六話
本日更新2話目です
「えっと、ただのホワイトランク冒険者。ですか……?どう見ても貴族様にしか……」
王領のとある町の関所にてアイリス達は再び歩みを止められていた。
「私は貴族じゃないわ。冒険者アイリス、そして――」
「師匠のジュンターです」
「イリヤ、です」
「は、はあ……とりあえずこちらへどうぞ」
王領にある町であるため治めるのは貴族たちであり、関所にもキチンとした貴族への対応をする部屋が用意されている。そこに連れられたアイリス達は事前に決めていた設定をただ繰り返すだけであり、裏にいる門兵たちは大急ぎで貴族名鑑を調べていたがアイリス達は厳密にはこの国の者ではないため、半刻ほど取り調べを受けた後、町長の貴族からの許可が出、しぶしぶと町へ入ることが許されたのだった。
「さて、ジュンター。決めていた通りこの町でグリーンランクまで目指すわよ」
「畏まりました。では、私はイリヤを連れて防具を見繕ってきます。くれぐれも殺しはしないようお願いいたします」
「分かっているわよ。消すのは指先二ミリまで、でしょ?」
「……やはり行動は共にしたほうが良いのでは……」
「しつこいわよ、それじゃあ行ってくるわね」
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「はあ……退屈だわー」
「ちょっとクリス、暇しているなら書類の相手して頂戴!」
「先パーイ、あと十分もすれば初心者ランクの人たちが来るのに私が書類の相手していたら受付回らないじゃないですかー」
「くっ……これだから受理能力だけ高いやつは……」
ホワイト、イエローランクは町の周辺で依頼が完結するため昼が終わる頃にはこの二つのランクの冒険者たちで受付が溢れる。クリスは税処理関連ではあまり力にならないが依頼の達成帳簿をつける仕事だけはどの受付嬢よりも優れており、容姿も相まってクリスの仕事は依頼受付カウンター専属のようなものになっていた。そんなクリスの元へ厄介な冒険者が一名やってきた。
「冒険者ギルドはここであっているかしら」
アイリスである。
「はーい、冒険者支部依頼受付カウンターはこちらです。ご依頼です……ほわぁ……」
「ホワイトランクで受けられる依頼って今あるかしら?」
「かわわわ……」
普段見かけないタイプの整った顔立ちにクリスは目を奪われた。
「聞いているかしら、ホワイトランクの依頼を見せて頂戴?」
「かわわ……はっ!? ホワイトランクの依頼発注です……え、観覧ですか?」
「ええ、これギルドカードよ」
ポシェットからアークピクセルで発行したギルドカードを取り出しクリスへと渡した。
「発行……アークピクセル……本物のギルドカードですね……えっと、ご両親がこの町に引っ越しなされたのですか?」
「いいえ?えっと師匠に連れてきてもらってこの町へやってきたわ」
「師匠、ですか」
「ええ、詳しいことは直接師匠に聞いてちょうだい。それより依頼はどこに書いてあるのかしら」
釈然としない思いであるがギルドカードが本物であるため目の前の少女はきちんと手続きを踏んで登録された冒険者である。あとでギルドマスターに確認をとることを心の中にメモをし、ホワイトランクへの依頼書が挟まっているファイルを提示する。
「犬の散歩代理四日間、長期のパン屋の売り子に写本作成……聞いてはいたけれど本当に冒険って感じがしないわね」
「えーっと、まあ……ホワイトランクは言わば信用を集め町の人たちへ顔を覚えてもらうためのランクですから。大昔は冒険者と言えば町から町へと移動し、討伐依頼をこなすと言われていましたが近年の冒険者は一つの町にとどまるのが普通です。そのため武装していても自分たちは強盗ではなく冒険者であると顔を覚えてもらうためにこういった町の中での依頼がホワイトランク用としてあるのです」
「へえ、そうだったのね。おすすめの依頼ってあるかしら」
「まずは写本かギルド内講習をお勧めします。アイリス様はまだ依頼を一件も受けていらっしゃらないようですし、こちらは町の情勢なども分かるためこの町へやってきたばかりというのであればこれらから達成していただくとよろしいかと」
「そうね、じゃあ写本の依頼を受けるわ」
「分かりました。ではこちらが依頼書となります。こちらをギルド二階にいる司書にお見せください」
「ええ、ありがとう」
アイリスは依頼書を持つと受付の横にある階段を昇って行った。
「ふう……武家貴族の出かな……?先パーイ、次あの人が来たら任せていいですかー?」
「いやよ、クリスが顔覚えてもらったのだしあなたが対応しなさい。先輩命令よ」
「えー! パワハラだー! でも可愛かったなぁ……」
ブーブーと文句を言うクリスだったがすぐに受付が混み始めたため自分の職務を全うするのであった。
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