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通商護衛戦  作者: 雪風
31/35

珊瑚海海戦

「何という事だ」


 フィッチ少将は帰投した第一次攻撃隊の被害報告に軽い目眩を覚えた。


 着艦後の廃棄分も含め十四機を喪失。


 八機が損傷。


 駆逐艦一隻撃沈確実、輸送船と水上機母艦に火災を生じさせたが、被害の割に敵に与えた損害は大きくない。


 攻撃隊隊長のウィリアム中佐は第二次攻撃を要請していたが、フィッチは敵艦載機の出現とニューギニア方面の天候が悪く、現地部隊の航空支援が受けられない事を理由に拒絶していた。


 空母及び艦載機の総数は、現地部隊への補充を抜きにしても日本が質量共に優勢である。


(相手はナグモで無いが、英東洋艦隊の轍を踏む訳にはいかんのだ)


「進路そのまま。オーストラリア本土やポートモレスビーからの支援圏内に入りつつ天候の回復を待つ。


 対空、対潜警戒を厳とせよ」


 フィッチの言葉と共にこの日の戦闘は終わった。



 ──ツラギ北方沖、沖島艦上──



「菊月はやはり駄目か」


「残念ですが……機関部をやられてしまっては航行は不可能です」


 志摩の声に副官はそう答えるしかなかった。


 彼等はガブツ島に擱座した菊月からわらわらと島に上陸する乗員達を見ていた。


「敵空母はレキシントン一隻だけか」


「はい。 捕虜から聴取した内容ではそのようです」


「(予想された空襲も午後だけで機数も一隻と考えれば妥当か)……五航戦は?」


「は。 既にラバウルを発ち、明日には珊瑚海に入る見込みです」


「よし。 日没を待ち菊月乗員を収容した後、ショートランドに帰投する。


 敵空母は五航戦に任せよう。


 対空警戒を怠るな」


「了解」


 翌日は悪天候の為索敵機をろくに出せず、横浜空所属の九七式飛行艇が空母一を中心とする米機動部隊を発見したのは翌々日──五月六日の午前十時の事だった。



 ──珊瑚海北方、翔鶴艦上──



「触接中の大艇からの発信を聴き漏らすなよ、出撃!」


 翔鶴飛行隊隊長、高橋赫一少佐は部下にそう呼び掛けると自らが真っ先に発艦。


 翔鶴からは彼を含め四十一機、瑞鶴から三十七機の計七十八機が出撃した。



 ──レキシントン艦上──



「レーダーに感!大編隊が接近中です!」


「馬鹿な……制空隊に伝達。偵察機に構わず編隊の迎撃に当たれとな」


「はっ」


「艦爆、艦攻も可能な限り上げろ。


 戦闘機は無理でも爆弾や魚雷を抱えた機体が相手ならやりようはある」


 レーダー手の報告にフィッチ少将は一瞬呆然としたが、職務を思い起こし矢継ぎ早に指示を出した。


「七、八〇機は居るぞ……」


 幕僚の一人が呟く。


 偵察機対策の後詰めとして飛行甲板に並べられたF4Fが発艦し始めたが、遠雷のような爆音と共に日本軍機が近付いて来ていた。



 ──五航戦飛行隊──



翔鶴隊(俺達)が先にやる」


 高橋が全隊にそう告げて先行。


 挟撃せんと左右から迫る翔鶴隊に米艦隊は一斉に砲火を浴びせた。


(英艦隊より激しいが、弾幕の密度……いや、射程と発射速度は日本並みか?)


 炸裂と共に生じる衝撃波で風防がバンバン、ビリビリとけたたましく鳴り、機内に硝煙が入り込む中高橋は冷静だった。


 魚雷が命中し動きが鈍った空母に対し、彼が投じた二十五番は五インチ対空砲座を直撃。


 配置されていた兵が全員戦死を遂げ、沈黙した。



 ──レキシントン艦橋──



「汽笛を!黙らせろ!」


「──、──!」


 フィッチは煙突を指差しながらチャックのジェスチャーをし、叫ぶ。


 日本軍の二発目の爆弾が煙突を直撃。


 数分間に渡って煙突付属の汽笛が鳴り響き、艦上と艦橋の相互連絡を阻んでいた。


 至近弾が浸水を増加させていたが報告が遅延。


 気化したガソリンがその間も艦内に充満しつつあった。


 正午前に攻撃が終わり、速力は二十五ノットに落ちたが水平を保つ事が出来た。


 だが攻撃終了から一時間と経たぬ内に大爆発が発生。


 飛行隊の収容は続けられたが午後三時前後に二回大爆発を起こし、夕方に艦長のシャーマン大佐が総員退艦を発令。


 レキシントンは駆逐艦フェルプスにより雷撃処分された。

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