第16話 おねだりしてみた
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第16話 おねだりしてみた
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気球を作りたい。
気球を作るには、布が問題だ。目が粗いものでは、中の温かい空気が抜けやすい。
そしてバーナーをどうすればいいのか?
木炭を使うか。それとも石炭がいいかな……。ああ、そうだ。静岡や新潟に石油があったね。どちらも信長様の支配地域ではないから、入手はむずかしいか。
でも、静岡のほうなら遠江なので、徳川家康に言えば手にはいるか?
「久太郎さん。丈夫で目の細かい布を調達できませんか?」
久太郎さんは一瞬考え、僕の目を真っすぐ見た。
「某に心当たりはありませんので、宗易殿に確認してみます」
「はい。お願いします」
あ、そうだ。ついでにあれも造ろう。
「あと、木節粘土と蛙目粘土、それと蝋石が欲しいです。木節粘土と蛙目粘土は信長様の領内で手に入ると思いますが、蝋石は備前で採掘できるはずです」
「木節粘土と蛙目粘土と蝋石ですね。確認させます」
うん。できる秘書官って感じで助かります。
でも、できれば綺麗なお姉さんが良かった。
「何か?」
「あ、いえ、なんでもないです」
おかしいな、信長様といい、久太郎さんといい、なんで僕の心の声が分かるのかな?
「言っておきますが、時久様はブツブツ言ってますからね。耳の良い殿はそれを聞いているだけです」
「マジっすか……?」
「まじというのが、どういう意味か分かりませんが、本当のことです」
はう……。心の声を自分で洩らしていたのか。反省しないと。
今頼んだ木節粘土と蛙目粘土と蝋石は、耐火煉瓦の材料ですね。
今すぐではなくても高炉を造りたいから、耐火煉瓦の準備をしておこうと思ったんだ。
あと、水力発電もしたい。水力発電は、それほど難しい構造ではない。ただし、それなりの設備投資は覚悟しないといけない。
電気が発電できれば、色々なことができるからね。
「あとは……汞も欲しいです。これは、取り扱いに注意が必要です。多分ですが、大和にあると思います」
「はい。確認しておきます」
汞は水銀のこと。つまり灰吹法で銅などの地金から、金銀を抽出しようと思っている。この時代の錬金術ですよ。ハハハ。
「それから水晶を入手できますかね。信濃や美濃にあったと思いますが、できるだけ透明度の高いものをお願いします」
久太郎さんはスラスラと紙に書いていく。
今回の水晶はガラスの代用品だ。望遠鏡や鉄砲のスコープを作りたいから、削ってレンズにしたいと思っている。
水晶を削る職人も頼んだほうがいいのかな? 一応、頼んでおくか。
「水晶を加工する職人も手配できれば助かるのですが」
「承知しました」
思いついたらその都度頼んでいるから、何を頼んだか覚えておくのが大変だ。僕もメモしておこう。
「うーん……あとはトロナ鉱石を入手できますかね。これは国内にはないので、明から交易で取り寄せることになるかと」
「明の交易品にございますか……宗易殿にこれも相談してみましょう」
トロナ鉱石からは重曹が作れる。これはガラスや石鹸の材料になるから、欲しい。まあ、重曹は他の作り方もしっているので、とりあえずそっちを試すとするか。
とりあえず、これくらいかな。
「では、ただちに手配します。ただ、すぐには手に入らないかもしれません」
「入手できたらで、いいです。よろしくお願いします」
すぐに手に入るとは限らない。それにこの時代では呼ばれ方が違っているかもしれないから、通じないかも。
手に入ったら儲けもの。そんな感じで気長に待っていますから。
九月十二日。
僕の部屋に、久太郎さん、九郎さん、慶次郎さん、猪右衛門さん、久蔵さんが集まった。
「本願寺顕如めが、動き出しましてございます」
九郎さんがそう言うと、書状を差し出してきた。
それは本願寺顕如が雨森清貞に宛てたもので、織田信長に対して蜂起しようという内容のものだった。
「雨森弥兵衛尉殿がこちらについたことを知らず、書状を送ったようですな。雨森殿が本願寺の動きを知らせてくれましたわ」
九郎さんがニカッと歯を見せて笑う。
雨森清貞は徹底抗戦の構えだったようだけど、浅井長政の遺児万福丸の後見役に指名されて信長様に降伏した。
だけど、雨森清貞の降伏は伏せられている。要は反織田の体をとっているように見せているのだ。
それは本願寺や浅倉、そして比叡山の動きを探るためだったけど、その甲斐あって本願寺顕如が織田に対して攻勢に出るというのが分かった。
こういったことは、秀吉がやっている。
信長様は秀吉黒幕説や、信長様亡き後に織田家を臣下に従えた不忠者だと聞いても、秀吉を使い続けている。
僕なら決して使わないし、仮に使うにしても後方支援などに回してあまり手柄を立てさせないようにするところだ。ただ、信長様にそのような気はないようだ。度量が大きい人だよ。
あと、近江の旗振り役は家老格の森可成がしている。
森可成が窓口になり、僕のところには森さん経由で情報がくる。
僕が秀吉を嫌っていることから、直接のやりとりがないようにしてくれている。信長様って、何気に配慮の人だよね。
その配慮が、皆にできたら光秀の謀反も起こらないかも。そうなってほしいな。
何はともあれ、朝倉と比叡山にも同じような書状が出ているはず。すぐにでも朝倉の二万の軍勢が近江にやってくるはずだ。多分。
「森さんは信長様に報告をしたかな?」
「はい。すでに伝令が出ております」
それならいい。
「小谷城が織田に押さえられたから、朝倉軍は若狭からくる可能性がありますね」
「はい。甲賀の忍が朝倉の動きを探っておりますので、進軍経路が分かればすぐに対処できるかと」
僕の確認に、久太郎さんが応えてくれた。名人久太郎と言われるだけあって、卒がない。
会議の後、久太郎さんに残ってもらった。
「久太郎さんの伯父さんはたしか本願寺の僧でしたよね。大丈夫ですか?」
「伯父はすでに鬼籍に入っておりますし、某も従兄弟の監物も本願寺だからといって手心を加えることはありませぬ」
久太郎さんの伯父さんは一向宗の僧で、従兄弟の堀直政さんと共にその伯父さんに養育されていた。
どうやらその伯父さんはすでに亡くなっているようだけど、宗教が絡むと主家でも剣を向けるようになるからね。
徳川家康はそれでとても苦労した。主だった家臣が離反して、戦う羽目になったんだ。
そうならないなら、僕が何か言うことはない。




