第18話 比叡山動く
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第18話 比叡山動く
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九月十六日。
森さんは坂本を封鎖し、朝倉軍を迎え撃つ構えだ。
元々宇佐山城には三千の兵が詰めており、史実よりも数は多い。そこに信長様の弟の信治さん、近江国衆の青地茂綱さんなどが兵四千を率いて合流。この合流は史実よりも早い。
さらに、続々と近江国衆が宇佐山城と坂本に終結し、一万五千にまで膨れ上がった。
史実とは明らかに違う兵力を、森さんが指揮する。
まさか朝倉軍とほぼ互角の数を用意するとは思っていなかった。さすがは信長様だ。
僕たちは勝軍山城から動かない。それが信長様の命令だから。
九月十七日。
朝倉軍の進軍ルートに伏兵を配した森さんが、奇襲をしかけた。
朝倉軍はかなり多くの被害を出して、堅田まで後退した。
森さんは無理な追撃はせず、坂本をしっかり閉鎖して迎え撃つ構えを見せている。
九月十八日。
朝倉軍は各隊を再編成し、再び坂本へと進軍した。
森さんは一歩も引くことなく、睨み合った。兵数はまだ朝倉軍が勝っているけど、ほぼ互角。
朝倉軍を率いているのは、当主の朝倉義景。史実では、大名の朝倉氏最後の当主になる人だ。
僕が持つイメージでは、文化面で公家らを庇護するなど、越前の発展に大きく寄与している。
ただし、戦は大して強くない。優柔不断なところがあり、戦国大名家の当主としては二流半から三流といったところか。
太平の世なら、いい君主になったかもしれない人だ。
朝倉義景の不幸は朝倉宗滴という人物がいたことだろう。宗滴がスーパーマン過ぎて、戦のことは全て宗滴任せ。なんでも宗滴に言えば解決してしまうから、自身が成長できなかった。
宗滴の唯一の欠点は、強すぎたことかな。そのため後継者が育たなかった。そして死んだ。人間は誰でも死ぬ。宗滴はそれを知っていても、天才肌だったことで後継者が残せなかった。
誰も宗滴のようには動けない。それが理解できなかったのかもしれない。
それが最終的に越前朝倉氏を滅亡に追いやることになった。あくまでも僕の私見だから、他の見方をする人も多いことだろう。
九月十九日。
比叡山の僧に動きが見られた。
「里坊にて多くの飯を炊く煙が上がっております」
里坊というのは、本来は年老いた僧が余生を送る場所だけど、今はその目的以外のことに使われている。簡単に言うと、破戒僧たちの溜まり場だね。なんだかヤンキーの溜まり場のような感じだが、人殺しをする集団だからヤンキーより性質が悪い。
「時久様の仰るように、動く前に大量の飯を炊く煙が上りましたな」
九郎さんが感心した面持ちで、頷いている。
それ、第四次川中島の戦いで、上杉謙信が武田軍の海津城からの炊煙が多く立ち上るのを見て啄木鳥戦法を見破ってみせた。のパクリです。すみません。
「森殿も比叡山の僧兵を警戒する配置をされておりますが、我らも動きますか」
「はい。動きます。僕たちは僧兵を後方から襲撃、これを撃滅させます。出陣の用意を」
「「「「はっ!」」」」
実を言うと、この勝軍山城にいる兵は、今では四千になっている。僕が入城した時は二千人だったけど、毎日少しずつ兵を入れていった結果、四千になった。
わざわざ少しずつ増やしたのは、敵にそれを知られないためらしい。
敵の警戒心を強めないという理由かな? 信長様の指示だから、森さんも秀吉も同じようなことをしている。
おかげで何も知らない朝倉軍が進軍してきた。何もかも信長様の思惑通りに、今のところ動いている。
僕も具足をつける。相変わらず重い。もっと軽い具足はないのかな。特にこの前立ては、本当に重い。
不満に思っていると、僧兵が動いたと報告があった。
本当は勝軍山城で留守番をしていたいけど、そういうわけにはいかない。九郎さんがすっごい目で睨んでくるんだ。怖くて縮み上がってしまうよ。
「えーっと、この戦いは勝ちますから、無理をしないようにがんばってください」
兵士に向けて演説。
久太郎さんがやれと言ったからやったのに、そんな目で見ないでよ。
「もう少し威厳というものを出していただけると、ありがたいのですが……」
それは無理というものです。僕に威厳などありませんから。
久太郎さんたちの大きなため息を聞き、僕もため息を吐く。
僕たちは速やかに勝軍山城を出て、坂本へと向かった。
勝軍山城から坂本へは、早足の速度で向かう。全力で走れば、それこそ一時間もかからない距離だけど、それでは兵が疲れて使い物にならなくなる。
この日のために道の整備をしておいてよかった。
皆は敵の進軍速度が速くなると否定的だったけど、今回はどれだけ早く援軍に駆けつけられるかが勝負なので、整備してもらった。
おかげで勝軍山城から宇佐山城まで本当に早く進むことができた。
「いました。延暦寺の僧兵です」
僧兵が織田方に襲いかかっているところを、九郎さんが指差した。
「九郎さんに指揮権を移譲します」
「はっ! お任せください!」
九郎さんが槍を掲げる。
「我らの味方が襲われておる! 一気に僧兵を蹴散らしてやろうぞ! かかれーっ!」
「「「おおおっ!」」」
交野隊が僧兵に向かって怒涛の突撃。
その先頭には前田慶次郎と山内猪右衛門の姿があった。
二人が前線指揮官として、兵を引っ張っていく。とても頼もしい二人だ。
今回はライフリング鉄砲の出番はないかもしれない。だけど、持って来た。二十人のライフリング鉄砲隊は、鉄砲の腕がいい人たちを選りすぐって組織した。
その内の五人は、三町離れた場所の人間の眉間を撃ち抜くだけの技量がある。
僕は特別にその五人を狙撃兵と称し、側近にして重用している。
交野隊の突撃を受けた僧兵が崩れた。
それまで僧兵と戦って押されていた後藤高治隊が、態勢を立て直し僧兵へ攻勢に出た。
僧兵はおよそ三千人いたけど、どんどん討ち取られていく。
半分くらいになったところで逃げようとしたが、山内猪右衛門さんが上手いこと回り込んで数を削っていく。
「山内殿は前田殿のような派手さはないですが、堅実な動きをされる」
久太郎さんが猪右衛門さんを褒めた。
僕もそう思うから、信長様に褒美をはずんでくださいと頼むとしよう。
僕は一万五千貫の禄をはんでいるけど、与力の皆の給料は信長様が出している。
与力への褒美も信長様から出ることになっているし、僕が行っている鉄砲の改善やその他のことにかかる費用も信長様持ちだ。
おかげで僕は一万五千貫を自分のことに使えるのだけど、勝軍山城からほとんど出ないから全然使ってない。
いつか、大きな買い物をしてやるぞ!




