第20話 まさかの本願寺攻め
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第20話 まさかの本願寺攻め
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捕虜の朝倉義景らと比叡山の監視は森さんに任せ、僕は勝軍山城に帰った。
これでしばらくはゆっくりできると思っていたんだけど、信長様から兵を率いて摂津にこいと命令がきた。
せっかく朝倉との戦いが終わったのに、また出陣とか嫌だな。でもそれを口にすると、信長様に殺されそうだからいくけどさ。
丁度月が変り十月になる。ドンドン寒くなっていくから、野営が厳しい時期だ。出陣は本当に勘弁してほしい。
「時久様。もう少し背筋を伸ばしてください」
馬に揺られ、嫌だな~と思っていたら、久太郎さんに指摘された。
「全身からいきたくない感が出てますよ」
いきたくないから、しょうがないでしょ。と言いたいところだけど、背筋を伸ばして前を真っすぐ見つめる。
信長様に挨拶にうかがうと、そのまま陣の中で席が用意された。嫌だなー。
「明朝、石山本願寺を攻める」
信長様のその言葉に、僕は真っ青になる。
無理に攻めたら、被害だけが増える。それを分かっているのかな。
諸将を下げた信長様は、僕を見つめて口を開いた。
「時久の鉄砲兵はかなり遠くの者でも命中させるとか」
「はい。風などの条件にもよりますが、三町なら可能だと思います」
「明日の石山本願寺攻めで、敵の指揮をしている者を狙い撃て」
僕の側近にしている五人に、スナイパーをさせるのか。悪い作戦ではないけど、それにはいくつか条件がある。
「敵のほうが高所からこちらを狙えます。ですから、鉄砲兵を守る必要があります」
「竹束を持たせた者を周囲に配置しろ。それらは全て時久が指揮するのだ」
「僕が……戦争では役立たずですよ」
「朝倉勢を壊滅においやり、当主義景を生け捕りにした者が何を言うか」
「それは森様、木下様、そして九郎さんたちの功績です」
「ならば、九郎に指揮をさせればよい。これまでと変わらぬわ」
結局、僕も前線に出なければいけなくなった。
石山本願寺は鉄砲を持っているから、どこで流れ弾に当たるか分からない。そんなところに出たくはないだんけど、信長様の命令では出ないわけにはいかない。
信長様の前を辞して、陣に戻る途中で久太郎さんに頼み事をした。
名人久太郎さんにがんばってもらい、僕は陣の中で九郎さんらに作戦を伝える。
「僕はいないものと思ってください。指揮は全て九郎さんにお任せします」
「相変わらず思いっきりがよいですな」
「何がですか?」
「配下の者に指揮を任せるにしても、大概は口出しするものです」
「冷静に指揮もできない僕が口出ししても、いいことはありませんよ。あと、九郎さんたちは、信長様の配下であり、僕の配下ではありませんからね。僕は同僚です」
「ハハハ。何を仰るか。時久殿は殿の軍師でございますぞ、軍師と言えば総大将に次いだ次席ではないですか。某などと同格などとは恐れ多いですぞ」
新参者の僕でもここまでリスペクトしてくれるとはね。九郎さんの懐は広いですね。
嫌々ながらも前線にきている。
久太郎さんに頼んだものは、できていた。徹夜で造ってくれたらしい。感謝です。
僕は高さ十メートルはある櫓を組んでもらった。これがあれば、狙撃もしやすいはずだ。
これを一晩で造ってくれた久太郎さんはやっぱり名人だ。
狙撃は久太郎さんに指揮してもらい、九郎さんたちにはこの櫓に攻め寄せるであろう敵を防いでもらう。
「それじゃあ、あとはお願いします」
「お任せあれ!」
「承知しました」
九郎さんと久太郎さんに丸投げ完了。僕は後方でいつでも逃げられるように……。ええ、分かってますよ。櫓のそばにいろってことですよね。はぁ……。
陣太鼓が鳴り、織田勢の本願寺攻めが始まった。
足軽たちが櫓を担いで狙撃できる場所へと押し出す。神輿風、移動式櫓です。
そこは流れ弾が飛んできてもおかしくない場所。危険な臭いがする場所だ。胃が痛くなってきた。早く帰りたい。
狙撃が始まった。本願寺勢の指揮官を狙撃で倒していく。
敵にも鉄砲があり、櫓を狙ってきている。
櫓の狙撃手がいる場所には、竹束で防御を固めている。狭間のように穴を開けて、そこから狙撃だ。
三十分くらいで何人もの指揮官を狙撃したけど、本願寺勢も櫓を狙って激しい銃撃が行われている。
久太郎さん、大丈夫かな……。
僕の心配をよそに、久太郎さんは戦場を的確に俯瞰し、どこの指揮官を狙うのがいいかと指示を出している。
「「「うおおおおおおお」」」
本願寺勢の門徒が押し寄せてきた。
「我らの腕の見せ所だ! かかれーっ!」
九郎さんの声が戦場に響き渡った。
そして真っ先に飛び出したのは、慶次郎さんだった。
大柄な慶次郎さんが先頭をいくことで、味方の足軽は勇気をもらえる。慶次郎さんのすぐ後ろには負けじと食らいつく猪右衛門さんの姿がある。
その間も狙撃は行われ、こちらを攻撃している門徒の指揮官が倒れていく。
中には木の盾で守っている指揮官もいる。死んだら極楽へいけるんだから、恐れる必要はないんじゃないのと言いたくなる。
「ぐあっ」
檜の上で指揮を執っていた久太郎さんの体がぐらついた。
敵の鉛玉が当たったみたいだ。
「久太郎さん!?」
「大丈夫です。兜に弾が掠っただけです」
兜にって、それは大丈夫なのか? 怪我してない? 本当に大丈夫?
「あそこだ、左の城壁の上にいるぞ!」
元気そうで何よりです。久太郎さんに倒れられたら困るので、本当にご自愛ください。
激しい攻防が続き、朝から始まった戦闘は夕方になっても終わらなかった。
ただ、全体的には織田軍が押していると思う。
特に指揮官を狙撃したのは、じわじわと効いているようで、時間経過と共に本願寺勢は統率がとれなくなっている感じがした。
組織だった防衛ができないと、いくら難攻不落の本願寺でも守るのは厳しいだろう。
それに、前線指揮官が不足したら、お偉いさんが前に出て指揮しなければいけなくなる。
ただし、これは織田軍にも言えることだ。
織田軍の前線指揮官を狙撃されたら、前線が崩壊しかねない。
僕の胃がキリキリ痛む。




