ゴリラ対ゴリラキラー
暗いジャングルに、重低音のような鼓動が響いていた。
ゴリラだ。百戦錬磨、体重250キロの銀背の巨獣。群れを守るため、樹々をなぎ倒し、敵を薙ぎ払ってきた森の王者。
一方、その名を聞けば世界中のゴリラが、そして密猟者も震え上がってしまうという男がいた。
ーー通称「ゴリラキラー」ーー
人間離れした腕力と、意味不明なほど分厚い胸板。
その噂は「彼が腕立てをすると地面が沈む」というレベルで脚色されていた。
両者は因縁に導かれるように、ついに出会った。
「ウホォォォッ!」
ゴリラの咆哮が空気を震わせる。樹木の葉が一斉に舞い落ちる。
「フッ、いい声だな……お前の雄叫びで、俺の血が騒ぐ。」
ゴリラキラーは上着を脱ぎ捨て、丸太のような両腕を構えた。
ゴリラが先に動いた。
大木を片手でへし折り、槍のように投げつけてくる。
ドゴォォォォン!
「ぬるい!」
ゴリラキラーは拳でそれを粉砕。破片が散弾のように飛び散る。
「ウホッ!?」
ゴリラは思わず二度見した。
人間の拳が丸太を砕くなんて、そんな漫画じみたことがあるか、と。
だがゴリラも森の王。黙ってはいない。
胸をドンドンと叩き、筋肉を膨張させると、体が倍近くに見えるほどの威圧感を放つ。
「ウホホーイ!ウッホホーイ!【来いよ、人間!】」
「上等だ、獣!」
両者、同時に飛び出した。
その瞬間、地響きが村まで届いた。
後に村人たちはこう語る。
「森が一夜でなくなった」
「月が震えて見えた」
「凄まじい爆発音がして怖かった」
「ただ、ただ…凄かったんだ」
ゴリラとゴリラキラー。
どちらが勝ったのかは誰にもわからない。
そもそも森の中で何が起きていたのかすら知る由もないだろう。
ただ、ゴリラとゴリラキラーが戦ったのではないかという噂だけが残った。
戦いの行方は、伝説という名の霧の中である。