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間取り変化式住居

「マリー、そういえば、この学園には生徒は何人くらいいるんだ?」


ずっと気にはなっていたのだ。

こんなに広いのに、こんなに綺麗で、きっと過ごし易やすいのだろう場所に、人の気配が殆どないことを。


さっき職員室の前で会った少女1人きり、それ以降はパタリと人と会う事がない。

それどころか、遠くに人影を見かける事すらないのだ。


いくら今が春期休暇中といっても、この学校は全寮制だし、こんな真っ昼間なのだから、みんな寝静まってるなんて事はないだろう。


それなのに、窓から人の姿が見える事すら一度もないというのは、どう言う事なのだろうか。


「うーんと、1000人くらいだったと思うのです」


「そんなにいるのか、それにしては校舎が静まり返ってる気がするんだけど」


「みんな帰省してるのです。新入生さん達は入学式の1週間前から入寮出来るのですけど、2年生のみんなには入学式の日はお休みなので、ギリギリまでお家にいる子が殆どなのですよ」


「だからこの時期は毎年、少し寂しくなっちゃうんです」と答えたマリーに、続けて疑問を投げかける。


「それにしても、もう始業の2日前だろ?

家が遠かったりする人はもう学園に帰って来てたりしないのか?」


「寮のお部屋から、自分のお家までの転移魔法陣があるのですよ。

教育方針の都合もあるので、いつでも使える訳ではないのですけど、双方向の魔法陣なので、みんな始業式の朝まで帰ってこないのです」


「流石になんでもあり過ぎないか!?」


家まで行ったっきりそのまま帰ってこないなんて奴もいるのではないか、もしそれが叶うならこの学園生活は案外早く終わりを迎えるかもしれない。


「ちなみに、魔法陣は強制的に使った人を始業日の朝に寮のお部屋まで呼び戻す機能もあるのです。

毎年、特に新入生の皆さんは長期休暇にこれを使って帰って来ない事が良くあるのですよ」


どうやら短い夢だった。


そんな話をしていると、マリーの案内もあり、僕たちは、程なく立派な洋館に到着した。


「お待たせしたのです、こちらがロッソリオン寮なのです!」


両手を広げて、小さく胸を張るマリー。


今日は驚きっぱなしだ。まさか実家より大きい洋館が寮だとはここに来るまでは微塵も思わなかった。


赤いライオンをモチーフにしたであろう旗が洋館の三角屋根の上ではためき、一体何室あるのか数えるのが大変なほど多い窓からは、一室一室がかなり大きな空間を持っている事が分かる。


「寮は全室個室ですが、執事や侍女はいないので、身の回りの事は自分でお願いするのです」


「あ、あんまり部屋が広いと持て余すかも知れないんだけど」


「お部屋の中で魔法を使えば広さを自由に変えられるので、大丈夫ですよ」


一体この学園はどれだけ規格外なのか。


両親が教育熱心だったこともあり、自分のことをある程度常識がある方だという自負があった分、その常識を覆されるような事が立て続けに起こり過ぎて眩暈がして来た。


「早速中に入るのです」


「ちょっと待ってくれ」


歩き出そうとするマリーを止めて、深く深呼吸をする。


これから先、もう何があっても驚きはしない、そんな強い覚悟を持って臨むためだ。


例えば寮の中に本物のライオンがいるとか、例えば中は見かけより更に広いとか、そんな事を想定して、自分の心をケアする為に、僕は大きく息を吸い、そして吐き出した。


首を傾げて待ってくれているマリーに、「よし、行こう」と短く告げて扉に手を掛ける。

ガチャリという小気味良い音と共に滑らかにドアが開くと、その先の光景に、僕は目を奪われた。


広いなんてものじゃない、天井には大きなシャンデリアが輝き、部屋の真ん中には階段が伸びており、更には空間の隅々まで細かな細工が行き届いている。

まるで王城の玄関口に入ったと錯覚する様な絢爛さに、僕は思わず手で顔を覆った。


結論から言おう。深呼吸の意味など無かった。


「どうしたのです?レイモンド君」


「いや、何でもないよ、ちょっと頭がおかしくなりそうなだけさ」


「えぇ!大丈夫なのです!?保健室に案内するのです!?」


「今は新しい場所より、早く部屋に行って休みたい気分かな」


「分かったのです、お部屋に案内するのです!」


マリーはその小さな手で僕の手を掴み、階段を駆け上がって部屋まで連れて行ってくれる。


広間を上ると、そこには扉がズラリと並んだ長い廊下があった。


マリーは迷いなく扉の一つを開けて、僕を

えいや、と中に押し込む。


「何かあったら私を呼んでくださいなのです、どこにいても飛んでくるのです」


ついさっき宙に浮かんでいた少女の言葉は説得力が違う。


とはいえ、こんな小さな少女がボールが何かの様に何処からかぶっ飛んでくるかと思うと少々申し訳ない。  


「ありがとう、覚えておくよ」


一生懸命に手を振って部屋を出ていくマリーを見送り、そのままベットに倒れ込む。


部屋の中は外に比べて質素で、机と棚、クローゼットが1つに、ベットがあるだけ。

しかし各家具には細やかな細工が施されており、決して安物ではない事が見てとれる。


「少し広いかもな」


体を起こさず、目だけで部屋を見渡すと、1人で過ごすには少し広く感じた。


マリーが言っていた、部屋の広さを変える魔法は一体どうすれば良いのだろうかと、ベットから起き上がり、目に留まった机の引き出しを徐に掴む。


中を見ると、1冊の薄い本が入っていた。

本には、室内の温度を変える魔法や、灯りをつける魔法、天気や気温を教えてくれる魔法なんてものまで載っていた。


「この学園はどこまで、お、あったあった」


ページを捲っていくと、【部屋の広さを変える魔法】という項目を見つけた。

説明文には簡潔に、想像通りの広さや間取りに部屋の中を変えられる、と書かれており、ページの横に指を置く様に指示書きがあった。


指示通りに親指をページの横に置くと、本が光を帯び始め、部屋の中心から円形の幾何学模様、魔法陣が広がる。

小さく感嘆の声が漏れたのも束の間、部屋中が軋む様な音と共に壁が狭まり、想像通りの大きさで収縮が止まった。


「はは、凄いや」


ふらつきながら再びベットに倒れ込む。


今日は驚きっぱなしで疲れた。肉体的にではなく、主に精神的にだ。


持ってきた荷物から明日の制服の用意や、これから過ごす事になる部屋の準備などをしなければならないのは重々承知していたが、今ばかりは少し休みたい気分なのだ。


知らない天井を見上げながら、ゆっくりと目を瞑る。


段々と意識が落ちていく中で、ふとマリーが言っていた言葉を思い出す。


何処にいても飛んでくる、というのは、例えば寝言で名前を呼んでしまった時はどうするのだろうか。


そもそも、部屋の中にいる時に名前を呼んでも聞こえるものなのだろうか。


学園を管理している、とは言っていたが、マリーが具体的に何をしているのか、何をどこまで管理しているのか、僕は何も知らない。


つい名前を呼んでみたくなってしまうが、それで本当に飛んで来て貰っても、きっと僕はすぐに眠ってしまうだろうし、それは彼女にとても失礼だろう。


今度、予めお菓子でも用意してから呼んでみよう。


そんな事を考えながら、僕の意識は落ちていった。

お待たせしました第3話!

更新頻度をあげるかも知れない、そんな予感を秘めた第4話を乞うご期待!

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