ミッドウェーの露払い
──ミッドウェー西方、ノーチラス──
(来たか……)
潜望鏡を覗き込んだノーチラスの艦長、ブロックマン中佐は水平線上に現れたマストを見て息を呑んだ。
観察を続ける内に視界に水柱が立つ。
「(雨……じゃない、機銃掃射だ!)急速潜航!30!」
艦長の声に乗員達が動き出す。
機銃掃射から間もなく投下音が響き、身を硬くして衝撃に備える……が、何も起こらない。
(不発か)
脱力したまま深度を維持して10分程経った。
「(追撃、増援は無いか)……潜望鏡深度まで浮上する」
深度に到達して潜望鏡を覗き込むと敵の陣容が徐々に明らかになった。
(コンゴウクラスにクマクラス、それにフブキ以降の駆逐艦か……嫌な奴が)
居る、と思い眉根を寄せた瞬間、目視した航空機がこちらに向かって来るのを見てブロックマンは再び急速潜航と叫んだ。
投下音に続いて全身を包み込む様な音が一定間隔で艦内に響き渡る。
(探信音……馬鹿な、音を通さない変温層の真下だぞ?)
ブロックマンは驚愕に目を見開いたがその疑問が解決する事は無かった。
飛来した航空機──九五式水偵が投下した物は不発の対潜爆弾ではなくソノブイだった。
ミッドウェー近海は日本の勢力圏ではない為ろくなデータが無く、怪しげな物体を見つけたらブイを投下し海象の情報収集に努めていたのである。
探信音もコンゴウクラス──霧島が搭載していたソナーはクラゲすら探知可能な水晶より高性能なチタン酸バリウムに更新され、二発のソノブイと共同で水測を行い水中排水量四千tを超える巨艦、ノーチラスを捉えていたのだ。
赤城から発艦したKMXを載せた九七式艦攻がソナーに加えてKMXや肉眼とのトリプルチェックを行い発煙弾を投下。
対潜爆弾を抱えた零式水偵が続いた。
「霧島より発光信号。圧壊音を探知」
「水偵より入電、『油膜ヲ認厶』」
「うむ、御苦労」
利根に座乗していた阿部弘毅少将は報告を聞き頷いた。
「赤城から対潜哨戒機が出た時点でこちらの意図を汲んでくれただろうが、敵艦隊の捜索は高速な艦偵。
対潜は遅い下駄履きにそれぞれ任せた方が良いな。
向き不向きがある。
例え敵機が来ても電探があるし、引き続き対潜掃討に専念しよう」
阿部はそう言い終えると帽子を被り直した。
チタン酸バリウムを用いたソナー出現でお題から逸脱しましたが既に開戦時では無く、史実では1935年に堺化学工業が酸化チタンの工業生産を開始しています。
日本には実験室レベルですが1942年に発見した米国に続いて1944年にチタン酸バリウムを発見した電気試験所の小川健夫、和久茂が居り、バリウムは北海道や秋田、京都で産出し、チタンは砂鉄精錬時に回収出来る他、潮解性が高いので敬遠していたロッシェル塩を用いた三式聴音機を1年少々で実用化している為、チタン酸バリウムの合成を10年早めれば軍はロッシェル塩より有望と判断する可能性が高く戦時中に完成してもおかしくはないでしょう。
史実では1951年に古野電機が世界初のチタン酸バリウムを用いた魚群探知機を販売しています。




