五話
昨日は体調を崩しており更新できず申し訳ございませんでした……。
――王領関所
ウィストン領から王領への関所で再びアイリス達は足止めをされていた。アイリス達がウィストン領の町長の目を嫌い無言で立ち去ったのが原因だが……。
「あー、えっとアイリス様、で合っていますでしょうか」
「ええ、そうよ。それにしてもこの国は壁が多くないかしら。ねえジュンターそう思うでしょ?」
「魔物の匂いからして拠点が多くないと国が維持できないのでしょう。一族の方々のように個々に優れていないので兵を派遣するのです。そうして民が――」
「分かったわ、分かったのよジュンター、私が気にするべきことじゃなかったのだわ。私は上位者であっても統治者ではないのよ」
「えー、カールハイトからどこの町からも来訪されたとの報告もなく、カールハイトからの旅路にしては到着がお早いようですが……?」
歩けば歩くだけ景色が徐々に変わることで、引きこもりだったアイリス、生まれたてのイリヤの興味が次々と移り変わり退屈をせず休息をとる必要のない三人だったための旅程だった。休息をとる必要がないことが考えられない人間からしてみればありえないような日数である。そしてアイリス達が立ち寄った場所で普通の宿をとっていたのであればよかったのであろうが、泊まっていた場所は町長や領主の屋敷であり建国の際に色々と取り計らってもらった相手であることは町長以上の立場になる人間であれば必ず習うことであるため、ある一定以上の地位の人間たちは大騒ぎをしている。特に大騒ぎしているのは王領に住まう貴族たちであり、来ているのが凪の平原の一族のアイリス達の一行が確認されているのが二人だけであり、ただの取引をしに来たのか、はたまたまさか婿を探しに来たのか、目的が分からないためだ。
さて、そんな迷惑人物が消息を絶ち次に現れた場所が最も混乱している王領だ。せめて二つ、いや一つでも王領の前に町を経由してくれていればもう少し混乱も制御できていたであろうが現実は非情……というかアイリス達が非常識であった。
「別にいいじゃない。門兵の装備も最初は珍しかったのだけれど、この辺りの門兵は代り映えしなくて退屈なのよ。通してちょうだい?」
「お、お待ちください。現在王領では混乱が生じており……」
「どんな混乱かしら?私達に関係あるの?」
聞いていた門兵たちの心は一つ「あなた方がその混乱です」と。それを本人に言えたら門兵などより商人になったほうがいいだろう。
「ふむ……お嬢様、どうやら混乱は私たちの存在のようですね」
「あら、そうなの?」
(((はい、そうです)))
と、門兵たちは口から出さずに声が出ていた。
「あら、あらあら大変ね。私たちの存在……ね。一族のことかしら?別に気にしなくていいでしょうに」
「お嬢様は一般的な国に与したことがないのでそう感じるのでしょうが、一般的に建国に関わったという事実だけで影響力があるのですよ、あ奴の時を覚えていらっしゃるでしょう」
「確かにそれはそうね……あの人も国が付いてきて煩わしいって言ってらっしゃたものね。――そうだ、妙案を思いついたわ。ほら、これ身分証よ。これで私は一般的なホワイトランクの冒険者、王領の騒ぎとは無関係な普通の冒険者。そうでしょう?」
「い、いえっそういう訳にっ――」
アイリスの滅茶苦茶な提案に食い下がる門兵だったがジュンターが優しい声色で遮る。
「諦めたほうがいいですよ。あなた方の権限ではもはやどうにもなりませんよ」
優しい声色で話しかけているがやっていることは悪質な脅しである。通さねば王族並みの権力を持った人物の言に背き、通せば自国の王族らから責められることになる門兵たちは、問題を天秤にかけ普段仕事で口うるさいだけの権力を持った人物に席を擦り付けアイリス達の提案を飲むのだった。
こうしてアイリス達は意気揚々と王領へと足を踏み入れるのだった。
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「さてお嬢様、私は今大変感激をしております」
「あら、なぜかしら」
「ホワイトランク冒険者として入領なされたということは、お嬢様もようやくご自身でお金を稼ぐ気になられたのですね」
「あ、そうね。別に私としてはこのまま王城に泊まってもいいのだけれど、普通の冒険者は自分で宿をとるのだったわね」
王領の町へ行く途中、ジュンターが突然感極まったかのように声を漏らした。
アイリスは我儘ではあるが馬鹿ではないのだ、ただ人間の常識が欠けているのであるが。
「それじゃあ、ジュンター。これはあれね、本格的に冒険者として動くわよ!」
「畏まりました。ホワイトランクですと、見習い扱いなので町の清掃、写本が主な仕事となります」
「討伐依頼は無いのかしら?常設討伐とかもあったはずだけれど」
「常設討伐依頼はグリーンランクから適応されます。簡単にランク別の依頼内容をご紹介いたしますと、ホワイトランクは町の中での依頼のみ、イエローランクは薬草採取など町の周辺での作業、グリーンランクから町の外での活動が本格的に始まります」
ジュンターからの説明で、少し前に絡んできたグリーンランクの冒険者は一応下積みが終わったランクだったのかと拍子抜けしたかのようなアイリスだった。
「それなら早くグリーンランクまで上げなければいけないわね」
「……私の目の届かぬところでいったい何をなさるおつもりですか」
「そろそろ私も独り立ちしていいと思うのよ。あ、イリヤはちゃんと連れていくわよ?」
「ん、お姉ちゃんと、一緒」
ムギュと抱きしめ合うイリヤとアイリスに碌でもないことになる予感をしながらも、この国では強引に事実を書き換えられるかと諦めるジュンターであった。
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