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第11話 姉川の戦いの終わり

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 第11話 姉川の戦いの終わり

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 僕たちは北側から姉川を渡り、進軍した。

 梅雨の時期なのに、ここ最近は雨が降っていない。おかげで姉川の水位が低くて助かった。


 この姉川の戦いは、織田と浅井では「野村合戦」と言われている。それは姉川の北側にある野村という地で両陣営が激しく戦ったからだ。

 この戦いを「姉川の戦い」として伝えたのは、徳川になる。一番最後に天下を取った徳川が伝えたことが、歴史としてスタンダードになるからだと思われる。


 僕たちは七尾山の麓を進み、浅井軍の横に出た。

 戦場が近くなってくると、嫌な音が聞こえてくる。気が重い。

「それでは、ここからは某が指揮を執ります」

「はい。お任せします」

 九郎さんに指揮権を移譲。

 九郎さんは槍を掲げ、足軽たちに前進を指示した。その最前列には慶次郎と伊右衛門がいて、兵を先導していく。


 慶次郎の馬はあの巨躯を乗せるには小さい。慶次郎が担いで走ったほうが速いんじゃないかな。

 僕も馬に乗っているけど、どの馬もポニーより少し大きいくらいの小型のものだ。海外から馬を輸入することを信長様に進言しようかな。


 しかし、慶次郎はなんで笑っているのだろうか。何がそんなに楽しいのか。あれがバトルジャンキーというものなのだろうか。僕には理解できない。


 僕というか、九郎さんが指揮する兵力はおよそ八百。僕のようなぽっと出の怪しい人に与える兵数としては、多いと思う。実際には連枝衆の九郎さんが指揮しているから、問題はないのかな。そんなことを考えつつ、足軽隊の後ろについていく。

 九郎さんは僕より少し前で全体の指揮を執っている。僕のそばには久蔵さんと足軽が十人くらいいるだけだ。


「遠藤隊に横槍を入れられたようです」

 久蔵さんは僕よりも戦場が見えている。すでに初陣を済ませているようだし、僕よりよっぽど落ちついている。その落ちつきが僕も欲しい。


 遠藤直経の部隊に横槍を入れて、十分もすると遠藤隊が崩れた。それを見た木下隊が勢いづき、交野隊と共に遠藤隊を追い込んでいく。

 遠藤直経はなんとか立て直そうと試みたが、なかなか思うようにいかないようだ。それでもよく持ちこたえていると思う。長政を支える猛将は、伊達ではない。


 足利義昭を奉じた織田信長を、遠藤直経は毒殺しようとした、と歴史では伝わっている。それは浅井親子の許可が得られなかったため、実行に移されていない。

 ただ、遠藤直経は最初から織田信長を危険視していたと言えるだろう。もしかしたら長政が謀反したのは、遠藤直経の影響が大きいのかもしれない。

 長政にしてみれば、遠藤直経は自分を支える重臣だ。六角の人質だった頃から支えてくれた側近だ。朝倉攻めで他の重臣も織田信長に大きな不信感を持ったところに、遠藤直経が強弁したら長政も「うん」と言わざるを得ないだろう。


 とにかく、このまま木下隊が遠藤直経を追い込み、討ち取るなり捕縛するなり後退させれば僕の安全は確保できそうだ。そう思っていたその時だった。

 北側から大地を揺らすような鬨の声が聞こえた。どうやら森可成隊が、浅井本陣に突撃したようだ。

 浅井方はすでに遠藤隊が崩壊に近い状態で、浅井政澄隊も柴田勝家さんに押されているし、他の部隊も軒並み織田勢が優勢だ。

 そこに浅井本陣へ森可成さんが突撃したとなれば、趨勢は決したな。

 よし、僕はゆっくり進んで目立たないようにしよう。


「遠藤喜右衛門殿、討ち取ったりっ!」

「「「わーーーっ」」」

 おっと遠藤直経が討ち取られたようだ。竹中半兵衛の弟の重矩が討ち取ったのかな。おめでとう重矩さん。ん……?

「時久様。慶次郎殿が遠藤殿を討ち取ったようです」

「はい?」

 久蔵さんは何を言っているのかな? 前田の慶次郎さんが、遠藤直経を討ち取ったら駄目でしょ。そんなことしたら、歴史が変わってしまう。

 って、六角親子が死んでいる今となっては、歴史はかなり変わってしまっているけど……。


 それでいいのか、前田慶次郎!


 姉川の戦いも大詰め。そこで僕は思い出してしまった。

 磯野員昌はどこだ? 磯野員昌は織田信長の陣に攻撃をしかけ、かなり押し込んだはず。その磯野員昌がいない? そんなわけない。

「久蔵さん。磯野員昌はどこですか」

「ここからは見えませんが」

「……すぐに九郎さんに引き返すように伝令を」

 遠藤直経の部隊は木下隊に任せればいい。今は磯野員昌に備えるべきだ。


「まさか磯野隊が奇襲をしかけてくると仰るのですか」

「分かりません。分かりませんが、嫌な感じがします」

 久蔵さんはすぐに伝令を出してくれた。

 九郎さんが隊をまとめ、僕のところに集結してくれた。


「すぐに本陣に戻ります」

 僕の強張った声に、九郎さんは何も言わず従ってくれた。そして僕たちが姉川を渡った直後だった。西側で姉川を渡る敵部隊が見えた。


「三つ盛り亀甲花角と笹竜胆の旗印にございます!」

 三つ盛り亀甲花角は浅井家の、笹竜胆は磯野家の家紋。

「急いであの部隊に攻撃を。完全に姉川を渡らせてはいけません!」

「はっ!」

 九郎さんが磯野隊に突撃を命じた。

「突っ込め! 川を渡らせるな!」

「「「おおお!」」」

 磯野隊はこれまでの戦いでそれなりに消耗していた。それでも精強な磯野隊は、交野隊の横槍を冷静に受けた。


「敵を本陣に向かわせてはいけない!」

 つい大声をあげてしまった。

 激戦。磯野隊は強すぎる。

 慶次郎さんが敵中で孤軍奮戦している。なんて頼もしい姿なのか。


 磯野隊は凄く奮戦したが、西美濃の稲葉一鉄、氏家卜全、安藤守就たちが参戦し、息切れを起こした。ここからは形勢は一気に織田方に傾いた。

「助かった~」

 まだ安心してはいけないのだけど、一気に体から力が抜けたいった。


 浅井方は総崩れになり、多くの戦死者を出しながら三々五々で逃げ出した。

 よく分からないうちに、慶次郎さんが遠藤直経を討ち取ったけど、なんと猪右衛門さんも今村氏直を討ち取っている。

 なんで猪右衛門さんまでと思ったけど、考えないことにした。考えたら負けだ。


「あ、怪我をした人の傷口に馬の糞とか尿を塗らないでくださいね。それ、逆に怪我が悪化しますから」

「そ、そうなのですか?」

 僕のそばに戻ってきた九郎さんにそう頼んだ。

 ちょっとの切り傷が破風症になり、死んでしまったなんて悲しすぎるからね。

 酒粕を蒸留してもアルコールを得られるはずだから、蒸留器を作ってもらおうかな。それで消毒くらいはできるはずだ。


 僕は信長様の陣に戻った。

 僕の配下は磯野隊との激戦で百人もの人が死んだ……。

 僕の判断が百人の味方を殺してしまった。そのことに心が押し潰されそうだ。


「やるではないか、時久」

「僕は何もしてないです……」

「で、あるか」

 信長様はむすっとしているように見えるけど、上機嫌だ。最近、それが分かるようになってきた。


「横山の三田村国定、野村直隆、大野木秀俊がこちらに寝返っているとも知らず、長政め小谷城を出てきおったわ」

 信長様は高らかと笑う。

 横山城の主将である三田村国定、野村直隆、大野木秀俊は、すでに信長様に降伏していた。この三人がまだ降伏してないから、横山城の押さえの兵士を置かなければいけない。そう浅井長政に思わせておびき出したのだ。


 続々と報告が上ってくる。

 そしてこの日一番の報告がもたらされた。

「申しあげます。森可成様、浅井長政殿を討ち取ってございまする」

「三左衛門め、やりおったわ!」

 信長様が立ち上がって喜びを表した。まさか浅井長政が討ち取られるとは思わなかった。

 この事実は今後に大きく影響するはずだ。これで僕の知識は役に立たなくなる。

 僕はこれからどうなるのだろうか……。信長様に要らない子認定されて、ポイッとされないだろうか。

 ポイッとされるだけならまだいいが、斬られるのは勘弁してほしい。

 神様、僕を見捨てないでください。どうか、どうか、よろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
粕取り焼酎いいですねぇ。九州ではなく東海が本場になる世界線。吟醸酒粕焼酎とか最高じゃないですか。 え?吟醸まで精米技術が追いつかない?そもそも消毒用で飲まない? ・・・(◎-◎;)・・・
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