を聞き入れてくれた人はあまりいない。閉鎖的な土地のようだから、仕方がない。時間をかけてほぐしていくしかないね、これは。
それで話に乗ってくれたのは、六家だった。甲賀五十三家というが、たった六家だ。まあ、六家もいたのだから、御の字だろう。最初はこんなものでいい。
豚の飼育は黒川保長さん、唐芋の生産は嶬峨胤久さん、ジャガタライモ改めジャガイモの生産は池田景雄さん、磁器の生産は多羅尾光俊さん、硝石の生産は望月昌久(出雲守)さんと山中長俊さんが行ってくれることになった。
それぞれの家に技術指導をしていると、信長様は長島を追い込んでいた。
長島の一向一揆は、石山本願寺が蜂起すると、ほぼ同時に一向一揆を起こした。滝川一益さんが活躍し、一向一揆を押さえ込んでいる間に、信長様は石山本願寺を降伏に追い込んだ。
石山本願寺が降伏しても長島一向一揆勢は長島を退去しなかったので、信長様は弟の織田信興さんらを率いてこれを討伐に向かい、この五月に一向一揆を長島に封じ込めた。さすがに中洲の長島は、攻めるのが難しいようで難儀しているらしい。
信長様は根競べだと、長島を包囲している。気の短い信長様だけど、こういうところは腰を据えて敵が干上がるのを待つ我慢強さもある。
信長様は苦労しているようだが、僕は三雲城で生産拠点の整備を進めた。
信長様は国友の鉄砲鍛冶師を、この三雲城へと移住させた。僕に管理しろということらしい。実際には九郎さんや久太郎さんが管理するんだけど。まあ、それはいい。
僕が進めていた鉄砲のライフリングは、四本から進んでいない。ただし、材質の向上が進んで、二十連発しても壊れないものになった。
そういった技術と素材を提供し、国友の鉄砲鍛冶師の生産する鉄砲の品質を上昇させることに成功した。
三雲城の目の前には、野洲川という川がある。そこに水力発電所を造った。水力発電所の構造はそれほど難しいものではない。この時代でもなんとか造ることは可能だ。
発電量は……さすがに分からないけど、発電はしている。
これで旋盤などを動かすのだけど、その前に旋盤を造らないとね。
鍛冶師と共に旋盤を造っていると、月日がたち今年も暮れる季節になった。
「なんとか旋盤ができました。水力も電力も安定しているみたいです」
職人もこの一年近い時間で、水力や電力のことを理解する人が出てきた。頼もしい限りだ。
「尾張掾様。織田の殿がお呼びにございます」
竹さんの料理を食べていると、久太郎さんが入ってきた。
最近はお呼びがなく、物作りをしながらとても平和な日々を過ごしていたんだけど、それも今日までのようだ。残念無念。
僕は久太郎さんたちと共に美濃の岐阜城へと向かった。今現在、長島の包囲は滝川一益さんと織田信興さんが行っている。
この織田信興さんは、長島に近い鯏浦城・小木江城の城主をしている方で、本来であれば昨年末に長島一向一揆に殺されているはずの人物だ。この世界線では、未だに現役でがんばっている。
「交野時久、ただ今参上いたしました」
信長様の前で深々と頭を下げる。重臣の方は、かなり少ない。林秀貞さんや坂井政尚さんといった顔があるくらいか。
柴田勝家さんは朝倉討伐軍の司令官として、前田利家さん、佐々成政さん、不破光治さんなどを率いて越前で戦っている。
佐久間信盛さんは石山本願寺が退去した石山に入り地域の安定を図っている。
森可成さんは近江で旧浅井家臣団を統率し、比叡山を監視している。
丹羽長秀さんは若狭の統治を行っており、秀吉はその補佐をしている。
村井貞勝さんは、信長様が設置した京都所司代として京の都で義昭や朝廷の相手をしている。
林さんは、後に織田家から追放される人物だ。信長様が那古野城主になった頃から一番家老という高い地位にあったにも関わらず、信長様を裏切って弟の信行(信勝ともいわれる)に通じて、織田家の家督相続に干渉した人物で、それ以降はほとんど表舞台で活躍していない。裏方に回されたのは、信長様が林さんを信じていなかったからかもしれない。
そりゃー、僕だって本来自分を助けるべき一番の家臣が、弟を担ぎ上げようとしていたんだ。何年たっても、隔意は簡単に消えないだろうさ。
弟の信行を支持したのは、柴田勝家も同じだ。だけど、柴田さんは信長様の家老でも家臣でもなかった。そこら辺が林さんと一番違うところだろう。
「出せ」
え? 何を出すんですか? 主語を言ってくださいよ……。素直に聞きたいところだけど、それだと怒鳴られそうだ。
今の時期、信長様の悩みは……うちのご飯が食べられないことかな? いくらなんでもそんなことで、呼び出さないよね? 今までそういうことがなかったし……となると……長島の件かな? あそこは現在進行形で包囲中で、長い間状況が動いていない。ただ、『出せ』というキーワードが……まさか軍師として僕の意見や作戦を『出せ』と言っているんじゃないでしょうね? えぇぇぇ……。
「えーっと……長島のこと、ですか?」
「さっさと妙案を出せ」
正解だったようだ! まずは怒鳴られ回避! しかし、信長様はブラックだ。いきなり『出せ』はないと思う。
「いきなり言われましても……現状を教えていただけますか?」
「右近、説明しろ」
「はっ」
坂井政尚さんから説明を受けた。長島の抵抗はかなり弱まっているが、木曽三川に囲まれた中洲なので織田軍も簡単に近づけない。
長島一向一揆勢にかなりの打撃を与えているが、その分だけ織田軍にも被害が出ている。
「鉄砲も弓も有効とはいかず、投石機は長島まで届かず、兵糧攻めを行っているが、あとどれほどの兵糧があるかも分からず、といったところですな」
「上陸はできないのですか?」
「何度も試みたが、未だに上陸は果たせておりませんな」
基本的にはこのまま包囲して兵糧攻めをしたほうが人的被害がなくていいんだけど……年を越す前に決着をつけたい、といったところか。信長様を見ると、貧乏ゆすりしている。かなり苛立っているようだ。




