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第21話 落日の石山本願寺

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 第21話 落日の石山本願寺

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 早朝から総攻撃が行われている。

 二日続けての総力戦だ。


 昨日よりもこちらへ回されてくる門徒の数が多い。狙撃されるのが嫌だというのが、よく分かる。

 ただ、今日のうちは、佐久間玄蕃さんが守りに参加してくれている。

 佐久間玄蕃さんは佐久間盛政という名前の武将で、夜叉玄蕃や鬼玄蕃などと言われるほどの人だ。髭ボウボウの顔は迫力があるんだよね。


 戦いは今日も夕方まで続き、決着はつかなかった。


 この戦は長引いた。

 本願寺勢は打って出てくることがなくなり、籠城に専念したのだ。

 こうなると、狙撃も簡単にはいかない。


「時久。何かいい手はないか」


 軍議に呼ばれ、そう問われたんだけど、簡単に策が浮かぶわけが……。あったよ。めっちゃ原始的な攻撃手段だけど、この時代の日本では使ったと聞いたことがない攻撃だ。


「投石でもしてみますか?」

「投石だと? ……やってみろ」

「それではすぐに手配をします」

「五郎左、手伝ってやれ」

「はっ!」


 五郎左衛門尉さんはあの丹羽長秀だ。織田家の宿老であり、豊臣政権でも重きをなした人である。

 丹羽さんは軍事だけでなく政治でも手腕が評価されている出来る人なんだ。


尾張掾おわりのじょう殿、よろしくな」


 尾張掾と言われると「誰?」と思うけど、僕のことだった。そんな官位をもらったのを忘れるくらい激動の日々だったよ。

 しかし、僕自身が忘れているのに、五郎左衛門尉さんは覚えているのか。さすがは米五郎左と渾名される人だ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 僕はさっそく作業にかかった。

 投石機はそんなに難しい構造じゃない。

 絵を描いて、材料を指定したらあとは久太郎さんと五郎左衛門尉さんがやってくれる。


「慶次郎さんにはこれを作ってもらいたいのです」

「某に? はて、なんであろうか?」


 慶次郎さんにも紙を渡して、あるものを作ってもらう。

 これは甲賀忍者の家系である慶次郎さんに頼むのが一番いいと思っている。


 三日後、投石機が出来上がった。ほぼ同時に、慶次郎さんに任せていたものも用意が完了した。

 軍議の場で丹羽さんが信長様に報告する。


「明朝、直ちに投石機を使う。指揮は五郎左に任せる。時久は儂のそばにいろ」


 翌日、まだ夜が明けきらないうちに、五台の投石機が前線に配置された。


 しかし、今日は冷える。朝の冷え込みは、今シーズン一番のものだと思う。

 石を温めたものを、布で包んで懐に入れてあるけど、こんなものではこの寒さを和らげることはできない。歯がガチガチと鳴りそうだ。


「白湯を持て」


 小姓の少年が信長様に白湯を持ってきた。信長様好みの美少年だ。

 僕の前にも白湯が置かれたので、ありがたく口にする。

 寒いからか、やや熱めの白湯は五臓六腑に染み渡って、体を温めてくれるようだ。




 投石機の攻撃が始まった。

 本陣にもその音が聞こえてくる。

 ドンッ。そんな轟音の後に地響きがする。あれは慶次郎さんに作ってもらった焙烙玉が炸裂した音だと思う。

 やっぱり甲賀の忍は、火薬の生成に長けているな。南蛮ヨーロッパの火薬生成とは違うんだろうな~。どんなのかな~。





「申しあげます! 投石機の攻撃により城門を破壊しましてございます!」

「そうか! 下がって休め」


 村井貞勝さんが伝令を下がらせると、全員が信長様を見た。


「総攻めじゃ! 太鼓を打て」

「はっ!」


 信長様はダンッと立ち上がって、そう命じた。

 武闘派の家臣らが色めき立って本陣を出ていく。僕は出ていかないよ。だって、僕は武闘派じゃないからね。


「投石機か。よきものであり、面白きものだ」


 信長様が呟かれて、床几に座り直した。


 城門が破壊されても本願寺勢は激しく抵抗をした。それでも織田勢の勢いは止まらなかった。

 石山本願寺は徐々に押し込まれていった。

 そんな時だった。朝廷からの使者として勧修寺晴秀様がやってきたのだ。

 この人、たしか興福寺の人事に介入したとかで、信長様に更迭される人だったと思う。おそらく六年くらい先の話だけど。


「破戒僧どもは朝廷にどれほど貢いだのだ?」


 信長様は歯に衣着せぬ物言いだけど、それだけ不快でならないんだろうな。

 勧修寺さんは顔を引きつらせている。


「これは主上(天皇)のご意志でおじゃる」

「ふんっ。主上の意志だと? ならば、石山本願寺より破戒僧どもを立ち退かせろ」


 今では本願寺の本山である石山本願寺から、お坊さんたちを立ち退きさせてこの戦いは終わりにすると信長様は仰った。

 本願寺勢を退去させても播磨の英賀御坊や、中国の毛利家に身を寄せるんだろうな~。特に毛利家と本願寺が手を結んで織田家に対抗するのは厄介だ。


 勧修寺様は本願寺勢を石山本願寺から退去させることで話をまとめた。

 その間、僕は建物の中で火鉢を抱え込んで待っていた。寒すぎるんだ。


 信長様は石山本願寺を佐久間信盛さんに任せて、京の都に凱旋した。

 僕もそれに従って京の屋敷に入ったけど、京都はさらに寒かった!


 この時代の人は寒さに強いのか、平気な顔をしている人が多かった。同じ人間とは思えないよ、この人たち。


 信長様は将軍義昭や、朝廷などに戦の報告をした。

 そこに朝倉義景や主だった朝倉家の捕虜が送られてきた。


「三佐! サル! ようやった! 時久もよくやったぞ!」

「「ははーっ!」」

「ありがとうございます」


 織田家は危機だったのに、結果として石山本願寺を手に入れ、朝倉義景を捕縛した。

 これはとても大きなことで、周辺の大名・国人の抵抗も収まるだろうという見方が大勢を占めた。


 祝勝会が行われ、機嫌のいい信長様が敦盛を舞った。

 その席には将軍義昭もいる。強がっていたけど、内心は冷や冷やしていたのだろう。そういったことを忘れるように浴びるように酒を飲んでいる。





 それから数日が経過し、もうすぐ年が変わるといった頃の話だ。

 その頃の僕は勝軍山城から竹さんを呼んで、毎日美味しいご飯を作ってもらってゆっくりしていた。

 そこに信長様がやってきた! 嫌な予感しかない。


「比叡山を攻めるぞ」

「攻めないといけませんか?」

「全ての僧兵を引き渡せと使者を出したが、断ってきたわ」


 比叡山も世の中が見えない人ばかりか。石山本願寺を見て何も思わないのかな? それとも本願寺とは格が違うとでも思っているのだろうか?

 天台宗の総本山だとしても、信長様がそんなことを考慮して手心を加えるとは思えないのにね。


「今回は光秀とサルを使う」


 史実でもこの二人は比叡山の焼き討ちに参加していた。

 おそらく比叡山の焼き討ちを進言したのは、この二人のどちらかだろう。


「攻めるのを信長様に勧めた方はどなたですか?」

「なぜそんなことを聞く?」

「もし明智様や木下様なら、お止めになったほうがいいです」

「………」


 信長様は史実で自分の末路がどうなったか知っている。僕が教えたからね。

 その上でどうしても二人を使うというのなら止めはしないけど、史実を踏襲するということをよく考えてほしいと思う。



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