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第12話 狼煙は上がった

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 第12話 狼煙は上がった

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 姉川の戦いは激戦だった。

 徳川の死者は七百人。

 その徳川と戦った朝倉は死者一千二百人。

 織田の死者は一千人。

 そして浅井の死者はなんと二千人にも及び、多くの兵が死んだ。

 織田では木下隊の被害が一番大きかったけど、その相手があの遠藤直経なのだから納得の結果なのかもしれない。

 直経は浅井長政を支えた猛将で知られる。長政にとっては側近であり、最強の前線指揮官だったはずだ。その直経と戦ったのだから、よく持ちこたえたものだ。それだけ秀吉と竹中半兵衛コンビの指揮能力が高かったのだろう。


 信長様は横山城に入り、その後の細かな指示を出した。

「サル。貴様は横山城にとどまり、浅井家臣団の調略だ」

「お任せください!」

 木下秀吉は横山城に残ることになった。

 ここまでの調略も、秀吉がやってきたのだろう。それを継続させるだけなのかもしれない。


 浅井は当主の長政を失った。

 浅井久政を復権させるか、長政の嫡子の万福丸を当主にするか、それともこのまま浅井家を潰すのか。そして織田との関係をどうするか。

 一番のネックは信長様の妹のお市様だ。今は浅井家の小谷城にいるから、人質のようなものだ。

 今回、浅井家臣団の半数は織田方についた。今後、浅井家が独自で立つのは難しいはず。朝倉に臣従して家を保つのか、織田に降るのか。選択肢は多くないはずだ。


 さて、この後の諸侯の動きはどうなるのか。

 僕が役立たずになってしまうのはいい。この世界では、僕は異端。歴史が変わってしまった以上、どこかでひっそり暮らせたらと思う。殺されなければ、多少のことは我慢するよ。

 本当は元の世界に帰りたい。でも、どう考えても帰る手段が分からない。

 あの信長の隠れ岩でもう一度転んだらいいのか……。さっぱりだ。


「時久。五千貫の加増をする」

「ありがとうございます」

「お主には、予定通り勝軍山城に入ってもらう」

「あの……僕では役にたちませんよ。本当に」

「遠藤と今村を討ち取った」

「それは慶次郎さんと久太郎さんです。僕は何もしてません」

「磯野を退けた」

「それは西美濃三人衆の援軍のおかげです」

「自信を持て」

 自信……か。そんなものを持てることなんて、あるのだろうか? もし持てたとして、いつのことだろう……。


「儂は岐阜に帰り、今後に備える。時久は勝軍山城で備えよ。必要なものがあれば、久太郎に言え」

 信長様の部屋を辞し、僕は久太郎と合流。


 二人で廊下を歩いていると、角から人影が出てきた。

「おおお、軍師様! 今回は大変助かったがね!」

 秀吉だった。とぼけた表情の秀吉は、僕の両手をとってブンブンと振った。


「いやー、もう死ぬかと思ったから、九死に一生を得るとはこのことだがね」

「木下様には援軍など必要なかったはずです。手柄を横取りしてしまったようで、申しわけありません」

「何を言うだがね、わしゃ、感謝しているんだでよ」

 そう言いながらも、秀吉の目は笑ってない。僕は先ほどから悪寒のようなものを感じている。この人、やっぱり腹の中はかなり黒い人だと思う。

 僕のところの慶次郎さんと久太郎さんが手柄を立ててしまったので、秀吉は腹の中ではとても怒っているはず。できれば慶次郎さんと前田利家繋がりで水に流してほしい。殺される対象になるのは嫌だ。


「木下殿。軍師様はお疲れのご様子。今日はこの辺で」

「おお、そうだったかね。今度ゆっくり酒を飲むだがね」

 小柄でとぼけた顔で人当たりはいい人だけど、油断ならない人だと思った。


「やっぱり秀吉は嫌いだな」

「時久様。どこに耳があるか分かりませんので」

「……はい」

 久太郎さんに窘められ、僕は口を噤んだ。





 翌日、僕たちは信長様の本隊と別れて勝軍山城に向かった。

 それと配下の足軽の再編があり、僕の配下は一千人になっていた。

 信長様は勝軍山城を改修していると言っていた。

 一千人を収容し、さらに防衛がしやすくなっているのかな。




 勝軍山城に到着した僕は、部屋で疲れを癒したかった。でも、この勝軍山城が攻められた時のために、じっとはしていられなかった。

 慶次郎さんと久蔵さんを伴って、城の周辺を歩いて回った。

 山城だから、城を見て歩くのが大変だ。それでも歩いて、自分の目で見て回った。

 どこが攻めやすそうか、どこが脆そうか、どこが守りにくそうか、そして逃げるならどこがいいか。逃げるルートの確保が一番大事だから、しっかりチェックした。

 二カ所気になる場所があったので、久太郎さんに改修をお願いする。素人の僕でも気になったのだから、改修しておくべきだ。

 僕が歩き回っている間は、九郎さんと猪右衛門さんは兵士たちの訓練をしてくれている。一千人の兵と元々勝軍山城にいて改修などを進めていた一千の兵、合わせて二千の兵が訓練をしている。

 そんな感じで数日を過ごし、六月もあと数日で終わりと言う時にそれはもたらされた。


「時久様。摂津に異変が起きました」

「池田城ですね」

「はっ。池田備後守と荒木信濃守が池田城主の池田民部少輔殿を追放しました」

 池田備後守は池田知正。池田民部少輔の弟だ。

 荒木信濃守は荒木村重。戦国の歴史好きなら誰でも知っている有名人だと思う。

 池田民部少輔は池田勝正。三人いる摂津守護の一人。


 僕が知っている歴史と変わらない出来事が発生した。まだ僕の知る歴史と大きな差はないようだ。

 この後に信長様が大軍を率いて、三好三人衆・朝倉・浅井・六角・石山本願寺らと戦うことになる。野田城・福島城の戦いから志賀の陣、そして長島一向一揆まで、かなりハードなスケジュールになっている。


 ただ、今回は六角はいないし、浅井はすぐに再起できないだろう。

 姉川の戦いで当主長政が討ち死にした浅井家は、嫡子の万福丸が継いだと聞いた。ただ、後見として長政の父である久政が出てきた。

 久政は昔六角に従属することを決めた、長い物には巻かれろタイプの武将だ。もしかしたら、信長様に降伏したりして。そんなわけないか。

 信長様も降伏されては、万福丸を殺すことはできないはず。できれば、降伏して子供を生かしてほしいところだ。


「岐阜には?」

「すでに伝令が向かっております」

 信長様はここからどう動くのか。


 野田城・福島城の戦い + 志賀の陣 + 長島一向一揆


 これ、結構ハードモード。おかげで朝廷を動かすことになるのだけど、信長様はその歴史を僕から聞いて知っている。

「幕府側の動きは?」

「和田紀伊守殿、伊丹大和守殿、細川典厩殿が鎮圧に動いております」


 和田紀伊守は和田惟政、伊丹大和守は伊丹親興、細川典厩は細川藤賢。この三人は摂津三守護として、摂津を分割統治している。

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