MO作戦と彼我の戦力
坂井が未だラバウルに居た頃、トラック諸島に停泊していた第四艦隊旗艦、鹿島艦上では、同艦隊司令長官の井上成美が渋面を作っていた。
「MO作戦が通ったのは良いが、正規空母は五航戦だけか……」
軍令部から発行された書類に目を落とし、ぼやく。
「そのようです。
その代わり新型機が配備されるとか」
矢野参謀長が応じた。
「新型機? 数は?」
「二十八機の戦闘機と二機の偵察機を空母に改装したばかりの千代田が載せてこちらに来るそうです」
「少ないな。
ポートモレスビーとオーストラリア北東部に展開中の戦力は三百機、内二百機は戦闘機と聞く。
打たれ強いB-17が数十機は混じっている上に来寇する米空母も含めれば五百機近い。
千代田の増援に第四艦隊の二十八機と百二十機、百三十五機を合わせても三百少々。
これだけの戦力でポートモレスビー攻略部隊を護衛出来ると思うか?」
「海上からでは自信が……いえ、不可能ですね。
下駄履きは索敵に使いたいですし五航戦もラバウルも戦闘機の割合は1/3。
五航戦も未来情報を元に東洋艦隊を撃滅してましたから、そのツケが我々に回って来たのでしょう」
矢野は何処か他人事のように述べた。
南雲機動部隊はセイロン沖でハーミーズだけでなくインドミタブル、フォーミダブルも葬り去っていたが、代償に四十七機を喪失。
山口多聞率いる飛龍が最も損害が大きく、僚艦が本土に在る赤城共々搭乗員の練成中だったが、五航戦も定数割れを起こしていた。
「堪った物じゃないがな。
敵は何処までこちらの動きを掴んでいると思う?」
「最前線への指令に関しては、ほぼ筒抜けと考えて良いでしょう。
ブーゲンビル島の占領から一月以上経っていますが、ショートランドで雇った人間の内、誰がスパイかまだ特定出来ていません」
「他にも居るだろうな……。
軍機情報にも齟齬が出始めている」
「齟齬と仰いますとマッカーサーの動向ですか?それともエンタープライズの在り処ですか?」
「エンタープライズの方だ。
マッカーサーはフィリピンが早く片付いたからそもそも当てにならん。
潜水艦からの撃沈報告はタンカーと間違えたか、サラトガのように戦線離脱しているんだろう。
サラトガもヨークタウン型もしぶといからな。
まあ良い。
まずはツラギを叩いて空母を釣り出す。
攻略部隊にはポートモレスビー攻略ではなくニューギニア北岸のマダンからマーカム川経由でラエまで繋いで貰おう」
「軍令部は納得するでしょうか」
怪訝な表情を浮かべる矢野に、井上は胸を張った。
「連合艦隊が……というより山本長官が空母撃滅を主張しているし、敵制空権下で輸送船を使う危うさを四水戦や一航戦が知っている。
援護射撃してくれるさ」
(言っている事は真っ当だが、果たして主張が通るだろうか……)
矢野は井上の政治力の無さを知っていた為、素直に首肯出来なかった。




