狼と消耗戦
──1942年4月、フリーマントル──
(どうすれば良いのだ……)
ロックウッド大佐は頭を抱えていた。
東京空襲で空母を喪った後、ワシントンから太平洋艦隊に向けて潜水艦による通商破壊を拡大するよう督促されていたのである。
だがその命令を受けたハワイの潜水艦隊司令部は機能不全を起こしていた。
上層部が魚雷の不良を認めない事に加え、喪失率の高さもあって潜水艦の乗員は出撃を拒否していたのだ。
開戦時に米海軍は訓練用も含め両洋で111隻の潜水艦を保有。
この内実戦投入可能な艦は85隻で、能力の有無を問わず太平洋に展開していた艦は51隻を数えたが、4月末現在で事故による物も含め24隻を喪っていた。
上記の数字は喪失認定が下った物だけで、日本近海の気象観測の為ドゥーリトル空襲に先立ち出撃したスレッシャーは行動日数限界を超えていない為含まれておらず、実際の被害はもっと多いと噂されている。
(こっちも拒否したいが、そうもいかん。
航続距離の長い最新鋭のガトー級は開戦後に竣工した5隻全てをハワイに回され、フリーマントルに来るのは最低限の外洋航行能力しか持たないロートルのS級潜水艦だ。
だが英国や亡命国海軍にもシュガーボートを何隻か供与すると聞く。
ガトー級だけでなく大西洋からの増援で損害はある程度補填されているが、ハワイもフィリピンもやられ、お偉いさんが主敵はドイツと考えている現状でどれだけ強化出来るか……。
まあシュガーボートが不具合の多いMk14魚雷ではなくMk10が使えるだけ良しとしよう。
奇襲は二度も食らわん。
来ると分かっていればオンボロでも波の穏やかな多島海ならやりようはある)
ロックウッドは背筋を伸ばすと、情報部から提供された資料に目を落とした。
そこにはラバウル周辺の敵の動向が記されていた。