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第15話 鉄砲の改良

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 015_鉄砲の改良

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 八月二十五日。

 信長様が岐阜から京に入られた。

 幕府軍は摂津、丹波、播磨、和泉、河内、大和の兵を集めて四万になっている。

 そこに信長様は五千の兵を率いてやってきた。多いのか少ないのか分からないけど、これでいいと判断されたのだと思う。

 京で二日の休養を取り、信長様は三好三人衆を倒すべく出陣された。




 九月三日。

 将軍義昭が幕府軍二千を率いて摂津の中嶋城へ入った。戦いには参戦しないが、軍を指揮したという実績作りの行動なのは誰の目にも明らかだ。

 三好三人衆が立て籠もる野田城・福島城は中州にあって、攻めるのが難しい城。

 しかも、その近くには石山本願寺がある。この石山本願寺が曲者で、信者をゾンビ兵のように使い潰す悪魔の宗教だ。この石山本願寺のおかげで、戦いは長引くことになる。


 信長様は野田城・福島城の対岸に、砦を築いた。

 長丁場が予想できる動きになっているところが、気になる。





 九月七日。

 僕は鼻歌を奏でながら、同田貫の手入れをしている。

 備前物にくらべると、太い。だけど、この無骨さがいい。同田貫の身に映る世界が僕を引き込むようだ。


 信長様たちは敵と睨み合っている最中だけど、僕はそれを考えないようにしている。

 もう少しで志賀の陣が始まる。それまでは、何も考えずに楽しいことを考えることにしたんだ。


「時久様」

「なんでしょうか」

「職人が目通りを願っております」

「すぐにいくよ」


 久太郎さんと久蔵さんが僕のそばで取次役みたいなことをしている。今は久太郎さんが取次いでくれた。

 同田貫を鞘に納め、備前物と交換して腰に挿して部屋を出た。もうすぐここから見える景色が、秋色になる。それを楽しみにしている僕がいる。


 工房は重要施設ということもあり、勝軍山城のかなり奥にある。

 その分、僕が日頃過ごしている場所に近い。


「わざわざお越しいただいて申しわけなく存じます」

「そういうのは大丈夫です。僕が無理を言って苦労をかけているのだから、いつでも呼んでください」

「時久様。そこは威厳を出してください」


 久太郎さんに駄目出しされたけど、そんなこと簡単にはできない。笑って誤魔化そう。


「こちらをご確認していただきたく」


 笑って誤魔化したら、職人さんが話を進めてくれた。そういう気遣い、助かります。

 その職人さんから受け取ったのは、円筒。そう、鉄砲の砲身の部分だ。

 中を覗くと四本の筋が入っている。


「成功したの!?」

「まだ四本しか切れませんが、時間をいただければ、もっと本数を増やしてみせます!」


 いやいや、四本あればとりあえず十分だよ。

 しかしこんなに早くライフリングを切ってくれるとは思わなかった。嬉しい誤算だよ。


「うん、うん。その調子でお願いします! ちなみに弾のほうはどうですか?」

「こんな球でよろしいでしょうか」


 先端が丸い形状で、胴体が円筒状の弾丸だ。


「丸いものとこれでは、やっぱりこっちのほうが造るの大変ですか?」

「そうでもないです。丸を綺麗に揃えるのは結構大変ですから。少しだけ手間がかかるくらいです」


 少しという感覚は人によって違うけど、その言葉を信じましょう。


「それじゃあ、このライフリングが切られた鉄砲と以前の鉄砲を使って試射をしたいと思います。組み立ててもらえますか」

「はっ。すぐに組み立てます」


 久太郎さんに試射の準備をしてもらっている間に、職人はライフリング砲身を組み立ててくれた。

 今回の試射でいくつか確認する


 ・通常鉄砲 + 通常弾

 ・通常鉄砲 + 円筒弾

 ・ライフリング鉄砲 + 通常弾

 ・ライフリング鉄砲 + 円筒弾

 ・ライフリング鉄砲 + 火薬一体型円筒弾(雨天用試作)


「まずは通常鉄砲と通常弾を使った試射になります」


 久太郎さんが試射の指揮を執り、僕は頷いた。


「放て!」


 ダンッ。

 およそ一町半(約百六十メートル)離れた場所の竹束に弾がめり込んだ。竹束は貫通していない。これは予想の範疇。


「今度は具足に」


 通常鉄砲と通常弾の組み合わせで、具足を撃つ。傷はついたけどこちらはめり込みもしていない。当然ながら、貫通もしていない。


「通常鉄砲と円筒弾の試射になります」


 頷くと発砲。

 竹束にめり込んだけど、これも貫通していない。


「同じく具足に」


 具足にも発砲したが、貫通していない。傷は通常弾よりやや大きいかな? その程度の差。


「ライフリング鉄砲と通常弾になります」


 竹束を貫通したが、二層目で止まっている。完全な貫通にはなっていない。


「具足に放ちます」


 具足にはめり込んだが、貫通まではいかなかった。ただ、かなり凹んでいた。


「ライフリング鉄砲と円筒弾になります」


 竹束を貫通。二層目も貫通している。いいね!

 皆から歓喜の声があがる。


「具足に」


 具足も貫通した。

 また歓喜の声があがる。


「ライフリングの鉄砲を四回発砲したけど、砲身の状態はどう?」

ゆがみもヒビもなく、問題はありません」


 職人たちに確認してもらい、太鼓判をもらう。


「次はライフリング鉄砲と、雨天用の火薬一体型円筒弾になります」


 火薬一体型円筒弾は、油紙に火薬を詰め、それを円筒弾のお尻側に接着させたものになる。

 これなら多少の雨くらいで火薬は濡れないし、装弾も簡単でかなり速くなる。

 すでに油紙で包む雨対策は一定の成果を上げているけど、今回は弾頭と火薬を一体型にしたものの試射になる。

 雨天用なので当然ながら鉄砲に水をかける。

 火縄の材質を綿に変え、にかわと樹脂でコーティングしてあるため、多少のことでは火は消えない。


「放て!」


 ダンッ。

 結構な水をかけたけど、問題なく発砲できた。

 威力は変りなく、具足を貫通してくれた。


「砲身内のゴミの状態は?」

「油紙の燃えカスが見えますが、清掃しやすいように改良されていますので、すぐに使えます」

「歪やヒビは?」

「問題ありません」


 ライフリングの砲身は、五回の試射に耐えた。

 今後はどれだけの耐久性があるか、調べてもらう。


「当面、ライフリングは四本で構いません。十挺造って耐久性を確認してください」

「承知しやした」


 職人の力強い返事に、僕の目尻が下がるのを感じた。

 本当は火縄を使わないフリントロック式にしたいけど、なんでもかんでも一気にできるものではない。弾丸も造るのに時間がかかるので、まずはライフリングだ。

 それに鉄砲だけじゃなく他の武器を開発しているから、職人たちはとにかく忙しいんだ。あまり無理は言えない。





 それから造られた十挺のライフリング砲身の耐久性を確認してもらった結果、早いもので十二発、遅いものでも十五発で何かしらの問題が確認された。

 ライフリングが四本でこれだから、もっと多くのライフリングが切られたらもっと強度が落ちる可能性がある。

 砲身の材質を変えると、またライフリングしにくくなるだろう。でも、安全は何よりも優先されるから、ここは妥協してはいけないところだ。



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