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第19話 志賀の陣はなかった!?

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 第19話 志賀の陣はなかった!?

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 九月十九日(続き)。

 比叡山延暦寺の僧兵は、粗方倒した。

 三千の僧兵のうち、生き残ったのは数百程度だろう。僧兵は殲滅すると信長様が言っていた。

 僕も政教分離は政治の基本だと思っている。完全にその関係を断ち切ることはできないが、兵士を保持していることで、寺は寺という聖域を放棄しているのだと思う。

 いくら読経をし修行したとしても、戦いを行うのはよくない。それは武力集団であり、テロリストなのだと感じるほどに質が悪いものだ。

 そして、酒や肉を食べるのは体のためなので許せるとして、平気で人殺しをする人を、僕は僧と認めない。


「追撃しますか」

「逃げ込んだ先を確認するだけにしてください」

「分かりました」


 久太郎さんが伝令を出して、僕の指示を徹底させる。

 無理に追撃して反撃されたら嫌だし、比叡山は信長様が焼くことになるから、その理由付けを手伝うだけでいい。


 さて、比叡山の僧兵は撤退したけど、朝倉軍は今も攻め続けている。

 森さんに伝令を出し、援軍が必要か確認した。


「坂本はしっかり支えるとのことにございます」


 伝令が帰ってきて、森さんの言葉を聞いた。


「いつでも援軍が出せるように、陣を築きます。九郎さん、お願いします」

「はっ」


 陣を築く場所は九郎さんに任せた。

 僕は現代のテントを設置して、雨風を凌げるようにした。

 このテントは僕の分だけじゃなく、百張りを設置して将兵を休ませている。

 テントの生地には、気球を作るために集めた丈夫な布を使っている。思わぬ流用を思いついた僕を褒めてほしい。もちろん、防水加工はしているよ。





 九月二十三日。

 陣を張って四日目になった。比叡山延暦寺の僧兵が、散々に蹴散らされたことで、朝倉軍は決め手にかけるようだ。この間、朝倉軍と森軍は小競り合い程度で大きな動きはない。

 兵力が互角で森さんがしっかり防御を固めているため、朝倉軍は攻めあぐね、少しづつだけど損害を大きくしている感じかな。


 頼みの僧兵が期待できないことで、朝倉は軍を退くか進むかで首脳陣が協議していることだろう。




 朝食に雑炊とたくあんを食べていると、ガチャガチャと具足を鳴らして九郎さんがテントに入ってきた。


 雑炊には卵を入れ、味噌の上澄み(醤油に似たもの)と塩で味付けをしている。

 玄米の雑炊だから硬いけど、なんとか食べられるレベルの味かな。


「啄木鳥が鳴きましてございます」

「いつ頃でしょうか」

「一刻ほど(のち)には」


 一刻は約二時間。

 啄木鳥が鳴いたと過去形で言っているのに、二時間後というのはおかしいと思うだろうけど、間違いではない。


「分かりました。準備をお願いします」

「はっ」


 僕は急がず焦らず、雑炊を食べ終えた。二時間もあるのだから、わざわざ急ぐ必要はない。


 朝食の後は、軽く体を動かしてその時を待つ。ふと空を見上げたら、雲が多い。雨が降りそうな嫌な黒い雲だ。

 雨が降ると改良してない鉄砲は使い物にならない。


 今の織田方の鉄砲の多くは、雨対策のされていないもの。できれば、雨は降らないでほしいものだ。


 ただでさえ重い具足を身につけているのに、雨まで振られたらと考えると本当に嫌になる。


「早く帰って、竹さんの料理が食べたい」

「そのためにも、この戦いを生き抜きましょう」


 僕の呟きに久太郎さんが応えた。

 そうですねと、心の中で答える。本当に死んだら終わりだから、生き抜いてみせる。


 喧騒が聞こえてきた。


「始まりました」


 防御を固めていた森さんが、攻めに転じた。

 今回、僕の提案で、山本勘助と馬場信房が立てた啄木鳥戦法を、この坂本でするつもりだ。

 もっとも、そのまま使うわけではなく、ちょっとアレンジを加えているけど。


 森さんが朝倉軍に攻めかかる。これは擬態で、無駄な被害を出さないように、敵を引きつければいい。

 とはいえ、戦は何が起こるか分からない。気を抜くことはできない。

 ジリジリとした胃の痛くなる時間が過ぎていき、開戦から二時間ほどでひと際大きな喧騒が聞こえてきた。


「木下殿が到着したようですな」


 朝倉軍は小谷城の抑えに、三千の兵が置いてあった。

 雨森清貞が朝倉を裏切り、その三千に攻撃をしかける。そしてそれに呼応して秀吉が動く。


 三千の朝倉勢は壊滅させる。ここで下手に残すと、後々邪魔をされかねないから徹底的に潰す。

 その後、船で朝倉本隊の後方に上陸し、攻撃を仕かけるという至ってシンプルな作戦なんだけどね。


 朝倉軍は前後から挟撃されることになり、混乱したようだ。

 ここに朝倉宗滴がいたら、このくらいの劣勢をひっくり返すかもしれないけど、もう亡くなっている人だから安心だ。


 今の朝倉家にこの劣勢を覆すことができる人材はいない。個人の武では真柄直隆のような豪勇の士もいるだろうが、個人の武では対局をひっくり返すには至らない。

 だが、油断はできない。それで朝倉軍と引き分ける程度ならまだいいが、負けてしまってはシャレにならない。


 油断せずに戦況を見守っていると、挟撃された朝倉軍は散々に打ちのめされ降伏した。





 宇佐山城で面会した森さんと秀吉は、当主朝倉義景と主だった家臣らを捕縛したことでホクホク顔だった。


「森様、木下様。大勝利、おめでとうございます」

「何を言うか、これも軍師殿が比叡山を打ち払い、作戦を立ててくださったおかげだ。感謝するぞ」


 森さんが僕を軍師と呼んだ。なんか気恥ずかしい。


「左様、左様。この大勝利は軍師殿あってのことだてぇ、感謝しているだがね」


 秀吉が相変わらず人を食ったような笑みを浮かべる。どうしても胡散臭い笑みに見えてしまうけど、僕の先入観がそうさせるのだろうか。


「いえいえ、これも森様と木下様の素晴らしい働きがあったればこそです」


 三人で謙遜し合い、酒を飲んでその日は終えた。

 さすがに飲み潰れるほどは飲まない。大勝利にうかれて、足元を掬われたら目も当てられないからね。


 しかし、これで志賀の陣はなくなった!

 信長様は腰を据えて、本願寺と三好三人衆に対峙できる。

 しかし、歴史が大きく変わってしまったから、ドンドン僕の知識が役に立たなくなってしまう。これからどうなるのか、それが気になってしまう。



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