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第六天魔王の軍師  作者: 大野半兵衛


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第22話 家なし子

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 第22話 家なし子

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 結局、信長様は比叡山を攻める方針を変えなかった。だけど、明智光秀と木下秀吉を参加させるのは、保留にしたようだ。


 元亀二年の正月。

 京では将軍義昭による宴が、盛大に開催された。信長様や重臣たちもそれに出席し、僕も末席に座った。

 僕の横には秀吉が座っている。僕はここで全然いいけど、秀吉はもっと上座に座りたいようだ。


「交野殿のおかげでわしゃぁ伊香郡を拝領することができたがね。本当に感謝しているだで」


 近江国伊香郡は、三万から四万石くらいの土地だ。農民だった秀吉が三万石の大名になったのだ、舞い上がって当然だろう。


「それはよかったです。でも、私は大したことをしてません。木下様の働きの結果だと思いますよ」


 ここで酒を傾け喉を潤す。しかし、不味い酒だ。ビールや酎ハイが飲みたい。


 あと、僕も領地をもらった。近江国甲賀郡(七万石くらい)の領地だ。もちろん、全てが僕の領地ではなく、国人領主が犇めき合っている土地になる。

 領地なんて面倒だから要らないと言ったら、「たわけ!」と罵倒された。相変わらず信長様は、口が悪い……。

 おかげでせっかく整備した将軍山城だけど、信長様に返上することになった。あそこで作っていたものは、甲賀郡で引き続き製作することになっている。

 どこに拠点を構えるかは、まだ決まっていない……。家なし子です。


 今の甲賀郡は織田家に抵抗している家がまだある。

 以前、信長様は甲賀は自分についたと言ったけど、全てではない。未だに織田家に反抗する家がいるのだ。


 あと、仮に平定しても微妙な土地なんだよね、甲賀は。

 甲賀郡は近江国の中で唯一琵琶湖に面してない郡で、平地が少なく農作物を育てるのが大変な土地なのだ。

 一般的には、厄介な土地を僕に押しつけたと見られている。でも、信長様の思惑は、僕になんとかしろ、と言っているんだと思う。信長様は僕を過大評価し過ぎな気がするんですよね!


 とりあえず、甲賀入りする前に千宗易さんに色々頼んでおいた。備えあれば憂いなし。そんな言葉が頭に浮かぶ。






 やってまいりました、甲賀郡。

 ここまできたら腹を括って、甲賀の国人たちを丸め込まないといけない。大変だ、これは。


 まず僕が入ったのは、甲賀郡信楽荘の多羅尾光俊たらおみつとしさんの城というか砦かな。

 多羅尾さんは信長様が上洛した当初から従っている甲賀の家になる。


「ようこそおいでくださいました。某、多羅尾左京進(さきょうのじょう)と申します」


 多羅尾城の主である光俊さんは、信長様が本能寺で明智光秀に討たれた際、堺から逃げる徳川家康を助けた人として知られている。


「某は池田伊予守と申しまする」


 多羅尾さんの他に、池田景雄いけだかげかつさんも駆けつけてくれた。

 池田さんは蒲生郡に所領があるけど、一応僕の配下ということになる。

 景雄さんは信長さんの乳兄弟である池田恒興と同じ甲賀池田氏の人で、この人も早くから織田家に従っている人だ。


 甲賀の国人はまだ織田家に従ってない人が多い。だから、この二人は貴重な味方になる。


「交野尾張掾時久です。以後、よろしくお願いします」


 僕の挨拶が終わると、早速久太郎さんが話を進めた。

 久太郎さんたちは、引き続き僕の面倒を見てくれている。頼もしい限りだ。


「甲賀を平定したいと考えます」


 主な反抗勢力としては、三雲家、山中家かな。共に城は落ちているが、甲賀の他の家で匿ってもらっている。

 この二家が落ちれば他も自然とこちらにつくと思う。


「そこで多羅尾殿に三雲を、池田殿に山中を説得していただきたい」

「尾張掾様に一つお伺いしたいのですが」


 池田さんだ。


「なんでしょうか」

「領地は保証していただけるのでしょうや?」


 領地の保証は信長様から何も言われていない。僕の中ではそのままでもいいけど、のちに信長様によって召し上げられる可能性はある。


「《《今は》》領地を保証します」


 僕の「今は」という言葉に、池田さんは納得いかない表情だ。


「将来、もしかしたら移封はあり得ます。それは弾正忠様がお決めになられることです」

「……承知いたしました」

「多羅尾殿は何かありますか?」

「いえ、三雲殿の説得の件、承知いたしました」


 二人に大物の説得をお願いした僕は、杉谷城に入った。この杉谷城の城主は、なんとあの杉谷善住坊だったのです!

 え、知らない? 史実では織田信長を狙撃した人なんですけど、本当に知らない?

 その杉谷善住坊については、色々な説がある。紀伊国の雑賀出身だったり、伊勢国の国人だと言われていたけど、甲賀出身でした。

 その杉谷善住坊は本願寺攻めの時に、こちらの狙撃で死んだらしい……。

 僕はそんなことを狙っていなかったけど、自分がしたことと同じことで死ぬとはね。もっとも、史実のほうの信長様は死んでないけど。


 この辺りは城がたくさんある場所だ。目の前には望月城がある。

 望月城主の望月出雲守は煙を使う忍術で、織田軍を翻弄させたという伝承がある。まあ、伝承は眉唾物が多いから、話半分どころか一割くらいで考えていたけど、どうやら本当に煙を使ったらしい。

 それは僕がこの世界にくる前のことだから見たわけではないけど、久太郎さんがそう教えてくれた。


 また、望月家は信濃国の望月家が本家で、その本家は武田信玄に仕えている。

 望月出雲守の娘の千代女が本家に嫁入りしていることで、彼は武田びいきという話もあった。

 その甲賀望月家は、あと数年ほど織田に抵抗するはずだったが、六角親子が戦死したことで降伏している。


 その望月出雲守が挨拶にきている。彼だけではなく、甲賀で織田に降った主だった領主たちが集まっている。


「よく集まってくださった。面を上げられよ」


 久太郎さんの声で、集まった領主たちが顔を上げた。

 甲賀は六角親子が観音寺城を失っても、匿っていた。過去にも六角が観音寺城を追われた際は、甲賀が匿っていたはずだ。

 それほど忠義を尽くした……というわけではないと思う。逃げてきたから、仕方なく匿っていたんだろうと思う。

 本当に忠義を尽くしていたなら、六角親子が死んだ後も、抵抗し続けると思う。敵討ちとか言って。



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